3学期

第1話 新学期のサプライズ

 クリスマス会も終わった後は、すぐに年の暮れ。年内納期の仕事を慌ただしく片付けると機械の清掃をし、29日から学校も正月休みに入ると、俺は巧の家へ通う事になった。そう、約束通りおせちを作るためだ。ババアにいわれて例年嫌々作っていた事を考えると、俺のおせちを楽しみにしている者がいるだけ、その作業は楽しいものとなった。


 そうやって迎えた正月は、昨年までの、上げ膳据え膳でババアの世話に明け暮れるだけの正月に比べ、賑やかで楽しいものとなった。三人の静かな正月になるのかと思いきや、スカ女のみんなが新年のあいさつに顔を出してくれ、俺のおせちに舌鼓をうち口ぐちに褒めてくれる。俺も気分が悪かろうはずがない。


「この黒豆、ふっくらして美味しいわー!」

「煮物も味が染みてて、美味しい!」

「ウチもしーくんに作ってもらえばよかったぁー!」


 ちなみに巧の親父も顔を出し、俺のおせちを食べていった。味は満更でもなかったようで、酒をたらふく飲み、満足そうに食べてくれたのが素直に嬉しかった。


「おじさん、美味しい? なら良かった、作った甲斐があったわ」

「おい、忍っていったっけな、お前、オカマのままでいいからウチに嫁に来いよ。ウチには女を忘れちまったガキがいるから、ちょうど良いんじゃねえか?」

「何言ってんだテメー、アホかっ!」


 ちなみに、ユウコたちのラグビー全国大会は正月にテレビ中継され、俺たちの見守る中、堀尾くんは一試合目から大活躍を続けると、決勝戦で一時逆転となるトライを決めた。その時、俺たちはその口の動きを見逃さなかった。明らかに、タクミーー、と叫んでいた。


「今、言ったよね。巧って?」

「言った、言った、巧、どうする?」

「し、知らねーよ。あのヤロー、アタシを呼び捨てするとはいい度胸じゃねーか!」


 まあ、蓋を開けてみれば、ユウコたちの皇国大付属の圧勝だったわけだが、堀尾くんはプレイヤーとして一皮むけたのではないだろうか。

 悪態を付きつつも顔を赤くし照れまくる巧をネタに、やいのやいのとみんなで大盛り上がり。

 親父さん、巧も女、忘れているわけでもなさそうだよ。


 しかし、正月が明けてしまえば、すぐに3学期の始まりである。去年は何度となくサプライズな仕事をこなしてきた俺たちだったが、3学期最初のサプライズは、お客さんからの1本の電話から始まった。


「セツ姉。ちょっと新しい仕事の件で相談したい事があるから、アタシたちに顔出して欲しいって連絡があったんだけど、今日の午後、時間大丈夫?」

「私は大丈夫よ」

「じゃあ、午後よろしく」


 早速、巧とセツ姉、それと直の3人はその日打ち合わせに行ったのだが、帰ってきた時の様子がちょっと怪しい。

 俺が、どこの会社? 仕事の話どうだった? と話しかけても、何か上の空で、3人でコソコソと小声で相談すると、すぐに皆に集合がかかった。


「作業中に悪い、みんな。ちょっと相談したい案件があるんだ。ちっと手を休めてカフェミリーズに集合してくれ。あ、忍はいい。作業を続けてろ」

「え、なんで私だけ?」

「ちょっと、女子だけで相談したいんだ。男子は遠慮してくれ。あ、オカマもダメだからな」


 何か解せない。未理や美留、中なんかも訝しげにカフェミリーズへ向かった。ちなみに、カフェミリーズは文化祭後、俺たちの憩いの場となり、ミーティング、昼食、打ち上げなど、有効に利用されている。

 

 絶対に近づくなと言われ、1人で作業するのも癪に障るので、久しぶりに校長の顔でも拝んでやろうと校長室へ行くと、いつもの通りうたた寝をする校長の姿があった。


「あれ、下井さん、珍しいね、どうしたの」

「ちょっと、のけ者にされちゃって。オカマは遠慮しろって。私オカマじゃないのに、ヒドイ言い方じゃありません?」

「それはヒドイね、何だってこんな可愛い女の子にそんな事言ったんだろう?」

「・・・? え、まぁ、それはおそらく私が男だから・・・」

「えっ、君、男の子なのかい! まさか!?」

「ちょっとぉ! 先生、ひどいですよ、生徒の性別忘れるなんて! 私、男ですよ、本当に憶えていないんですか?」

「あー、えー、そういえば、いたような気もするね、確か1学期には男の子。どうしたかと思ってたんだんよ、そうか、君がそうだったのか、考えもしなかったよ。ま、どうでもいいしね、そんな事」


 おいおい! どうでもいいって、あんた!


「でも、何だって女の子の格好してるのかは知らないけど、君、自分でも男の子だって事、忘れてないかい? 言葉もそうだが、仕草も雰囲気も、女の子そのものだよ」

「そ、そんな事ないです」

「本当に? なんか、普通に女の子だんだけどな、君?」


 いくらこんな校長の発言とはいえ、少し気になる。そう思われても仕方ない面もあるからな。確かに、自分の頭のなかでは男子のままなのだが、学校でも自宅でも、女子らしくあろうと強く意識していたせいなのだろうか、最近では独り言でさえ女言葉が普通に口をつく事があったりして、危機感を抱いていたのだ。もしかしたら、自分で考えている以上に女子化が進んでいるのかもしれない。

 このまま、ずっとこうしていたなら、思考まで女子化してしまったりして。そうしたら、完全にオカマだな。でも、ちょっと待て? オカマって同性愛者の事だよな? だとしたら俺は違う。だって、男に興味あるか、いやそれは無い。でも、最近女に対して興奮する事とか、あったっけ? それも・・・無い。いやいやいや、多分それは、原因はあいつらだ。あの残念な女子連中のせいで、俺の女子に対する本質的な興味が削がれてしまっているじゃないのか! 

 そうだ、そうに違いない、そう思う事にしよう。はあ・・・。


 しばらくすると、女子だけのミーティングが終わったようで、俺はやるせない怒りを抱きながら、連中の元へと向かった。


「巧、それで、何だったの? 仕事の話なら、少しくらい話してくれてもイイんじゃない?」

「あ、あぁ、まあな」

「セツ姉、どんな話だったの?」

「えっーと、あ、ごめんなさい、私、三日月ちゃんと話があるんだ」

「なによー、みんな!」


 おかしい! みんな明らかに変だ。未理も直も、美留に至っては恥ずかしそうに下を向く始末。

 到底納得がいかない俺は、巧を捕まえた。


「のけ者にされて説明も無しでは、納得いかないわよ? 一体何の話をしていたの? 私には話せないような事? 私に関係があるの、それとも他の誰か? いいから話してよ。どんな話でも驚かないから」

「うーん、何て話したらいいかなー。オマエはこの学校の仕事に対してどう思ってる?」

「何よ、いまさら。それは最初の頃は学校で仕事するってどういう事って反発してたけど、今じゃ借金返しながらでも少し報酬が手元に残ったりして、やりがいは感じているわ。私ができる事は、まだまだだってわかっているけど」

「みんなの役に立ちたいとか思うか?」

「それは、そうよ! 私だって少しでもお金を稼ぎたいし、そのためには、みんなの力になる事が第一だと思っているわ」

「それなら話は早い! 実は今回の新しい仕事には、オマエの協力が不可欠なんだ。何も言わずに協力してくれないか?」

「何も言わずに?」


 ち、ちょっと待てよ! 今回の新しい仕事って何なんだ? 俺の協力が不可欠って、どういう事だ?


「イヤよ! 何の説明も無しなんて!」

「チェッ、だったら諦めるしかねーな。アタシは、これはみんなにとって大きなステップになると思うんだよなー。特に、将来に対してのビジョンとか探る意味では、すごく良い体験になると思うし。実は、今回の仕事はコーモン先生の所の設備を利用させてもらうつもりなんだ。最新の設備を利用して最新の技術を体験する。それって楽しいだろうなー。でも、オマエが協力したくないのなら、結局諦めるしかないしな」

「何も協力したくない、なんて言ってないじゃない!」

「じゃあ、やってくれよっ!」

「ちゃんと説明してくれたらね!」

「わかった、もうオマエには頼まねーよっ! あーあ、美留かわいそうにっ! せっかくの機会なのにっ!」


 わけもわからず逆ギレされ、俺はうやむやの内に、とりあえずコーモン先生の研究室には行く事を了承させられた。

 怪しい魂胆が丸見えなのだが、なぜか巧のみならず、みんなの異様な、期待、不安、悲哀、歓喜・・・? その複雑な眼差しに押し切られたのだ。

 最もそれは、大きな代償を生む事となるのが・・・。

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