第6話 春を待つ丘
薄暗くなった空から、灰色の雪がハラハラと降っています。
働き者の兵隊アリたちが雪の中、食べ物をさがしてイチ! ニイッ! サン! イチ! ニイッ! サン! と行進しています。
でも――今にも消えいりそうな小さな声です。
それもそのはず――兵隊アリたちは何日もご飯を食べていません。
いつまでも降り続ける雪のせいで、巣に
見わたす限りの雪景色。
どんなに探しても、こんなところに食べ物なんて見つかるはずありません。
先頭を歩いている隊長アリに、二番目を歩いている兵隊アリが声を掛けました。
「これ以上進むと家に帰れなくなってしまいます。もう帰りましょう!」
隊長アリは、ふり返って言いました。
「お腹を空かせて待っている子供達の為に、もう少しだけ前に進もう!」
アリたちはもう少しだけ前に進むことにしました。
二番目を歩いている兵隊アリに、三番目を歩いている兵隊アリが声を掛けました。
「雪が激しくなってきました! このままでは遭難してしまいます! もう帰りましょう!」
二番目の兵隊アリは、ふり返って言いました。
「子供たちが、沢山の食べ物を持って帰ってくれると信じているんだ。もう少しだけ前に進もう!」
アリたちはもう少しだけ前に進むことにしました。
三番目を歩いている兵隊アリに、四番目を歩いている兵隊アリが声を掛けました。
「暗くなってきました! このままでは帰り道が分からなくなってしまいます。もう帰りましょう!」
三番目の兵隊アリは、ふり返って言いました。
「折角ここまで頑張って来たんじゃないか。せめて、あの杉ノ木の丘まで進もう!」
アリたちはもう少しだけ前に進むことにしました。
先頭を歩いている隊長アリに全員が声を掛けました。
「……もうだめです! 体が凍りついてきました……もう歩けません!」
やっと行進を止めた隊長アリは、ふり返って言いました。
「みんな……ごめんなさい……」
隊長アリはその場に座りこむと、みんなに向かって頭を下げました。
「どうしたのですか?」
いつも元気な隊長アリの弱々しい姿に兵隊アリたちは驚きました。
「我々が、あのまま巣にいたら……食べ物は直ぐに無くなってしまうんだ……」
隊長アリは、ゆっくりとみんなを見渡しました。
「でも……子供たちだけなら春まで生きのびられるかもしれない。だから我々は……」
隊長アリは涙で声になりません。
兵隊アリ達は、隊長アリがどうして行進を止めなかったのか初めてわかりました。
春が来たら子供たちが、この杉ノ木の丘に色とりどりの花を沢山、沢山添えてくれることでしょう。
子供アリたちの
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