第8話 文化祭1日目 その3

 俺たちが、そんなこんなでバタバタとしていた時、受付のおばさんから連絡が入った。どうやらケーブルテレビの取材が来たらしい。


「そうだった、アタシ、ケーブルテレビに取材申し込みしたんだ」


 巧は慌てて受付へと向かった。俺も後を追いかけると、受付に地元のケーブルテレビのクルーの人が待っていた。といってもたった3人だが。

 どうやら今晩のニュースで放映してくれるらしく、いくら超ローカルなテレビとはいえ、公共の電波に俺たちの姿が映るということに、否が応でも俺はテンションが上る。


「そうです。2年前に廃校となった隅の川工業高校ですが、今年から新たに復活したんです、しかも女子校として。たった8人の学校ですが、日々技術の向上を目指し精進し、技術力では決して他の工業高校には負けないと自慢できます!」

「8人、しかも女子だけとは、珍しいね」

「はい、女子だけの工業系の学校って、世界広しと言えどもココだけじゃないでしょうか」

「じゃあ、案内してもらえるかな? アナウンサーの彼女の質問に答える、という形で行くけど、いいかな?」

「もちろんです!」

「じゃあ、君も来て」

「えっ、私もですか?」

「そう、2人いたほうが、華やいだ雰囲気になっていいよ」


 巧だけでよかろうに、俺も同行し撮影に入る事になった。放映時間も限られているので、最も画になるだろう美留とセツ姉のブースを取材対象にしてもらった。

 美留はフライス盤を見事に操り、1枚の薄板からSUMINOKAWA CTVという、そのケーブルテレビのロゴを掘り出す姿を画面に納め、セツ姉は、薄板を溶接してバラを作り、例の溶接姿からの長髪ファサァー、という画を撮ってもらった。 リアル天使とお色気美女の作業着姿とのギャップも含め、アピール度は満点だろう。

 プロデューサーと名乗ってた人もとても興味を持ってくれて、今度はまた別の番組でも取材させて欲しい、と満更お世辞でもなさそうな口ぶりだった。


「いやあ、しかし、みんな可愛い子たちばかりで驚きだよ。それだけでも一つ番組ができそうだ。特にリーダーの君は、本当に可愛いね。いいよ、うん」

「いえ、リーダーは私じゃなくて・・・」

「そうだ! ウチの街案内系の番組で、ウチの一押し看板娘! ってコーナーがあるから、是非出演して欲しいな」

「だからぁ、ソイツはリーダーじゃないの。リーダーはアタシ・・・」

「さてと、帰って編集しなきゃ。今晩、楽しみにしてて。そうそう、忍ちゃんっていったよね、今度直接連絡するからね、じゃあ!」

「あ、ありがとうございました」


 TVクルーの人たちはそう言うと、慌しく帰っていった。俺に個人的な携帯番号の記された名刺と、不機嫌になった巧を残して・・・。


 俺はそんな不機嫌な巧をなんとかなだめながら、直の所へも顔を出した。正直ここが一番心配だったのだが、案の定、1人の来場者もなく閑古鳥が鳴いていた。

 この怪しいアトラクションに乗ろうというツワモノはいなかったわけか・・・。


「お気遣いいただかなくても大丈夫ですよ。私はこのような事態には慣れていますので。それでもレイコさんには乗っていただけたので満足です。ご一緒の男性にも乗っていただき、青白い顔をしながらも喜んでいただけました。それだけで本当に十分です」


 いや、喜んでないだろう、それ! ていうか、なんで直はレイコさんの事知ってるんだ!?

「あれ? オマエ知らないんだっけ? 直は元紅蓮拿威(くれない)のメンバーなんだぜ、といっても1ヶ月だけだったけど」

「えっーー! 嘘でしょう?」


 直は、生徒手帳に大事そうにしまわれた一枚の写真を俺に見せてくれた。そこには、天パの頭をリーゼント風になでつけ、特攻服でウンコ座りという、まったく似合っていない姿で悦に入る直の姿があった。


「何これ? もしかして、お笑いのオーディションか何かなの?」

「いえ、私はいたって本気でした。当時、というより小学校の頃より私は、なぜか周りと馴染めない子供だったようで、気が付くと大抵1人でいるのが普通だったのです。それについては学問をする環境としては申し分ありませんでしたので、むしろその状況を歓迎していたくらいなのですが。

 ところが周りはそうでは無かったらしく、学年が上がるにつれ、私がテストで良い点をとったりするとあからさまに嫌がらせを受けるようになってました」

「おい、直、いいよ、昔の事なんてさ」

「いえ、下井さんにも聞いてもらいたいのです。そんな私がある日、たまたまある公園に通りかかった時、特に私に対して辛辣であった同級生に見つかり難癖をつけらたのです。どうやら私の成績が良い事がなぜか気に入らなかったようで。

 その時、初めて作田さんにお会いしたのです。作田さんは、そんな私を助けてくれました。何せその時の作田さんは金髪に特攻服という出立ちで、私をまるで旧知の友だちのように扱ってくれたものですから、それ以降、私を苛めようとする者は現れませんでした」

「そうそう! 今度コイツにちょっかい出したら、テメーらの学校いって暴れさせてもらうぞっ! って言っただけで、アイツらシュンだよ」


 ああ、確かに、それは怖いかもな。


「それから私は作田さんにお願し弟子入りをし、その日早速バイクの後席に乗せてもらい町中走り回りました。私はバイクに、というか作田さんにすっかりハマッてしまったのです。なぜわざわざバイクを大きな音が出るように、しかも運転し辛く改造するのか? なぜ大勢で蛇行運転を? そもそも無免許なのでは? 作田さんは私にとって余りにも謎だらけで大変興味深い存在となったのです。作田さんは、そんな私の質問にもきちんと答えてくれました」

「まあ、結局直はバイクの構造のほうに興味をもって勉強しだして、走りのほうは1ヶ月だけだったけど。今でも紅蓮拿威(くれない)は、バイクの改造する時には、直にパーツの図面とか描いてもらってるんだ」

「あの1ヶ月は私の人生の宝物です。それで、下井さんには一度言っておきたかったのです。下井さんたちは誤解されているようですが、作田さんは今申し上げた様に誰にでも優しく大変心の美しい方だという、その事をわかってほしかったのです。ガサツでお金にうるさく杜撰で下品だとか、みなさんが思っているような人ではない、という事です」

「お、おい直、みんなアタシの事、そんな風に思っているの・・・か?」

「そうなのね、ありがとう、直。話してくれて、嬉しかったわ」


 少し不満げな巧の顔を見て、俺は少し心が暖かくなった。今ではわかる。こいつって、そういうヤツかもなって。


 焼きソバの屋台も、サンドイッチ類の販売も放っりぱなしだったので、慌てて中庭へと向かう俺に、未理がカフェの窓から声を掛けてきた。


「しーくーーん、こっち手伝ってくれなぁい? 忙しくてぇ、もう、疲れちゃったよぉー!」

「ダメよ、焼きソバのほうも、お客さん待ってるみたいなの。手が空いたら手伝いに行くから、もう少し頑張って頂戴!」

「えーーっ!」


 屋台の前では、何人かが、焼きソバ売らないの? といいながら、待っている。サンドイッチも残り少なく完売も近い。

 今晩ケーブルテレビで放映するって事だけど、どれくらい影響あるんだろう? まあ、たいした事はないどろうとは思う。だって、俺、そんな番組見た事ないし。しかし、万が一明日、今日より多くの人が来たら、未理はパンクしちゃうぞ。それは、ヤバイな。何とか考えないと。

 しかし、その不安は、俺が考える事なく解消する事となる。俺に手間のかからない、最良の方法で。

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