第7話 子供の夢
山を越えた先、大きな建物が見えた。かなり距離があるのにその建物は視認出来るほどに大きかった。
おそらくアレがヤマザトさんが言っていた基地なのだろう。
風が背中を押してくれる。さぁ、行きな。と言っているかのように優しく押してくれる。
その基地は山と海に挟まれ、滑走路が幾つもあり、森にぽっかりと空いた穴のようで、何だか少し剥げてしまっているかのように見える。
だが、それよりも目を引いたのは、滑走路から離れた海側にある、巨大な長方形の建物だった。中に巨大ロボットでもいるんじゃないかと、少しワクワクする感じは黒い箱に似ている。
滑走路を走り、宿舎のような建物へ向かう。その途中、倉庫のシャッターが1箇所だけ開いているのが見え、ハンドルをきって行くと、中には見たことある飛行機があった。
バイクを止め、中を覗くがヤマザトさんは居なかった。少し期待していたのだが残念。
「――ハルキ君かい」
背後から急に言葉が飛んできたせいで、身体がビクッと飛び上がってしまった。振り返るとタオルを首に掛け、汗を拭うヤマザトさんの姿があった。
「あ、えっと、こんにちは」
「こんにちは、まさかこんな早く来てくれるとは思わなかったよ」
「もしかして、お邪魔でした」
帽子を取りながら、迷惑をかけてしまったのだろうかと不安になってしまう。
「そんな事はないよ、来てくれてありがとう。ここじゃ、暑いから室内に行こう」
その提案は大賛成だ、日陰に居ても汗が首筋を流れてしまう。こんな場所から早く離れて涼みたい。
頷き、ヤマザトさんの案内でオアシスへと向かう。
室内に入るなり、冷たい風が熱気によって暑くなった身体を急激に冷やす。その瞬間、意識が白く消えるのが分かった。
額がひんやりと気持ちいい。眠りから覚めるように目を開ける。
「やぁ、目が覚めたかい」
ヤマザトさんの声を聞いたとたん、自分が気を失った事を思い出す。
「急な温度変化に身体がビックリしたみたいだね」
そうみたいです、と答え水をもらう。
「すいません、ご迷惑をおかけしてしまって」
「気にしないでいいよ。君と僕はこの世界で目覚めた者同士だからね。言わば仲間だよ、だから迷惑だなんて思わなくていいよ」
あぁ、この人はとても嬉しいんだ、仲間を見つけたことが、1人でないと分かったことが、だからこの親切は感謝の証なのかもしれない。
私は1人が好きで、1人でいることが多かったから余り理解はできないけど、孤独を感じ続けるのはとても辛いことは理解できる。
「お水、ありがとうございました」
「体調はもう大丈夫かい」
と、やはり私の身を案じてくれる。
「よかったら見せたいものがあるんだけど、どうかな」
喜んで、と言うなり私は傍らのカメラを首に掛け、準備ができた事をアピールする。
「それじゃぁ、行こうか」
医務室を出た後、ヤマザトさんに連れられたのは、来るときに見た巨大な長方形の建物だった。
目の前まで来るとその大きさは際立つ。回りに比べられるものがないせいでそう錯覚するのかもしれないが、それでもこの建物は大きく見える。
「見せたいものはこの中だよ」
そう言うとヤマザトさんは壁の小さなパネルを操作すると、壁が横に開き、日差しを中へと呼び込む。
それは巨大な筒が幾つもくっついていた。重厚さと力強さを感じる。
宇宙ロケット。写真では見たことがあるが、実際にこの目で見ると圧迫感を感じる。
「子供の頃、宇宙飛行士になるのが夢だったんだ」
呆気に取られる私を余所に、ヤマザトさんはロケットから目を離すことなく続ける。
「これに乗って宇宙に行こうと思ってる」
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