サンドウィン内乱 01

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【前書き】

前話で色々謎をぶちまけておきながら、しばらく〝人間〟の物語となります。

〝異形〟は出ません。

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【王国】領東部、サンドウィン領にて睨み合う二つの部隊があった。

片方は少数の王国正規軍と、各貴族の私設部隊が参加した連合軍。


対するはサンドウィン貴族家部隊―――別の名を〝反乱軍〟。その戦力はサンドウィン家の私設部隊に傭兵部隊、そして〝義勇軍〟が参加していた。

その〝義勇軍〟がどこから来たのか、それはもはや公然の秘密といっていいだろう。

彼らが王国の東国、200余年あまり領土を争い続けてきた【帝国】から来た軍人達であることは。


王国東方、帝国との国境沿いに領地を持つ由緒正しき伯爵家、サンドウィン。ただし帝国領とは険しい山脈を挟んでおり、部隊の通行はできない。

けれど彼の家は古くから存在し、150年前の〝大内乱〟においても現在の王系に忠節を示し続けたことから重用されてきた。

長く続く帝国との武力衝突においても、戦線の正面を担う東方辺境伯を側面から支えてきた。


にも関わらず、というべきか。それともだからこそ、だろうか。

サンドウィン家は帝国による謀略に巻き込まれた。

現当主の急死――おそらくは暗殺――に端を欲した継承権争いを煽り、内戦としたのが3年前の王国暦998年。


そこに東部以外の貴族家でも似たような内乱が勃発。王国の指揮系統の混乱などもあったが、これまでに東部以外の全ての争いを鎮圧。

そして残るは、今眼前のサンドウィン家のみ。


そしてその部隊を、射殺さんばかりの視線で突き刺し続けるものたちが居た。

そのうちの一人が、〝マルグリッテ・リモニウム〟。

王国南部に領地を持つ、リモニウム伯爵家の第二夫人。齢は31。一児の母。

かつては前々サンドウィン伯爵四女と呼ばれた女性だった。

彼女は女性でありながら鎧を纏い剣を佩き、全身に魔力を滾らせながら、開戦の時を待っていた。


§


王国暦998年秋

王国南部リモニウム家にて―――


マルグリッテ・リモニウムは嫁ぎ先のリモニウム家で、受け取った手紙を潰さんばかりに握りめていた。

それはサンドウィン家の蠢動を記したもの。

そしてそれは王国に帝国の策略が伸びていることと、自分と娘がその渦中に囚われていることを示していた。


自分はサンドウィン家の係累。今回の騒乱に関わっていなくとも、連座対象になる恐れはある。そして此度の内乱――いや、帝国軍を招き入れている時点で、それは王国への反逆罪だ。

王国の指先だけで、リモニウム家に被害が及ぶか否かが決まるだろう。

自分だけならば、いい。だが夫ダーレスとリモニウム家に迷惑をかけることは、マルグリッテには許容できなかった。


そしてもう一つの、最大の問題。

彼女の4歳の愛娘、リリアがサンドウィン領に居ることだった。

夫を失くして伯爵家から引退した祖母への顔見せと、初めての一人旅を経験するための旅行。間違いなく、サンドウィン家の手が伸びる。

彼女を斬り捨てることだけは、したくない。


けれど今、マルグリッテがリモニウム家を出てサンドウィン領へ赴くことは、対外的にはどうみられることか。反乱に加担したのだと誹られることもあるだろう。


加えて今、夫であるダーレス伯爵は王都へと赴いている。いくら妻であるとはいえ、第二夫人のマルグリッテに私設軍の指揮権はない。彼らもまた、領地防衛の任務がある。である以上、動けるのは自分ひとり。


それでも最終的に彼女は選んだ。たとえ無謀であろうとも、たとえ反逆者と唾吐かれることになろうとも。

自分の娘を迎えに行くことを。


最低限の準備として、文を書いた。

1つは王家及び夫に対するもの。サンドウィン家の蠢動を最短で伝え、自分がこの反乱に加担する意思がないことを示す。

そしてもう1つ。王都公爵家の女性当主――かつての王国第二王女にして、私が剣を捧げた相手。彼女へ今回の反乱の情報に加え、自分が娘のために単身サンドウィン家へ向かうことを伝える。そして王家と夫への手紙をそれに同封し、最短で届けることをお願いする。

その手紙をリモニウム家の騎士に任せ、最短で王都へと運ぶように伝える。

それが私の、精一杯の保身だった。


それから私は、私付きの侍女に手紙を書くように命じた。東方辺境伯三女と結婚した兄と、東部子爵家に婿入りした弟へ、今回の件を伝えるものだ。

そして書き上がるのを待つことなく私は乗馬服に着替える。体に沿うズボンとシャツだ。それから手当たり次第に食料を詰めて、その背嚢を背負う。そして立てかけてあった剣を握る。一般的なものより刃が長く、90cmほどの刃渡りの片手剣。第二王女の近侍騎士を引退したあとも、リモニウム伯爵家に嫁いだ後もずっと整備しながら振り続けてきた剣は、しっかりと私の手に馴染んでいる。

剣を帯びた私は更にその上から外套を羽織る。予備と娘用の外套も背嚢に突っ込む。そして厩舎で半ば強奪するように一番の名馬を捕まえ、それに飛び乗った。体内魔力オドを使って自然魔力マナを変質させる。火属性の魔法[活力]を、馬に与える。


元第二王女近侍騎士にして〝紅蓮〟と称された王国有数の魔法騎士は、その二つ名の由来となった紅い瞳と赤みがかった金髪を風に乗せ、一路サンドウィン領を目指した。


食事を除いて昼夜を徹して走り続けた彼女は、寸でのところで娘リリアを確保。

その際に敵の馬を奪って、すぐさまリモニウム領へと取って返した。


しかし復路でリモニウム家の私設魔法騎士部隊の追撃を受け―――

そして、アラオザル大森林の辺縁にて、〝異形〟と出逢うこととなる。


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【添え書き】

〝この世界〟では瞳の色が遺伝しません。地球と別の法則があるため、地球ではありえないような色彩であったり血縁関係であったりします。

優先される法則については後々言及する場面があります。


あと、単位については基本的に日本の単位を用いています。

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