第9話 文化祭1日目 その4

 想定していたよりも来場者もたくさん来てくれ、俺が用意していたサンドイッチ類も焼きソバも無事完売した。


 未理もなんとか今日を乗り切ったようだった。あのパンケーキは調理に手間がかかるので、良くやったと褒めてやってもいいだろう。

 普段、ただダラけて遊んでばかりの未理には、良い経験になったのではと思う。

 

 みんなのブースにも来場者は結構来てくれたようで、例のスカイツリーも5ケ売れたらしい。もっともその内3ケは巧と未理の親父の購入ではあるが。しかも、巧は定価よりも遥かに高額な金をせしめたらしい。


 また、懸念だった直の件だが、あの後、巧が考えがあってか作業場にしばらくこもって何か作っていたようで、ようやく夕方頃になって新たに入り口の看板を用意してきた。


「マッドサイエンティストNAO ついに発明! 夢のタイムマシーン! 君も時空を超えタイムトラベルを体験してみよう!」


 な、なんだよこれ・・・?


「直、いいか? 明日はいつも通りの格好で登校してこいよ。それで、いつも通りにお客の応対していればいいから」

「はあ、でも」

「ミスコンの時はメイクしてやるから、言う通りにしな」

「はい、わかりました」


 どういう事? との俺の質問に、巧は答えた。


「いや、アタシたちが悪かったんだよ。直の魅力ってなんだ? あの、天然の奇天烈さじゃないのか? 素のままの直は、そのままで面白いじゃん。何も、お上品にしてる必要あるのか? それに、文化祭だぜ? きっと、直の素のキャラは、受け狙いで通っちゃうよ」

 

 これについては俺もまったく同感だった。綺麗に済まして椅子に腰掛けていた、どこか淋しげな直の姿に比べたら、まったく不似合いなヤンキー姿のあの写真の方がずっと魅力的だったくらいだ。無理はいけない。ありのままで、という事だな。


 怒涛の一日目もようやく終わり、みんな集まっての反省会の席で、ミスコンの投票箱を開いてみようという事になった。成績如何では明日の対応も違ってくる。

 みんな緊張の中、投票箱が開かれた。強制では無いので、全来場者が投票してくれたかは不明だが、有効票は全部で168票だった。結構来てくれたんだなあ、お客さん。たった8人の学校なのに。


 その内訳は、1位は俺で44票 2位美留41票 3位セツ姉30票 4位未理28票 5位三日月17票 6位直5票 7位中3票 8位巧0票


「ふっざけんなーーーっ!」


 巧はもう一回よく見ろ、といって、票をくまなく見ていたが、どこにも7番の数字も作田巧の名前もなかった。いや、何と言っていいか、0票はないよな、うん。 家族も友人も来てたの、巧だけなのに・・・。


 巧は人目も憚らず、携帯を取り出すと、慌ててどこかへと電話をした。


「お、おいっ! 今日、投票ちゃんとしたかっ? 違うよっ! ミスコンの投票だよっ! アタシに入れろって言ったろっ! ・・・えっ、美留に入れた? ふざけんなよっ、娘に入れろよっ! え?・・カワイイし、フライスが・・何考えてんだよ、馬鹿だろオマエっ? 娘がピンチなの、わかんないのかよっ! じゃ、じゃあ、カレンはどうした? あの女、アタシに入れてないのか!? ・・・え? 入れた? 入ってねーよ! ・・・え、8番に間違いなく入れた? ば、馬鹿やろーーっ! アタシは7番だって言っただろう、人の話ちゃんと聞けねーのかっ!」


「こ、こんばんわ、今日はありがとうございました。い、いえっ、そう言ってもらえると、あ、はい、ありがとうございます。えーと、それで、ちょっと聞きづらいんですが、ミスコンの投票、あれ、アタシに入れてくれましたよね? えっ! な、直にっ! あっ・・・は、はい、そうですね・・・。で、あの、社員さんも・・・、い、いえ結構です・・。き、今日は本当にありがとうございました・・・」


 携帯を空しくポケットにしまい、巧はガックリと椅子に沈みこんだ。


「巧ちゃん、そうガッカリしないで。明日もあるし・・・」

「そうだよぉ、わたしだってしーくんに負けちゃってぇ、ちょっとショックなんだからぁ」

「そうです、そんなに落ち込むなんて作田さんらしくありません。例え誰からも評価されなくたって、それが作田さんの人としての価値を下げるわけではありません。例え世間からの評価が全く無いからといって、それはあくまで女性としての作田さんの評価がゼロだっただけで、人間としての作田さんは・・」

「直っ! しっ!」

「しかし、0票とは見事だな。あれだけの人数が来てくれて、ゼロというのはそうそう有り得ないと思うな。あれ? でも確かお客の多くはキャサリンの知り合いのはずだよな? お客の大半は自分に投票するはずだって、豪語してなかったっけ?」

「う、うるせーっ! オ、オマエだって、たった3票じゃねーかっ! 偉そうにほざくなっ!」

「3と0では天と地はどの開きがある。なにせ0というのは無という事で・・」

「む! ・・・むむむ!」

「わーーっ! ち、違うんだ、美留! こ、これは、ぼ、僕なりの、愛情表現というのか、そ、そう、キャサリンとのコミュニケーションの一種というか・・・」


 いや、しかし実際、仕事関係のお客さんはほとんど今日招いていたので、今日票が入らないというのは、その票田をアテにしていた巧にとって相当マズイのでは? とりあえず、これで俺の最下位は無さそうだから、まあ、いいのだが。


「そ、そうよ! そろそろケーブルテレビのニュース、始まるんじゃない。多分、巧ちゃんバッチリ映っているから、明日は放送を見た人もきっと来てくれるはずだし、巧ちゃんに票もたくさん入るわよ」

「そうね、見ましょう」


 何とか誤魔化そうと、俺たちはテレビがある校長室へ向かった。当然さっさと校長は帰ってしまいっているので、俺たちは無遠慮に机に腰掛けたりし、放映を待つ事にした。


 6時の時報とともにスタートした番組は、かなりローカルな話題に終始する(今日のトップニュースは商店のボヤだった)、ニュースというにはあまりにも身近すぎるモノだったが、よく考えれば俺たちの文化祭程度が放映されるんだ、それも当たり前か。

 そしてついにスカ女文化祭の放映が始まった。


 先ほど来ていたインタビュアーの女性が出てきて、学校の全景、そして校門のアーチが文化祭である事をアピールする。お手伝い程度とはいえ、アーチを手がけた者として感無量である。


 そして、ここで巧の学校紹介のスピーチが流れるものの、映像は美留と、セツ姉の作業風景、焼きソバを作る俺、旋盤を使う中などの映像が流れ、最後のワンショットは俺の、みんな頑張っているので、是非見に来てください! とのアピール映像・・・。

 お、おかしい。確か、この時は巧と2人のシーンのはずが・・・。


 俺は恐る恐る巧のほうをチラ見してみると。あ、ヤ、ヤバイ?


「ア、アタシ・・・声だけ? ぜ、全然、映んないじゃん・・・」


 俯いてる巧・・・。な、泣いてる? だ、大丈夫か? さすがの俺も心配になってきた。これには、さすがに誰も口を聞けず、非常に気まずい空気が充満していた。だ、誰かーっ、何か一言でもいい、しゃべってくれーーっ!


「・・・なあ、未理。オマエ、明日1人じゃ辛いってこぼしてたよな?」

「えっ!? ウ、ウン。だってぇ、1人でコーヒーも入れてぇパンケーキ作ってぇお客さんに出すなんてぇ、とても無理だよぉ」

「じゃあ、明日、忍を貸してやる。2人でカフェやりな。焼きソバと売店はアタシがやる。明日は幸い招待客はいないし。あと、セツ姉、明日アタシにもメイクしてくれないかな?」

「それは、いいけど」

「ありがとう、よろしく頼む。このままじゃヤバイから、アタシも本気でやるよ。思うに、忍の票が多かったのは、屋台の効果もあったと思うんだ。それ、明日はアタシにやらせてもらう。これで、言い訳は無しにする」

「うん、それでこそ作田殿、拙も明日は気持ちを切り替えて、三条の名に恥じぬよう頑張る所存だ」

「ん! ん!」

「ありがとう、美留! うん、がんばるよ」


「というか、みんな、そんなに片意地張らずにリラックスしてやりましょうよ。所詮ミスコンっていったって遊びみたいなモノだし、結果よりもその過程を楽しめばいいんじゃないかしら?」


 俺の大正義のセリフに、みんなが凍りつく。あれ? 何かヘンな事言ったか、俺?


「テッ、テメーッ、1位になったと思っていい気になりやがって、余裕かましてんじゃねーよっ! オマエだけは絶対に1位にさせねーからなっ! なあ、みんなっ!」

「おーーーっ!」


 な、何だか変なノリになってきたな・・・。まあ、いいか、未理の件も解決したし、俺ももう焼きそば焼くの、イヤだったんだよね、本当は。

 まあ、みんな、せいぜい頑張ってくれ。

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