第3話 最初の夢
部屋に戻ると、リュックの中身をテーブルの上に置き、またすぐに部屋を出た。
マンションの屋上に上がるとすぐに、さっきの黒い箱は見えないかと空を見上げ探す。
どんなに目を凝らして探しても、白い雲しか見えず、黒い箱どころか鳥の1羽も見当たらない。早々に諦め、先ほど撮った黒い箱の写真を手すりにより掛かりながら眺める。
正方形の黒い箱。何の飾り気もなく、ただただ黒く硬い印象を受ける。漂う箱。そう、飛んでるでもなく、浮いてるでもなく、雲のように空を漂っている。そうとしか思えず、そうとしか見えなかった。
写真を空に掲げ、ポツリと言葉がこぼれる。
「なんだろう、これ」
そろそろ、部屋に戻ろうと手すりに体重を掛けた瞬間、バキッと手すりが折れた。
遠ざかる空を見下ろしながら落ちていく。手すりの腐食がかなり進んでいたのか、私の体重が重かったせいなのか、絶対前者だと思いながら地面に激突し、私の意識は粉砕した。
目を開けると、一度見たことある天井だった。この世界で目覚めた時に見た天井。
体を起こし、周りを見ても目覚めた時と何も変わっていなかった。しいて言えば、椅子に私の寝間着が掛かっている程度。
首に下げてあるカメラを手にし、何も異常はないかと確認する。異常はどこにもなかった。さっきのは夢だったのかもしれない。
それにしても、自分が死ぬ夢なんか見るなんて縁起が悪い。別に縁起やジンクスを気にしてる訳じゃないけど、自分が死ぬ夢を見るなんて気分がいいものじゃない。ましてやあんなにはっきりとした夢なんて、もう一度見たいとは思わない。
部屋を出て、リビングで水を飲む。テーブルの上には、多くのカップ麺と飲み物が置いてある。
荷物を置いた後、疲れて寝てしまったみたいだ。そういえばあの黒い箱はなんだったんだろうか。
上着のポケットから写真を取り出そうと手を入れるが、中は布の感触だけで、何も入っていなかった。別の場所に入れたのかもしれない。全てのポケットを探るが、どこにも写真は見当たらない。部屋中探しても写真は1枚も見当たらなかった。
まさかあれも夢だったのか。魔法のカメラがあるのにアレが幻だったなんてありえない。
今でも鮮明に思い出せる。あの圧倒的な大きさ、光を飲み込んでいるかのような神秘的な黒、それは神様が創ったかのように圧倒的な存在感を放ちながらも、自然との調和を崩す事無く、空を漂っていた。
あの時の光景は私の目に焼き付いている。だから写真はどこかにあるはず。もしかしたら戻ってくる時にでも落としたのかもしれない。だったら、直ぐに探さないと風で飛ばされて見つける事が出来なくなってしまう。
靴を履き部屋を出て、マンションの入口に向かいながら写真は落ちてないかと探す。
マンションの入口前に来たが、まだ見つからない。さっきのコンビニまで行って探そう。そう思って扉をくぐると、入口前に錆び折れた手すりが転がっていた。戻って来た時には落ちていなかった物が、今、目の前にある。しかも、私が探しに来るのを待っていたかのように、その手すりは風で飛ばされないように写真の上に乗っていた。
すぐに手すりをどかし、写真を手に取る。どこも破れてはいなかった事にホッとする。
しかし、なぜこんなところに手すりが落ちているのだろうか。なんだか、さっき見た夢のようで気味が悪い。
道路脇の瓦礫の上に手すりを投げ捨て、この事は考えず、忘れることにした。
さて、もう一度街で食糧を探しに行こう。ついでにバイクか、最悪自転車を探そう。あれば、移動が楽になるし、
今後の目標としては、食糧を確保しながら移動手段を見つけ、一度街の外に出てみる。その後の事はその時に考えればいいか。
目標を改めて見据えた事で、やる気が出てきた。
今度は無くさないように写真をしっかりとポケットに入れ、リュックを取りに部屋へ戻る。
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