第4話 ミスコン

 文化祭当日まであと1週間ほどに迫った、そんな日の放課後、巧がみんなに提案があるんだ、と興奮気味に話しはじめた。


「さっき、セツ姉の作ってるもの見てきたら、鉄製のワンピースがあったんだ。文化祭で展示するヤツらしいんだけど、ソレ、ちょっと、みんな見てくれない?」


 一同、セツ姉の所へ行くと、なるほど、薄い鉄板を加工して作ったであろうワンピースが、そう、雰囲気は中世の騎士の鎧の様ではあるけど、鎧というには余りに優雅で素敵なデザインの、まさにワンピースがソコにあった。

 ワンピースとは別に上下セパレートのモノもあり、そちらも劣らず見事な出来栄えであった。

 みんな、ホーッという感嘆のため息と共に巧を見ると、巧はこう告げた。


「なっ! スゴイだろ? それで、提案ってのは文化祭でコレを着て、アタシたちスカ女のミスコンやらないか?」

「ミスコン? ミスコンテスト? あなたたちが?」


 驚いたのは俺だけではない。みんな顔を見合わせ思案顔、反応もまちまち。セツ姉は自分の作品が使われる、というので大賛成、勿論未理も賛成の口だが、直と中は少々不満そうである。三日月と美留は無表情で黙ったまま・・・。


「まあ、聞いてくれ。やり方はこうだ。来場者一人に1枚、ミスコンの投票券を渡す。ミスコンのイベントは最終日に、この鉄製のコスチュームを着てのコンテストとなるが、それを見て投票してもいいし、各ブースでみんなの実演や作品を見て判断しても良しとする。どう、面白そうじゃねー?」

「うん、いいよぉ、ソレ!」

「でさ、最下位だったヤツは一ヶ月間、優勝者の言いなりになるって罰ゲーム、どう?」

「えっ、マジで?」

「でもぉ、それってぇ、巧、ヤバイんじゃないのぉ?」

「なんだよ? アタシが、最下位になるとでもいうのか?」


 みんな、うなずきこそしないが、視線が宙を舞う。悪いが、巧、その案は取り下げたほうがイイぞ、自分のために・・・。


「おいおい、みんな忘れてないか? 今回の来場者の大概がスカ女の顧客や、アタシがポスターとか撒いて呼んだ客ばっかりだぜ? 普通に考えたら、アタシのほうが有利なんじゃねーの?」

「キャサリン、みんなの好意、素直に受けておけ。何も、自ら進んで奴隷に身をやつす事はあるまい」

「中、オマエに言われたくないなっ! 悪いが、オマエにだけは負ける気しないね。そもそも、オマエ、女かどうかも怪しいっつの!」

「そっくりそのまま返すよ、キャサリン。君のその粗暴さじゃ、まあ、最下位は揺ぎ無いね」

「まあまあ、よしなさいよ、二人とも、みっとも無いわよ」

「ねえ、しーくんは、どうするのぉ? だってぇ、しーくん、このカッコのまま文化祭出るんでしょぉ? ミスコン、しーくんだけ出てないとぉ、不自然じゃなぁい?」

「い、言われてみれば・・・」


 みんな黙り込む。まあ、悪いが俺の女装、悪くないからな。ていうか、みんな脅威に感じているんじゃないか? だから、黙りこむんだろ?


「いや、いいわよ、私は遠慮しておく。もし、男の私がミスコンで、寄りによって本当の女であるみんなに勝ってしまう事があったとしたら、なんか気まずいじゃない? やめておいたほうがいいと思うわ」

「テメー! アタシたちが負けるっていうのか?」

「あくまで、もしもの話よ」

「アタシらがオカマに負けるかよっ! よし、オマエも出ろよっ! 絶対後悔させてやるからなっ!」

「巧ぃ、やめたほうがぁ、いいよぉ?」

「うるせー! 未理、オマエにも負ねーよ、アタシはっ!」

「はっ、キャサリン、君のその根拠の無い自信はどこから生まれてくるんだい? 本当に度胸だけは天下一品、その恐竜並みに単純な思考回路が正直羨ましいよ」

「くーーーっ!」


 結局、俺もミスコンに出る羽目となってしまった。もちろん出るからには負けるつもりは無い。未理にも協力をお願いすると、快く引き受けてくれた。悪いが、巧、勝たせてもらうぜ。


 翌日、その鉄製の衣装はどちらとも、小柄な美留と未理には大きすぎる事がわかり、セツ姉が当日までに二人用の小さいサイズの衣装も作る事となった。


「大丈夫よ、ちゃんと素敵なの作るから。いいアイデアがあるのよ、期待しててね」


 それから俺達は、当日来場者に配るパンプレットに投票用紙を挟み込む事にし、それに全員の顔写真とキャッチフレーズを添える事となった。


「写真は自分で用意してくれ。メイクや撮影に不安があるなら誰かに手伝ってもらってもいい。忍はどうせ自分じゃできないだろう?」

「それがぁ、最近しーくん、メイク、すっごく上手になってきたんだよぉ!」

「ちっ、オカマ野郎がっ! で、キャッチフレーズだが、自分で一から考えるのも照れくさいから、みんなで決めないか? そいつのイイ所や特徴とか」

「まあ、いいけど・・・」

「じゃあ、まず、セツ姉は?」

「お色気」「ジジイ殺し」「美人妻」「年増」「アンニュイ」「翳ががある」「ん」


「ち、ちょっと、誰よ、年増っていったの! ジジイ殺しは、ひどくない? まあ、そうなんだけど・・・」


 そんな風にワイワイとしながら、結局は時間も無いので、本人の希望はさておき、サクサクと強引に決める事とした。


 ちなみに、衣装の着替えの関係上、背の高い円谷、中、俺、中くらいのセツ姉、三日月、巧、小柄な美留、未理は交互に出る事となり、以下のキャッチフレーズはコンテストに出る順だ。


阿久根セツ「美しきエロチックウェポン 溶接の火で溶かすのはあなたのハート」


円谷直「マッドサイエンティス設計女子 飛びすぎた思考は時空すら超える」


林未理「マジカルミステリー令嬢 顔もハートもスィートフル」


三条三日月「血に飢えたクールクレッセント 今日は貴方の心を切り裂く」


木本中「シンンメトリーに毒された ねじれたハンサム旋盤少女」


穴井美留「地上に降りた最後のリアル天使 無口な天才フライス少女」


作田巧「色気は無いが男気はある 人使いは荒いが金には細かい 我らがリーダー」


下井忍「モットーは協調性と忍耐 花園に咲く一輪の黒いバラ」


「ふざけんなよっ! 何でアタシだけ悪口なんだよっ!」

「褒めてるだろ、男気があるって」

「褒め言葉になってねーよっ!」


 巧は怒りまくっているが、実際、見た目では他の連中と比べると、特にアピールする所が無い、というか。

 いや、巧も決して可愛くないわけではないんだ。いや、実際には綺麗界に属するとは思う。

 しかし、その容姿を気にかけない普段の言動が、どうしても印象を悪くしている。


 さらに悪い事に、後日持ち込んだ写真が、これがヒドイ・・・。みんなはきちんとメイクし、驚いた事に中も三日月も、あの直でさえ、きちんとメイクした写真を用意したっていうのに、巧の写真ときたら・・・。

 洗いっぱなしみたいな髪、笑顔すら無く、睨んでるかのような反抗的な目。もちろん俺は、未理にお願いして、未理もビックリの最高の一枚を持ち込んでいる。


「何だ、キャサリンはもう試合放棄ってわけかい?」

「な、何が悪いんだよ・・・」

「巧ちゃん、ねえ、私がメイクしてあげるから、撮り直しましょ?」

「私も阿久根さんにメイクしてもらいました。いくら私が女性としての評価に興味が薄いとは言え、こういった勝負事での最下位は、女性として屈辱だと感じるくらいの誇りは失っておりませんので」

「拙とて同じ。戦いには全力で臨みたい」

「ん」

「僕だってそうさ。最下位になんてなったら何をさせられるか。でも、どうやらその懸念は必要無さそうだ。ありがとう、キャサリン」

「だからぁ、巧、意地なんてはんないでさぁ・・・」

「い、いや、イイ! いつの時代だって女は素顔が一番だ」

「何時代の話してるの? 黙ってセツ姉に撮り直してもらいなさいよ」

「いいって言ってるだろーっ!」


 結局、そのまま投票用紙は作られる事となった。なんて強情なヤツなんだ。


 しかし、余りに可哀相に思ったのだろう、未理がコッソリ、フォトショで写真を修正しているのを見つけてしまった。修正後の写真はかなりマシになっていた。

 涙ぐましいほど素敵な友情だったが、俺は印刷する前に、修正前の写真に差し替えておいた。

 まあ、これくらいの復讐は、あいつに殴られた回数を考えれば、神様も許してくれるだろう。


 悪いな巧。例え脅威にはならないだろう相手であっても、敵は確実に葬りさらないとな。

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