第5話 孤独
高速道路だった場所を走りながら青い空を見る。雲ひとつない空、黒い箱を探すが空のどこにも見当たらない。道路に散らばる小さな破片を避けながらそんなことを考える。
だいぶ街の中心部から離れたところで前方の道が無くなってるのが見え、直ぐにブレーキをかける。
バイクを停め、無くなった道路を見下ろす。そこには隣のビルが横たわって、道路の残骸を押し潰していた。
どうしたものか。引き返して別の道を探すか、ジャンプ台でも作って向こうまで飛ぶか、距離的には飛べなくもないがもしものことを考えるとこの案はやりたくない。かといって、戻って別の道を探すのも大変。
街の至る所に建物の大小さまざまな瓦礫が散乱していてバイクで行くのは一苦労する。だから高速道路を選んだ訳だがここもこうなっていると街の外に行くのは歩いてじゃないと無理かもしれない。
もうだめだ、と道路に寝っ転がり文句をぶちまけようとしたとき、胸の上のカメラがずり落ち硬いコンクリートとぶつかり鈍い音がした。直ぐにカメラを拾い上げ、壊れていないか確認する。傷はついていなかったが念のために動作の確認をする。
近くの適当な瓦礫を撮る。直ぐに現像された写真が出て、その写真も確認する。別に荒れてもいなければ変な物が写っている訳でもなかった。確認した写真を入れ、道の端に投影する。実物と何ら変わらない瓦礫が投影され一安心する。
フー、と安堵の息が漏れる。そこであることに気づく、このカメラを使って道作ればいいじゃないか。
どうして気付かなかったんだと自分を呪い、どう道を作るか考える。
周囲を見て考えた結果、道路を壊したビルを投影して積み重ねることにした。
早速撮って投影しようとするが、なかなか奥行きの調整が難しく手こずるが、なんとか上手い具合に道が作れた。多少の段差はあるがこれぐらいなら問題はない。
段差を乗り越えビルの壁を走って向こうの道に到着した。
思えば、橋を作って渡るという考えに至るまで少し時間を掛けすぎてしまった。
その後の道のりは魔法のカメラを使って段差や大きな溝を乗り越え、順調に街の外に近づいていた。少しずつビルの背は低くなり、視界が開けてきた。
高速を降り、土塊が転がる道を走る。
ガタガタとハンドルがとられないように気を付けながら小高い丘を登り、平坦な場所に着いた。
バイクを停め、振り返ると街が一望できた。
小さな盆地に作られたその街は、ここから見るに何も変わらない普通の街に見える。崩れたビルも建物に巻き付く植物も余り目立たない。
周りを見るに山や森ばかりで湖もなければ海もない。
海が近くにあれば海水浴が出来たのに、と落胆する。
街の周囲には人の営みなど全く無く、まるでこの街は人間社会から切り離されたかのように思えてしまう。
誰も居ない、何も居ない。私だけが存在する世界。
外から街を見る、という目的が達成された今、直ぐに別の目的が見つかると思っていたけど、街を見たことで自分は1人なんだという孤独が重くのし掛かってきた。
今までは誰かはいる、何とかなる、と楽観視していたが、何故か、どうしてか空虚さが溢れ出てくる。
人は本当に自分が1人だと知った時、これ程までに無気力になってしまうのか。
帰ろうという気力も無くなり、全身を草木に沈める。
空は私の心を写したかのように、空っぽだった。
心地よい日射しと草木の匂い、頬を撫でる風が夢の中へと誘う。
沈んだ意識を邪魔するかのように騒々しい音が鳴り響く。
何事かと、目を覚ますと、頭上を飛行機が飛んでいた。
さっきまで自分以外誰も居ないと嘆いていたのに、現実は掌を返すように希望を見せる。
それは風を叩くようにプロペラを回転させながら、街の上空を飛んでいる。
両腕を大きく広げ、体全体を使って「おーい」と叫ぶが、気付く気配はない。
どうにかして私の存在に気付いてもらわないと、こんな機会はないかもしれない。
こっちに来た時に草原を走って気付いてもらうか、ガソリン撒いて草原に火を着けるか、等と考えたが前者は別の方角に飛んで行ったら気付けなく、後者は風向きで自分の方に火が来るかもしれなく危険。
どうすればいいか悩んでいると、白い箱の事を思い出し、直ぐに荷物から取り出す。
プロペラ機は街の上空をもう一周回ろうとしてるところだった。
私はそれを真上に構え、引き金を引く。
それはペットボトルロケットを打ち上げたかのように赤い光を持ち上げていった。
この赤い光がパイロットに見えていることを祈りながらその時を待つ。
すると、早速祈りが届いたのか、飛行機がこちらに旋回し向かって来る。
だんだんと大きくなってくる影を見つめながら思う。こっちに突っ込んで来る?
急いでバイクに股がり、飛行機とは対角線に走り距離を取る。
十分な距離を取り振り返ると、飛行機は草原に突っ込み、プロペラは草を切り裂き、車輪は地面を押し潰しながら徐々にスピードを落としていき止まった。
飛行機が通った跡はまるで耕されたように綺麗な土の山が出来き、整えられた草原に傷痕を作った。
僅かな警戒を持ちながら着陸した飛行機に近づく。
誰かが居る。ただそれだけで嬉しかったが、その人物が暴力的な人間だったらどうしよう。などと、考えていると、ハッチが開き無駄に伸びた髪を後ろで縛った男性が降りてきた。
「さっきの信号弾、上げたのは君?」
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