冬休み
第1話 年末のイベント
12月も残す事あと僅か、いよいよ年末が近づいてきた。とは言っても俺たちには夏休み同様、冬休みもやっぱり特に無いようで、結局年末まで普通の勤め人と同じ様に学校通いを続ける事になる。まあ、想定していた事なので、特に感想はない。
しかし思い返せば俺の波乱の高校生活、4月から余りに多くの事が重なり、長かったようで短かったと思う。
それにしても行方をくらましてから8か月、ババアは相変わらず帰ってくる気は無いらしい。たまにメールがあり、毎月数万円程度の、ギリギリ食費が賄えるほどの生活費が送られてくるだけである。自分探しもいいが、あんたの望む自分なんてこの地球上どこにも無いよ、と毒づいてみる。
けれど、あんなババアとはいえ、たった一人での年越しは初めてだけに、若干の寂しさも禁じえない・・・。
そんな時、巧から嬉しいお誘いの言葉があった。
「なあ、年末お袋さん、帰ってくんの? 帰ってこないようならウチで年越ししないか? 勿論2人っきりってわけじゃないんだ。実は美留、今ウチで一緒に暮らしてるんだ」
「いいわよ、そういう事なら。ババア、帰ってこないし」
「じゃあ、忍、おせちとか作れるか? 作れるなら頼むよ。アタシたち、料理はちょっと駄目なんだよねー」
ああ、そういう事ね。あれだけ器用な美留も料理ダメなんだ、ちょっと意外な気もする。
「ああ、それと、クリスマスパーティーもやるから、その時も料理頼むな! で、場所はアタシんち」
「えっ! それは強制なの?」
「そう。もうユウコとも決めちゃったんだ。ユウコ、年末はラグビーで全国大会だろ? その壮行会も兼ねてるんだ。最もアイツに敵なんていねーけどな」
「他のメンバーは? 何人来るのよ?」
「えーと、現時点では、アタシ、美留、オマエ、ユウコ、三日月、直、かな。未理はパパとデート、セツ姉は家の手伝いがあるって言ってたっけ。中には美留が言うなって言うから、伝えてない」
「中、可愛そうじゃない?」
「じゃあ、オマエ、美留を説得しろよ。あ、あと、デザートはいい。ユウコが作ってくるらしい。1人あたりの予算は千円くらいじゃねえ? クリスマスらしいチョー豪華な料理、頼むぜ!」
おい、一人千円で豪華って、いくら何でもそれはちょっと無理だろう。それでも人から頼りにされるのは嬉しい。仕事の面ではみんなに頼ってばかりだし、勉強面でも未だ教えてもらうばかりの俺・・・。
よし、せっかくの機会、腕によりをかけなきゃ!
「ちょっとぉー、巧ちゃん! ヒドイんじゃない? 小白川くん来るなんて聞いてないわよっ! だったら私行くわよ! 何があったって、たとえ家が破産したって、親が死の淵にいたって、行くに決まってるじゃないっ!」
「ごめん、ごめん。いやあ、セツ姉家の手伝いあるって言ってたから」
「何着て行こうかしら? いえ、むしろ着ていかない?・・・それもアリ?」
「無いって、セツ姉! お願いだから、服着て来てよー」
いやあ、ちょっと怖い事になりそうだけど。でも、これで俺とユウコが良いムードになるのは避けられるな。
「ひ、酷いぞ、キャサリン! な、何で僕だけ・・・、何で僕だけ声を掛けない! いいさ、そりゃキャサリンが誰と何をしようと僕の知った事じゃない! でも、美留が、美留が参加するなら、僕に声を掛けてくれたっていいじゃないかっ!」
いや、その美留が声掛けるなって言ったんだって。
「・・・美留が言った・・・中・・・呼ぶなって」
「えっーーっ! な、何でだい、美留? 僕、何かしたかい? 君を傷つける事、何かしたかい? 何か気に障った? ごめん、とにかくこうして謝るから、僕も参加させてくれよ。クリスマス会、一緒に参加させてくれよーーーーっ!」
た、魂の叫びだ・・・。
「・・・イヤなの・・・中・・・鬱陶しい」
「あー、ダメだよ、美留、いくら本当の気持ちだからといって、そんなにハッキリ言ったら。中が可哀そうじゃん?」
「うるさいっ! キャサリンは黙ってろ!」
「・・・美留・・・今・・・巧と・・・暮らしてる」
「はあーーーっ!?」
「・・・巧・・・優しい・・・」
「キャサリンっ! き、君は一体、み、美留に、な、何をしたっ!」
「何もしてねーよ、一緒に暮らしてるだけだよ、同棲? っていうのかな、こういうのも? ケケッ」
哀れだ、中に同情するよ・・・。ガックリと意気消沈する中に、勿論、後から参加してもいいよ、とフォローしていたが、同棲の言葉にダメージから立ち直れない中であった・・・。
しかし、なぜ中にばれてしまったかと言うと、原因は直だった。
「すいません。私、すっかり舞い上がってしまって。皆さんに声掛けたと思っていたものですから。何しろ友人とパーティーなどとは生まれて初めてですから。そもそも私は家でお祝い事などしてもらった事がないもので・・・。あ、余計な事を言ってしまったようですね。それで、一つ質問ですが、プレゼントはどうするのですか? 通常クリスマスでは、そのような物を送りあう風習があると聞きますが、何しろ私はプレゼントという物を貰った事が無いものですから、どうしたら良いのか全く検討がつきません」
こいつの生活って、どうなってるんだ? 親、いるんだよな? しかし、俺も小学校以来だな、クリスマス会。あの頃は回りに女の子いっぱいで楽しいクリスマス会だったのに、中学ではユウコと2人きり・・・。あ、でもケーキは美味かったっけな。
「うん、アタシもそれは考えてみたんだけど、そういうプレゼント交換みたいなノリの会に参加した事ないから、ちょっと想像つかないんだよなー。オマエら、どうしてもやりたい?」
「私はやりたいです。おそらくこの機会を逃したら私はプレゼントをもらわずに一生を終える事になりかねません。もし今回プレゼントをもらえたのなら、例えそれが私あてでなかったとしても、そのプレゼントを心の支えに、これからの辛く長い人生を歩んでいけるのではと思うのです。あーやりたい! やりたいです、クリスマス会」
重い、重いよ、直! そんな重いクリスマス会、俺は嫌だぞ。
「ぼ、僕もやりたい! でも、僕のプレゼントが美留にあげられないのなら、やらなくてもいい」
おい、趣旨が違うよ!
「・・・やりたい・・・でも・・・中の・・・いらない」
キ、キツい・・・。それは言っちゃだめだよ、美留。
「私もやりたいわ! そうよ、三日月ちゃん! 私の小指を落として頂戴! それを私の誠として、小白川くんにあげるのよ!」
わー、ダメだって! 違う、それは絶対に違う!
「わたしもぉ、やるたいなぁ!」
あ、あれ? 未理、不参加なんじゃないの?
「うーん、何か、みんなやりたいみたいだな。仕方ないな、やるか。ていうか、未理、オマエ不参加だろう?」
「パパとの夕食、終わってから参加するぅ! わたしだけノケ者なんて、やだよぉ!」
結局全員参加か。
思えば、こんなに多くのクラスメイトたちとクリスマス会ができるなんて、俺はもしかして幸せなのでは? 確かに、みんな残念な部分も多々ある女子ではあるが、世の中に完璧な女子なんてそうはいまい。そう考えれば、俺は勝者だとも言えるのではないか?
「忍ちゃん、私あまり固いお肉、嫌よ。フォアグラは出るのかしら? だったら私ソテーでいただきたいわ」
「拙も味付けはあまり濃くしないように頼む。肉はむしろ焼かなくても良いくらいだが」
「千円も出すのなら、肉はビーフにしてくれよ。僕はチキンよりもビーフの方が好きなんだ」
「・・・美留・・・チキン・・・好き」
「いやー、ぼ、僕も、実はチキン好きだったんだー。美留、一緒だね」
「じゃあ、忍、頼んだぞ。あと、食い終わったら食器とかちゃんと洗ってから帰れよ。アタシ、嫌いなんだ、洗いもの」
あれ? 俺、本当に勝者なのか?
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