第二章 触手と老人と炎と龍

序文 Glut


それは微睡から目覚めた瞬間、歓喜の声を上げた。


何故ならば、そこに在ったのは

彼らは〝主と舞い踊るものども〟

主の振る舞いは彼らの振る舞い。彼らの喜びは主の喜び。

ならば主の大敵は、彼らの大敵。


故に為そう、主の如く。


だから彼らは挑みかかった。

あらゆるものに平等に、あらゆるものを顧みず。

それはゆえも、親も、愛も、しるべも、むれも知らず、

ただあらゆるものを喰らい尽くさんとした。


けれど彼らは退けられた。

突き立てた牙は引き抜かれた。潜り込ませた体は磨り潰された。


彼らは大敵にとりとって、滅ぼしうる天敵。


それと同じくして大敵は、彼らを滅ぼしうる絶対の強者。


なれど彼らは生き延びた。

敗北の蔑みも、逃走の汚辱も知らぬ、刹那に消える彼らが、

ただ討滅の一念だけを以て


―――異常に。健気に。おぞましくも愛おしく

―――面白い


嗤い声愛情が降り注ぐ。

なれど彼らはそれを知らず。聞こえもしなければ見えもしない。


ただ彼らは、〝それ〟に触れた。


『ミツケタ!』

『ミツケタ!』

『ミツケタ!』


〝それ〟は骸。

千年前の激情の残骸。

掟の前に朽ちた灰。

同胞に愛され、同胞を愛し、故に同胞を喰らい、同胞に未来を奪われたもの。


おお、なれど〝それ〟は、最高の糧。

かつて燃え上がった強烈な意志。

それを宿した強靭な肉体

未だ千年の眠りに抗い燻る、冒涜的な無念。


だから彼らは歓喜とともにその骸を喰らった。

あらゆるものに平等に、あらゆるものを顧みず。

それはゆえも、親も、愛も、しるべも、群も知らず、

だからこそ己も知らず。


果たして骸を喰らったのか

それとも骸に喰われたのか


答えもしない彼らは、けれど答えることができたのならば言うだろう。


〝歓喜〟と。


彼らは大敵を討滅するものども。


故に彼らは己も知らず、そして世界己以外も知らぬ。

ただ一つを燃やし尽くすのも、全てを燃やし尽くすのも、さほど変わらぬ。


そして彼らの次の目覚めはさほど遠くないさほど遠くない

たかだか数年一千年の眠りなど、微睡まどろみに過ぎぬのだから―――



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