第2話 クリスマス会

 クリスマス会の料理だが、結局ギリギリになるまでノープラン、とりあえず近くのスーパーで色々と物色してみた。買い物には未理に付き合ってもらった。どうやら自分では料理は滅多にしないらしいが、なにしろ金持ちの上あの食い意地の張りかた、美味しいものはよく知っているはずだ。

 俺の今までのクリスマスはと言うと、ババアの買ってきたケンタッキーとデイリーヤマザキのケーキを一人で食べるだけ。まあ、クリスマスはお水のババアには稼ぎ時だから子供ながらに納得はしていたが・・・。

 だから今回俺は、最高のディナーを用意してやるぞ! という、かつてない程に気概が満ちていた。そして未理とあれこれ言いながら食材を物色していた、その時。

 見た顔のおっさんが近づいてきた。あ、あの品の無い服装は!


「よお、オカマ! 未理も一緒か、ちょうど良かった」

「巧のパパじゃん、どぅしたのぉ!?」


 巧の親父は嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、俺たちの肩をたたいた。どうやら何か頼みたいらしい。


 さて、巧の親父の件はさておき・・・。

 料理の方は未理の協力もあって、何とかメニューの目処はたった。サラダ、オードブル、メイン、十分みんなが堪能できるものが用意出来た。

 後はプレゼントか、これが、意外と難問だ。一体何をあげたら良いのだろう? 高価なものはあげられないし、かといって、みんなと違い、俺は自分では人にあげられるようなモノは作れない。絶対、三日月はナイフだよな。あれは実際販売してるくらいだし。他の連中はどうだろう?


「なぜ下井さんに教えなければいけないのですか? そもそも、プレゼント交換とは、中身がわからないから楽しいものだ、という事を聞いた事があります」

「タイムマシーン搭乗券、とかは無しよ」

「当たり前です、私とて子供ではないのです。そのようなものは考えていません!」


「いやだね。君に教える気は無いよ」

「でも、結局自分で作ったものでしょう?」

「よ、余計なお世話だ! き、君と巧に、僕のプレゼントがいかないように、ただ祈るのみだ!」


 みんなに聞いてみても、誰も教えてくれない。まあ、教えてくれなくてもわかるけどね。誰に俺のプレゼントがいくかもわからないし、誰にいった所で特に嬉しいわけでもないし。それほど力、入れなくてもいいかな。

 

 それで、クリスマス会当日。

 その日は一応2学期の登校最終日だったが、俺は特別に朝だけ顔を出しただけで休みをもらい、すぐに料理の準備に入る事となった。クリスマス会、学校より大事だってか?

 時間は午後6時からだが、誰か、せめて1人だけでも手伝ってくれるヤツはいないかと声を掛けたが、みんな色々と準備があるとやらで、良い返事がもらえない。というか、みんな料理が苦手なだけみたいだ。

 それでも唯一自分で料理をするという三日月が、3時過ぎに手伝いに来てくれる事になった。

 

 会場にする巧のウチは一階が工場になっていて、そこに事務所と台所がある。相変わらず工場スペースには、所狭しと機械が置かれていたので、事務所にテーブルを置いて会場とした。10名ほどのパーティのスペースとしては、広さは十分なのだが、なにせ古い工場、色気がまるで無い。仕方なく飾りをつけてみようかと思う。飾りは学校の倉庫の中から、過去の遺物を見つけたものだ。

 まあ、それは早めに来た誰かにやらせよう。


 メニューはカクテルシュリンプサラダ、オードブルが3品。マッシュポテトとサーモンサンド、デビルドエッグ、きのこのキッシュ。メインがローストビーフともちろんローストチキン。牛も鳥も用意した。量は、なにせ小白川が参加するのだ。2mを超える大男の腹を満たすだけの量は用意したつもりだ。普通では考えられない量だと思う。

 後から手伝いに来てくれた三日月が、その質と量に驚いていた。ちなみに今日の三日月はちょっとよそ行き風のワンピースで雰囲気が違う。


「よく1人千円で、これだけ用意できたな」

「まあ、肉は例のコロッケの肉屋さんがサービスしてくれたしね。あと、協賛してくれる人がいて」


 巧も三日月が来て間もなく帰ってきたので、飾り付けを任せる事にした。時間間際になって、みんなチラホラと姿を見せ、料理の配膳などやりながらついに本番スタートとなった。


 セツ姉はなんと和服を着てやってきた。家業が家業だけに実に良く似合っていて、結い上げた髪、そこから見えるうなじから、セツ姉の魅力が存分につたわってくる。いわゆる、色気ってやつ。

 巧はセツ姉の手を取って、小指を確認する。


「大丈夫よ、巧ちゃん。あれは、冗談なんだってば」

「セツ姉、やりかねないからなー」


 直も文化祭で見せた秘書スタイルでやってきたというのに、中はジーンズにパーカーとまるで普段着。


「パーティーに普段着というのは如何なものでしょうか? 木本さんはパーティーを楽しもうという気持ちが感じられませんね」

「い、いや、そうか? これでも僕としては、最高にファッショナブルなつもりだったのだが・・・」


 ユウコも少し遅れてやって来た。ケーキの準備に時間がかかったらしい。

 明日から全国大会で関西行きとなるため、今日は休みで朝からケーキ作りに没頭できたたらしい。隣にいたというのに一度も顔を見せなかった位だから、相当な気合の入れようだ。あいつのスイーツの長年の消費者としては、これは期待できる。

 ちなみにプレゼントも手焼きのクッキーらしい。まさか、ラグビー高校日本代表、柔道でも次回オリンピックの金メダル候補、あの地元の、いや国を代表するアスリートたる小白川勇虎が、クリスマスにケ-キとクッキーを焼いていたなんて知られたら、日本のスポーツ界に衝撃が走るだろう。


 そのユウコは、文化祭での事があるのでセツ姉を警戒しているようだったが、そのセツ姉が和服姿の上、拍子抜けするほどおしとやかなので少し安堵したようだった。これはセツ姉の作戦なのかもしれない。なぜならセツ姉の視線は常にそのターゲットに絞られているのに、俺は気付いていた。

 あとサプライズで、ユウコのチームメイトの堀尾くんが急遽参加となった。堀尾くんは無理やりユウコに連れて来られたようで、しきりに恐縮していた。


「すいません! 突然こんな身内のパーティーに部外者が、プ、プレゼントの事も全然聞いてなくて・・・」

「いいよ、気にするなよデブオ。オマエも屋台手伝ったんだ、身内みたいなもんさ」


 乾杯はシャンパン風飲料。お酒じゃ無いの? との文句もでたが、聞く耳は持たない。もうアルコールはコリゴリだ。


「いやあ、料理スゴイな。よくこれだけ用意できたな」

「本当、大したものね。確かに忍ちゃん、女子力は高いわー」

「大変おいしいですね。下井さんは、本当に料理の才能があると思います」

「いーえ、才能じゃなくて経験よ。幼い頃から鍛えられてきたからね」

「いいお母さんだったんだな」

「いいお母さん!? とっ、とんでもないっ! やらなければ自分が飢るからやっただけよっ! 強制的にやらされてたのっ! いいお母さんだなんて、冗談にもならないわよっ!」


 クリスマス会は、ワイワイと楽しかった。特に共通の話題も友人も無く、ましてや自分の事にしか興味が無いような連中だったが、スカ女という、一つの旗の下に集ってる、という思いと、今までこなしてきた仕事の苦労とか、話す事がいっぱいあるのだ。


 そして、ついにプレゼント交換の時間がやって来た。それに合わせるように未理も到着。派手なパーティードレス、さすがはお嬢様、でも、一体その格好で、どこで食事してきたんだ?


「えー、しーくんの作った料理、全部売切れになっちゃたんだぁ、わたしも食べたかったなぁ。でもユーコちゃんたちがいたんじゃぁ、しょうがないかぁー」


 そう、驚いたことにユウコは、俺の用意した、家畜が食うような量の料理をペロッと平らげやがった。まあ、堀尾くんもいたし仕方ないか。


 プレゼント交換は、みんなが持ちよったプレゼントに番号を振り、やはり番号を記した札を箱の中から選ぶというシステム。ちなみに堀尾くんがプレゼント無しだったので、1人だけプレゼント無しの者が出る。その者は使った食器の片付けと洗いモノをするという、徳を積む事がプレゼント、いわば罰ゲームが待っていた。

 これでけは避けたいという緊張感が走る。


 俺だって、これだけ作った挙句、プレゼントも貰えず、しかも1人で後片付けなんて、ゴメンだ。

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