第25話 会議は踊る

 ギミックの設計に関しては、取り敢えず直に任せよう、という事になり、俺たちは、形状をどうするか? という次なる課題に直面していた。


 いかんせん、それなりに美形とはいえ変人揃いのメンバーゆえ、リアルな恋愛経験もほとんど無く、当然バ○ブの目的である本質的な課題について意見が言える者などいやしない。

 唯一戦力となりそうなセツ姉も、少々現実から離れた変態チックな愛情願望が見え隠れし、余りあてにして良いのかは疑問だ。


「だから、俺はモニターに実際使ってもらい、その意見を取り上げるのが得策だと思うんだよ」

「で、そのモニターはどうするつもりだよ?」

「えっと、それは・・・」

 

 絶対に使用テストは必要だと思うんだが。ただ、それ想像するだけで、股間が疼いてくる。うー、ヤバい。


「オマエ、まさかアタシらにモニターをやれと?」

「そうですね、それが最も安易な方法だと考えられます」

「で、でも、僕らにだって羞恥心くらいはある!」

「それは木本さんらしからぬ意見ですね。他に無いのであれば数値化出来ない羞恥心などというものを捨てるくらいの事は、やむを得ないのではないでしょうか? 私はモニターとして参加する事にはやぶさかではありません」

「私も、別にやっても良くってよ、モニター。色々と試してみたいんでしょう?」

「ちょ、ちょっと黙っててよ、直とセツ姉は特殊すぎる!」

「そ、そうだ。僕はそんな事、断じてできない! 美留もそうだろ?」

「ん!」

「い、いや、な、何も俺はお前らにモニターやれ、なんて言ってない! そ、そうだ、募集すれば良いじゃないか?」

「募集? どうやって? だったらオマエ街角に立って道行く女性に、コレ使ってみて意見聞かせて下さーい、ってお願いしてこいよ!」


 それは無理だ。おそらく警察のご厄介になるだろう。

 でも、どうしたら良いというのか? 内容が内容だけに、あまり表立った行動を取れないというのが悲しい。本当に高校でこんなモノ、作っていいの? と言う、本質的な疑問さえ湧いてくる。


「やっぱり、お前らで試してみるか? なに、意見は匿名にしてやるから、それならイイだろ?」


 巧は俺の頭を激しくドツくと、セツ姉に救いを求めた。


 結局は、セツ姉から助け船が出て、とりあえず上手くいきそうな手筈が整った。

 セツ姉の家が置家とは聞いていたが、色々と多方面に顔が利くらしく、吉原のソープの社長さんも実家のお客さんとやらで、セツ姉自身、その社長さんの店のソープのお姉さんたちとも仲が良いらしい。

 そのお姉さん方に頼んでくれる、というのだ。モニターとしては、不適切な感は否めないが、事を進めるためには妥協も必要だ。


「何でセツ姉は、ソープのお姉さんたちと仲良いの?」

「その社長さんがお店案内してくれた事があって、それ以来、たまに遊びにいったりしてるのよ。その時、ソープの技とかも教えてもらったりして、良い勉強になったのよ」

「えっ、わ、技!? ソープの、技?」

「嫌ね、やり方を教えてもらっただけよ、何も実践したなんて言ってないでしょう? もう、忍くんったら、いやらしい想像したでしょう?」

「いや、そ、それはもう・・・」

「でもね、その社長さん、うるさいのよ、私に高校出たら是非お店に入ってくれって。契約金出すからって何度も誘われるけど、私は女を売る気は無いのよねぇ」

「そう、ですか・・・」

「お姉さん方にモニターを依頼する件は任せておいて。選りすぐりを何人かあたっておくから」

「よ、よろしくお願いします」


 そして、それから数日たって、ソープのお姉さん方からサンプルを試しての意見、要望があがってきた。サンプルの中には、まるでトゲがあるようなヤバイ形のモノもあったが、結果、一番評価を得たのは、最もリアルさを追及したタイプだった。


「種の保存の観点からみても、とても重要かと思われる雄の性器が有史以来現在の形状であるという事が、すなわち最も雌にとっても最適な形状である、という事の証明となるのでしょう。最適という事は、すなわち快楽を得やすい、受け入れ易い、と言う事。元来繁殖力の低い人間にとって、交尾に快楽の要素が付加されたのは種の保存の本能なのでしょう」

「・・・そ、そうなのか?」

「もし、今より一層、雄の性欲が低下し交尾に至る機会が減少するような事になった場合、雄の性器の形状の変化、もしくは、交尾を促すため雌にも何かしらの変化が現れるなどの現象が見られるかもしれません」

「直っ! 雄とか雌とか、獣みたいに言うなよ!」

 

 こういう話は、何のテレももたない円谷の独壇場だ。みな、顔を赤らめ俯いている所は、少しカワイイじゃないか。巧ですら、やりずらそうだ。


「でも、直の言ってる事が本当で、今、人類が人口減少の危機感に瀕しているとしたら、それにいち早く対応するよう進化した雌こそ、セツ姉かもしれないな」


 俺の言葉に、みな納得の様子だった。そして、少しずつ、みんなのエロ心に火が点いたのか、議論が活発になってくる。議論? ま、ただのエロ話なんだが。


「しかし、そのままの形、というのも、なんか芸が無いな」

「わたし、いい考えがあるよぉ! 女子に人気のキャラクターの模様、入れない? 例えば、ミッキーとかぁ?」

「アホかっ! そんな事したら訴えられるぞ!」

「えぇーダメかぁ・・・じゃあ、隠れミッキーとかぁ」

「一生、ディズニーランドに行けなくなってもいいのか?」

「えぇ・・いやだよぉ!」


 


「しかし、男性器というのは、何だってこう不恰好なんだ? 体に付いている状態がすでにブラブラと不安定でいけない。その点、女子器はしっかりと体に対象的に配置され美しいよな」

「対照的!? そうかあ?」

「ふん、少なくとも僕と美留はそうだ! キャサリンは性格が曲がっているから、アソコも曲がって付いてるんだろう?」

「テ、テメエ! キャサリンて呼ぶなって言ってるだろうっ!」


 まあまあと、セツ姉が中と巧をなだめながら、何気なく中に聞いた。


「でも中くん、美留ちゃんの、アソコ、見た事あるの?」

「えっ! あ、い、いや、な、無いよ、見た事なんて、た、ただ、美留ならそうだろうなあ、なんて、僕が思っただけで・・」

「むっ!」


 怪しい、こいつ何か隠しているんじゃないか? 美留も警戒している様に、中を睨みつける。


「じゃあ、こうしない? リアルさを損なわない程度にフォルムをデフォルメしてみない? 可愛らしさをイメージして」

「それって、どんな感じ?」

「粘土で作ってみましょうか? いわゆるクレイモデルね」


 それから、7人の女子校生が粘土でアレを一生懸命作る事となったのだが、正直、それは肉親には見せられない絵面だった。


「キャサリンのなんだ、それ? 犬の糞?」

「なんだと! オマエのこそ、真っ直ぐすぎるだろ! 巨大マッチ棒か!?」

「未理! トゲなんて生やしてどうする気だっ!」

「トゲじゃないよぉ、お耳!」

「耳いらねえよ!」

「美留、機械使わないと、割りと不器用なんだ」

「む!」

「あら、三日月さんの、素敵じゃない?」

「あ、ああ、なるほど、良いかも」

「兄らには美的センスというモノはは無さそうだな。これとて拙にとっては決して満足のいかない失敗作だ。そんなモノが誰もモノより優れているとは」

「でも結局、使えそうなのって、セツ姉のと三日月のくらいだな」

「なんだよ、忍! オマエ、作りもしないくせに偉そうだに!」


 いや、俺は作れないよ、粘土でチン◯なんて。それを嬉々として作るお前ら、やっばり変だよ・・・。


 そんな、下らない、いや、大事? な話合いと作業にたっぷり1日を要し、取り敢えず作成する形状のクレイモデルも完成した。

 もっとも、俺はデンと机に飾られたソレを見て、完成した喜びより、むしろ脱力感を感じてしまった。


 一日中、俺たちは何をしていたんだろう・・・?


 ダメだ、こんな事考えちゃ! 仕事、仕事! 俺たちは一生懸命、仕事してたんだ!

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