8本目 異種交流
§
「かみさまはたべないの?」
ぶん。
「そうなんだ……食べないと元気でないんだよ?」
ぶんぶんぶん。
「え、かみさまは出るんだ……そうなんだ……」
「……ごめんなさい、いちどおろしてもらっていい?」
うにょうにょ。
「えっと、その……トイレ」
うにょうにょ。
「ええと……ね、だから……ね? えー…………とにかくおろしてー!」
「わわ、でっかい……。かみさまよりおっきいよ?危なくないの?」
ぶんぶんぶん。
「そうなんだ、意外に優しいのかな?」
うにょうにょ。
「え、わかんない? ちがう? え、〝優しい〟がわかんないの? ……えっとね、やさしいってのはねー……」
「……かみさまに手伝ってもらったのはね、『
うにょうにょ。
「えっとね、大切な人とお別れすること。死んじゃった人は、大地に帰るの。たしか、えーっと……『すべてのふるさとにしていきつく場所、ばんぶつのゆりかごにしてはかば、せかいをささえすべるおおきみ』、とかなんとか」
うにょうにょ。
「うん、私もわかんない。でも村に来た神官さん言ってたよ。かみさまからきいたって言ってたけど……」
ぶんぶんぶん。
「そっか、かみさまはいってないんだ…………別のかみさまなのかな?」
森の中を進みながら、私は少女に、
とはいえ少女に伝えることができたのは三つ。
横向きに掲げた
縦向きに掲げた
縦向きに掲げた
少女の首の動きを模したそれは、幸いにも少女に理解してもらえた。
それを駆使して、私は少女に果実を与えたりしながら森を進み続けていた。
少女が欲する果実を採ったり、真っ赤になった少女に乞われて時々止まったりしながらではあるが、『
そして明るくなってから
「……あ、あそこ!」
更に
乞われるがまま降ろしてやれば、少女は
「わかりました!かみさま、あっちです!」
少女は指さした。その方向は、今よりも森から離れる方向。
そして少女は私に駆け寄ってくる。私の
私は少女を持ち上げた。けれど私の上には乗せず、そっと遠くに降ろした。
少女はきょとんと首を傾けた。
そしてもう一度私に近づいて触れた。私はもう一度同じ場所に降ろした。
聡い少女はそれだけで理解した。
「……ここまで、ですか?」
少女と話して分かったことがある。
私の考えを、相手に伝えることができないのだ。
だから私は、その術を得る必要がある。できればそれを、この少女から得たい。
けれど、少女はこの先に進まなければならない。
私は、それを
だから私は、横向きに掲げた
それを見て、少女は手を握りしめた。
私は同じように、ただ待った。
そのときよりずっと早く、少女は
「……ちがいますよ、かみさま」
そういうと、少女は手を掲げた。縦に掲げたその手をゆっくりと、左右に振った。
何度も。何度も。
しゃらりしゃらりと土がかかる音が聴こえた、気がした。
「こうやって、『バイバイ』、って言うんです」
それは今の私にはできない。
だからせめて、少女の真似をした。一本の
とつぜん、私の
驚きはしたが、危険は感じなかった。
「…………ありがとうございました、かみさま」
やがて少女はそう言って、私の手を離してくれた。
―――そのとき私の
少女は再び手を掲げて、左右にゆっくりと振った。
わたしも同じように左右に振った。同じくらいにゆっくりと。
長い時間をかけて振り続けた後、彼女だけが、言った。
「バイバイ――――――――――――、またね」
言い終えると、彼女は踵を返した。
遠ざかっていく
―――そうか。あれが『やさしさ』なのか
§
元居た場所に戻る途上、人間たちが居た。
伝える術を得るために、その人間の場所に向かった。
六人ほどの人間が居た。
「【
「バケモノォォォォ!!!」
そう叫びながら
私はいつものようにそれを払った。
結果として、人間たちはすべて人であったものになった。
私はそれを見て、しばし考えた。すぐに考えはまとまった。
攻撃してきた。やさしくはなかった。よって大切ではない。ならば『
私はいつものように、ただその場を離れた。
いつか『人間と係わるため』に、今だけは、森の奥へ。
==================
【あとがき】
少女はこの後町に向かう途上、探索者によって発見され、無事保護されます。彼女が運んだ手紙に基づいた警備隊と探索者合同の盗賊討伐が行われ、無事残党を殲滅します。
また、少女の聴取の中で〝かみさま〟なる
ちなみに、少女が異端審問に掛けられるとか、そんな
あと再登場には10年かかります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます