心太物語

「今回は少し趣向を変えてみようかと思うんだけど。」


彼女が唐突に話出した。いつもの事だ。


「前回の詩は趣向を変えたつもりはなかったんだな?」


「あれは私の心の叫びよ。」


「だとしたら心配の一言だよ。」


「トコロテンって心に太いって書くの知ってる?」


「おっ。俺の心の叫びは無視か?

まぁいい。確かに心太と書くね。」


「調べたところ、最初はそのまま『ココロフト』と呼んでいたらしいわ。」


「へ~。」


「それが徐々に訛って『トコロテン』になったそうな~。めでたしめでたし…。」


「昔ばなし風だな。めでたくもないぞ。」


「…で、思ったワケよ。」


「何を?」


「心太に心的要素がないし、太くも…というか、むしろ細いし。」


「確かに。まぁ、細いっていうのは何と比較してなのか何とも言えないけどな。それで?」


「私は心というキーワードから物語を感じるワケよ。」


「うんうん。」


「…で、考えてみました。心太物語。」


「?調べたんじゃなくて考えてきたのかい?」


「趣向を変えてみたって言ったじゃない。」


「予想も出来なかったよ。」


「昔々ある所に与平という商人がおりました。」


「あ…。始まった。」


「与平は大陸から渡って来た物を仕入れて売る事を生業にしておりました。そんなある日、いつものように大陸から来た商船に仕入れに来た与平は乗組員が食べている透明な麺に目をつけました。」


「それらしいのがイラッとするな。」


「それを買いたいと与平は申し入れましたが、これは売り物ではないと断られてしまいました。

 しかし与平は何度も何度も頼み込み根負けした乗組員はついに与平に売る事にしました。

 それだけでなく与平はしつこく材料や製法まで聞き、面倒くさくなった乗組員から聞き出す事に成功したのです。」


「がんばったな与平。」


「そして与平はこの食べ物の名前を聞きました。すると乗組員は『心太』と書かれた紙を与平に渡しました。与平はこの食べ物の名前は心太というのかと思い、心太として売り出しました。

 しかし、乗組員が書いた『心太』というのは食べ物の名前ではなかったのです。

 乗組員が『お前は心が太い。もうウンザリだ。』という意味で付けた与平のアダ名だったのです。

 こうして透明な麺は心太と呼ばれるようになってしまったとさ。」


「少し強引な気もするが意外とそれらしく出来てるな。」


「でしょ?昨日徹夜して考えたんだから。」


「暇なのか?」


「誰かさんがかまってくれないからね。」


「もっと有意義な時間の使い方があるだろう?」


「お前は心が太い。もうウンザリだ。」


「ごめんなさい。」

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