第130話 さらば沖ノノ島
「いいか、そっと、そーっとだぞ?」
意識が無く損傷の激しい二人の体を、運びやすいように戸板の上に移動させる。
楊さんは四肢がボロボロになっていて、体中の数カ所から骨が飛び出しているし、ディソウザさんに至っては折れた柱が今尚背中に突き刺さっている。
この状態で生存しているのは奇跡だと思うのだが、みんなが言うにはスタジアムまで戻れれば二人は助かる……らしい。
滋賀県の名医達が完璧に治療してくれるそうなのだが……こんな怪我でも治せるのか?
因みにだが、二人を探し出せたのは、新たな能力を身に付けたからではない。
そんな簡単にポンポンと覚醒出来たら苦労はしねぇ。
霧姉に追い込まれた事によって逆に冷静さを取り戻せたので、色々考えてみたのだ。
すると真っ先に一つの疑問が浮かび上がった。
運営側は二人が生存しているかどうかを、一体どうやって確認したのか、と。
俺達は脈拍計を装着しているわけじゃねぇし、勿論特殊なチップを体に埋め込まれているわけでもない。
生死を判別する方法は俺の知らない特殊な技術を駆使している可能性が高そうだけど、二人の居場所そのものは島内の隠しカメラで確認しているのではないかと考えた。
ジャッジが隠しカメラで色々と確認していると瑠城さんが言っていたので、もしかすると二人はカメラで捉えられる位置に居るのかもしれないと仮定したのだ。
すると瓦礫の下に埋まってしまっていては、二人の姿は確認出来ない。
だから俺は建物が倒壊していて設置された隠しカメラが機能していなさそうな場所ではなく、未だにカメラが機能していそうな場所で、尚且つエマさんが案内してくれたこの付近で、俺達の死角になっている場所に的を絞って探してみたのだ。
俺の予想は見事に的中。
先に発見出来たのは楊さん。
倒壊寸前だった小屋の屋根の上で発見した。
そしてその小屋とブロック塀の僅かな隙間に挟まっていたディソウザさんを、無事に救出出来たのだ。
こんな所まで吹き飛ばされて死ななかったのは、運が良かったとしか思えない。
ディソウザさんの怪我の方が酷いのだが、もしかすると自分の身を犠牲にして楊さんの事を守ったのかもしれないな。
ゾンビにコンクリートの塊を投げられたあの一瞬で、シュネルスキーさんの体をブン投げて、尚且つ楊さんを守って見せたのだとすると……とんでもない判断力だな。
「ユウマすごいデス! アイランドルーラーのなまえは、ダテではありまセンね!」
「ま、まぁな。お、俺がちょっと本気を出せばこんなもんだよ! ふははー」
「ジュディーがミッケルのキーホルダーを手にして、祈っていたから発見出来たのだぞ!」
「そうデスね! ミッケルのキーホルダーもユウマもすごいデス!」
霧姉は宣伝の為に、どうしてもミッケルのキーホルダーの手柄にしたいみたいだ。
探し出したのは俺だけど、二人を見つけられたのなら手柄なんてどっちでもいいよ。
何はともあれ、これで俺も無事にスタジアムに帰還出来そうだ。
シュネルスキーさんとエマさんの二人で楊さんを、そして俺と霧姉でディソウザさんをそれぞれ戸板で運んで漁業センターまで戻ると、参田高校の二人が公衆トイレの傍で、変わり果てた姿となって横たわっていた。
二人共ウォーターウェポンを手にして倒れているので、思った通りあのゾンビに攻撃を加えたみたいだ。
守ってやりたかったけど……すまなかったな。
「噛まれたわけではなさそうですね」
「そうみたいだね。……雄磨、因みにお宝はどっちが持っているの?」
「……部長の十枝内君だ。インナーのズボンのポケットに仕舞われている」
死体に近付くのは苦手なので、お宝の回収は瑠城さんと泉さんの二人に任せた。
これでポイント差でドリームチームに逆転される可能性は完全になくなった。
俺達樫高の優勝が確定した瞬間だ。
怪我をしているからなのか、もう試合を諦めてしまっているのかは分からないのだが、ジュディーさんは参田高校の二人の死体漁りには参加しなかった。
高ポイントのお宝を回収したところで、俺達のポイントに追い付けないのは、恐らく端末で確認済みなのだろう。
「……このしあいでは、ユウマたちに、たくさんめいわくをかけてしまいまシタ」
「だから高額なお宝を譲ってくれるのか?」
「おかねでかいけつするわけではありまセンが、いまのわたしたちにできるのは、これくらいしかありまセンから……。それにユウマたちには、たくさんのおかねがひつようでショ?」
「……ああ。そうだな。そういう事なら遠慮なく頂いておくよ」
水亀商店の借金返済や、篠のお爺さんの治療費、それに泉さんのウォーターウェポンブランドの設立費。
資金は多ければ多い方が良いだろうし。
お宝を回収した瑠城さんと泉さんが大はしゃぎしているので、とんでもないお宝を回収出来たのだろう。
それと同時に帰還船が沖ノノ島漁港内に進入して来た。
厳つい容姿の船長から入念なチェックを受け、俺達樫高の五名、ドリームチームの五名が乗船すると、帰還船は二度の警笛を沖ノノ島内に響かせて桟橋を離れ始めた。
もうこの島を訪れる事は二度とないだろう。
嫌な思い出ばかりが詰まった選手権だったけど、無事に勝利出来て本当に良かった。
「……なぁ、この後スタジアムで放水されるんだよな? 楊さん達の傷口が悪化してしまうんじゃねぇか?」
「いえ、その心配はありませんよ。選手が命に係わる怪我を負っている場合は、緊急処置プログラムが適応されますので、スタジアムの傍で救急艇が待機しています。お二人は救急艇に乗せ換えられて、そのまま病院に搬送されますよ」
なるほど。それで船長は楊さん達が噛まれていないかどうかを入念にチェックしていたのか。
船で病院に直行出来るような設備も整えてあるみたいだし、一応選手の事も考慮されているみたいだな。
試合会場では容赦しないけど、帰還出来た選手は英雄として讃える、という事なのだろう。
瑠城さんの言う通り、スタジアムの傍では二艇の救急艇が待機していて、救急スタッフが迅速な対応で一人ずつ救急艇に乗せ換えると、すぐに病院へとボートを走らせた。
スタジアムからは地鳴りのような大歓声が響いて来る。
俺達の帰還を今か今かと待ち構えているみたいだ。
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