第24話 マッドな女

 スカ女、新作バ〇ブの製作が本格的に始まった。

 まずは、おそらく今回のキモともいうべきギミックからスタートした。考える前に動け、巧の信条らしい。

 

 ギミックについては、サンプルの動きをより多く取り入れ、かつコストを抑える事を重要課題にして取り組む事にした。動きとしては、ローリング、伸縮、回転、振動などがあり、各々単一の動きに関しては、それほど複雑な動きはさせていないようだった。複雑すぎるギミックは故障の原因となるとのアドバイスを、リアルドリーム社からもらっている。


 ただ、その既存のギミックだけではインパクトに欠けてはいないか? その中で、大きくなったり小さくなったり、といった動きが可能か? という意見があり、確かに大きさに変化を与えるそのギミックは、既存の製品に余り無いではないようなので、それはもしかしたらアピールポイントになるかもしれない。


 また、モーター、スイッチ類の電気系の部品は、既存のモノをなるべく流用してコストを抑える事にした。

 こうして言葉にしてみると、さも仕事してる風で、さして違和感は感じ無いが、何度も言うが、大人のおもちゃ、である。

 心に浮かぶ背徳感が皆を妙に神妙とさせ、話し合いがスムースに行われるのは、まあ、良い傾向だったが。

 

 ギミックの設計は、円谷直が担当し、今は設計室に篭りっきりとなっている。


 俺と巧は、直への激励も含め、設計室へと訪ねてみた。俺は設計室に入るのは初めてだったが、入って早々に目を奪われたモノがった。それは直の、天然パーマに分厚い眼鏡という、冗談みたいな外見以上に奇妙な、不可思議な構造物だった。

 畳一畳ほどのサイズのそれは、椅子と複数のモニターが組み込まれた操作盤があり、その周りには原色で塗られた細い鉄の丸棒で作った柵の様なモノに囲まれていた。

 乗り物なのか、はたまたオブジェ、というかゲージュツ品? いずれにせよ怪しくも、異常な物体だった。


「お、おい直、・・コレ・・・何だ?」

「それはタイムマシーンです」

「タ、タイムマシーン? ハ、ハハ、冗談だよな?」

「いえ、冗談ではありません。それはタイムマシーンです。すでに完成され後は稼動するのを待つのみとなっています」

「またまたー、俺を笑わせようとしてー。巧、お前からも何とか言ってやれよ」

「いや、これはタイムマシーンなんだろう。直がそう言ってる事だし」


 キタよっ! 今度は何で俺を脅ろかそうと思ってるかと思えば、タイムマシーン? ふざけるのも大概にしろ、と俺は言いたい! ここは奇人変人博覧会か? 冗談じゃない、笑えばいいのか? 怒ればいいのか? 俺にどう反応しろと言うんだ!


「かの藤子不二雄先生が短編で書かれたお話に、私は自らの考えとの一致を見ました。タイムマシーンは創るものではなく創られたものなのです。私がこれをタイムマシーンであると信じる事により、タイムマシーンを開発した未来の私の子孫が私にそのテクロノジーをタイムマシーンに乗り伝えに来る事で、このタイムマシーンが完成されるわけです。現実が先か理論が先か、信じるという事を一つの答えとして無限ループの輪が繋がり、新たなテクノロジーの誕生となるわけです」

「何言ってるんだ、お前? 頭おかしいだろ? じゃあ、こんな装置、いらねえじゃないか?」

「これがタイムマシーンであるという物質的事実があってこそ、無限ループが繋がるのです」

「わ、わからねえ、お前の言ってる事は・・・。けど、いつ来るの、お前の子孫?」

「私はもうすでに私の子孫に会っているのでは、と考えています。例えば、今日はトンカツが食べたい、と考えていると、夕食がトンカツであったり、ああ、これはかつて体験した事がある、といった現象に遭遇する事が頻繁にあるのです。これは、私の子孫が、私に事前に伝えてきた事の証明なのでは、と思うのです」

「いや、それデジャブだから! でなきゃ、ただの思い違い!」


 こいつに設計を頼んでいるが、本当に大丈夫だろうか? と、俺は不安を抱いたが、さすがに巧も不安に思ったのだろう。


「えーと、でさ、直、例のギミックの件、何か良い方法考えたか?」

「私は申し上げた通り未来のテクノロジーを教授される事で、新たな技術を開発する事が可能であると考えており、今はただ天啓を待つのみで良いのです」

「オマエ、何も考えてないんだな?」

「いえ、一つ答えは得てはいるのです。けれど、それが果たして正しいものなのか新しいものなのか、その判断をしかねている状況なのです」

「その考えとやらを教えてくれよ」

「今考えているのは、ローリングと回転と伸縮は、一つの軸に工夫を施す事により可能だと考えています。振動に関しては、本体とは別体となっている小さな突起物を振動させる、既存の技術で流用するのがコスト面からみても得策だと考えています。大小に関しては、複数個のコマを使った細工で対応できれば良いのですが、その構造に関しては、まだ具体化には至っていません」

「うん、結構頭の中では進んでいるようだな、安心した」


 本当に安心していいのか?


「しかし作田さん、一つ疑問があるのですが? 現在こういった複雑な動きを機械的に表現しようと試みているわけですが、実際の男性器もこういった動きをするものなのでしょうか?」

「・・・そんな事、アタシに聞くなよ」

「私としましては、実際の動きを確認する事なく、その動きを再現するというのは、物を創る事の本質からすると間違っているのではないか、と考えていますが、いかがでしょうか?」

「い、いや、間違ってないとは思うけど。サンプルを参考にしただけでは、ダメなのか?」

「サンプルは現物を参考に作られたものなのでしょう。けれど、現物を知らずして現物を模したものをただなぞるだけで、目新しい技術など生まれるわけないと私は考えます」

「じゃあ、直はどうしたいんだ?」

「見たいです」

「ん? 何だって?」

「現物を見てみたいです」


 おいおい、何か話の方向がヘンじゃないの?


「大変恥ずかしい話ですが、私は実際に男性器というものを見た事がないのです。ネット上で出回っている動画に関しましてはかなりの数を閲覧していると自負しており、その形やサイズの多様性についてなど、それなりに理解しているつもりですが、所詮ディスプレイを通しての映像だけでは視覚的なリアリティに欠けていまして、どうしても最後の詰めのようなものに取り掛かれないのです」

「・・・と言う事は?」

「はい。この学校唯一の男性である、下井君にご協力いただければと思います。私が研究した限りでは、ネット上に溢れる無修正動画は、すでにこのサンプルのような勃起状態のものが大多数であって、陰茎が勃起する過程や、勃起した際の動き、その動きが性交にどのような効果をもたらすのかなど、詳細に観察すべき課題を多く抱えている状態です。そしてそれは、新しいギミックの動きに欠かせないものであろうと私は確信しています」

「・・・要は、現物を見てみたいんだな?」

「その通りです。では早速ですが下井君、よろしいでしょうか?」

「忍、どうする? ま、いいか、減るモンでもないし」

「ふ、ふざけるなっーー!!」


 真顔で問いかける直の恐ろしさ! こいつ、こんなエゲツないエロ要素まであったのか、と身震いしたが、巧までもがいやらしい目つきに変わったのが恐ろしい。


「こう申し上げては何ですが、下井君にはこの仕事を成功に導きたいという強い意志が見受けられませんね。阿久根さんもおっしゃっていたように、皆で力を合わせ完成させる、というコンセプトに甚だ合致しないそのような身勝手な行動に私は正直失望しました」

「そうだそうだ、失望するなー」

「おいっ! 何で俺が悪者になってるんだよ? そもそも、何で俺がここでお前らに局部を見せる必要があるんだっ! あるのは、単にお前の興味だけだろっ!」

「それは心外です。今申し上げたようにように、学術的な探究心と今回の仕事を成功に導きたいという、強い責任感から、あえて申し上げているのです。それに世紀の大発明には本物の性器が必要かと?」

「ウルセー! ウマイ事言った、みたいな顔してんじゃねーよっ!」

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