第126話 死闘


 「二刀乱舞さんのフィニッシュが失敗に終わるまでは、決して手出ししないようにして下さい」

 「どうしてだ? デュアルパイソンや商売上手がゾンビの動きを止められれば、俺達が狙撃しても倒せるかもしれないのだぞ?」

 「腕の動きを封じ込めても、狙撃を回避する動きまで封じ込められないかもしれませんよ?」


 瑠城さんとシュネルスキーさんが少しもめている。

 リスクを冒して強制防御システムを無効化出来ても、狙撃によって強制回避システムが作動して避けられてしまえば、篠が止めを刺すチャンスを逃してしまうかもしれないし……。


 「……そして二刀乱舞さんのフィニッシュが失敗に終わってしまった場合に限り、霧奈さんやデュアルパイソンさん諸共、撃ち抜くつもりで狙撃して下さい」

 「はぁ? 何言ってんだよ瑠城さん! そんな無茶苦茶な――」

 「いいですか雄磨君、私達が狙撃して怪我をしてしまっても、病院まで戻れればいいのです。噛まれてさえいなければ、生き延びられるのですよ。せっかくお二人が苦労して作って下さったチャンスを、みすみす逃す手はありません」

 「そうだぞアイランドルーラー。俺たちプロのゾンビハンター達にとって、大怪我なんて大したものではない。むしろそれだけの大怪我を負っても尚、噛まれずに生き延びられたのなら、それは勲章みたいなものだ」


 だ、駄目だ。この人達の考え方について行けそうにねぇぞ。

 ジュディーさんもこの選手権が復帰戦だって言っていたのに、いきなりこんな危険な役割を担っているし。

 プロのハンター連中は頭のネジが数本ぶっ飛んでしまっているとしか思えねぇ。

 ここは何としても今回の作戦が上手く行く事を願うしかねぇな。



 先頭を駆けるジュディーさんの背後を追い掛ける形で、霧姉がピタリとくっ付いている。


 「二刀乱舞さーん! 一歩下がってくれ!」 

 「き、霧奈お姉さん! 何をするつもりですか!」

 「二人でゾンビの腕を押さえ込む! ヤツに止めを刺す役割は任せたぞー!」


 ゾンビに向かいながら篠に指示を飛ばしている。


 「分かりました! 一瞬で仕留めてみせます! 気を付けて下さい!」


 ジュディーさんと霧姉のセイバーに蒸気が纏い始めたところで、篠が背後に飛び退いた。

 いよいよ一か八かの作戦が決行されようとしている。


 「せやぁー!」


 ジュディーさんの横薙ぎ一閃が、田井中の体が縫い付けてあるゾンビの右半身、脇腹の辺りへと向けられた。

 篠の一撃に比べるとスピードもパワーも劣っているのだが、もしかするとこれはゾンビがガードし易いように、故意に威力が弱められているのかもしれない。


 「「ゥガァ?」」


 馬鹿にしているのかとでも言わんばかりに、ゾンビは軽々と右手でセイバーを掴んだ。


 「いまです、しょうばいじょうずサン!」

 「よしきた、任せろ!」


 何度も練習していたような流れる動きで、自身が手にしていたセイバーをジュディーさんに手渡すと、霧姉はジュディーさんの脇をすり抜けてゾンビの右腕に飛び掛かった。


 「ぅをりゃー!」


 肘の部分に両腕を回してゾンビの背後へと回り込むと、今度は両足をゾンビの右足太股に絡み付けて体をガッチリとロックしている。


 上手い。スタジアムで進行役のオッサンを引き留める時みたいにスムーズな動きだったぞ。

 あの低い位置なら、霧姉のパワーが勝っている間は噛み付こうとしても届かないだろう。

 霧姉が掴み易い位置でゾンビがガードするようにと、ジュディーさんの攻撃も調整されていたのだな。


 「「ゥガァァァーー!」」


 事態を察したゾンビが左腕を振り上げようとしているのだが、セイバーを受け取ったジュディーさんが既に追撃のモーションに入っている。

 このまま霧姉をぶん殴ろうものなら、テメェはジュディーさんにぶった切らてしまうぞ?

 さぁ、ガードだ。ガードをしろ!


 「ぅを――ぅををを! 凄いパワーで体が引き千切られそうだ! 急いでくれー!」


 霧姉が必死に強制防御システムを止めているみたいだ。

 ゾンビの胸の機械は上手く作動していないからなのか、先程までとは違い不規則に青く点滅を繰り返している。


 「「コーロースー!」」


 ゾンビは攻撃を諦めた様子で喚いていて、狙い通りジュディーさんの一撃をガードさせる事に成功した。

 そしてジュディーさんも霧姉の時と同じように、ゾンビの腕を掴んで背後に回り込んだ。


 「にとうらんぶサン! いま……デス!」


 ……ただし掴まった位置が悪かったのか、足の絡ませ方が不十分な気がする。

 霧姉みたいにガッチリと体をロック出来ていない様子で、ジュディーさんは苦しそうな表情を浮かべている。

 あの体勢のままで本当に大丈夫なのか不安だけど、既に篠は攻撃モーションに入ってしまっているので、ジュディーさんに頑張って貰うしかなさそうだ。


 なんとか持ち堪えてくれよ、ジュディーさん! 


 「「コーロースー!!」」

 「……もうあなたの顔は見たくないです」


 飛び上がった篠は左手で逆手に握ったセイバーを田井中の喉元に突き刺すと、一気に真上へと振り抜いた。

 

 「ゥガァーー!」

 

 田井中の頭は真っ二つに引き裂かれ、大小様々な肉片が派手に宙を舞う。

 矢継ぎ早にゾンビの右肩に蹴りを入れて体勢を整えた篠が、勢いそのままに今度は伊富貴の頭に襲い掛かろうとしている。


 「「「「行けー!」」」」


 俺や瑠城さん達観戦組の声援が一つになって木霊したところで、一番恐れていた事態が発生してしまった。


 「きゃぁー!」


 ジュディーさんの両足のロックが外れてしまったのだ。

 ゾンビの腕にぶら下がり、宙ぶらりんの状態になってしまっている。


 強制防御システムは作動していないみたいだけど左腕は動かせるらしく、しがみついているジュディーさんは高々と持ち上げられてしまった。


 そして――


 「……ぐっ」


 ジュディーさんの微かな声が耳に届いてしまった。

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