第120話 新たなる脅威 


 「フムフム、お話は聞かさせて頂きましたよ雄磨君。ですが今はまだ私達が負けていますのでお宝の回収が先決です。急ぎましょう! さぁ皆さんも出発しますよー」


 会話に割り込んで来た瑠城さんに、半ば強引に背中を押されて、お宝の回収に向かう事になった。

 瑠城さんの態度ですぐに気付いたのだが、この話は人前ではしない方がいいのだろう。


 ……って事は、瑠城さんも俺達の会話から、運営側の何かしら不穏な動きを察知したのか。


 「……泉さん、悪いんだけど二刀乱舞さんのセイバーも改造してもらってもいいか?」 

 「いいけど……もう強そうなゾンビは居ないんじゃないの?」

 「万が一って事もあるからさ」

 「……分かったわ。ちょっとセイバー貸してくれる?」


 歩きながらではあるけど、セイバーの改造に取り掛かってくれた。


 タンクを背負っている俺としては、倒壊した家屋の瓦礫の上を歩き続けるのは、足腰への負担が非常に大きくて移動するのも一苦労だ。

 ドリームチームがジャイアントノーズとビヒーモスの亡骸を捜索している間、俺達は倒壊して瓦礫の山と化したお寺の傍までやって来た。

 島の北側へと向かう道沿いに建っていたお寺で、エマさんが最初にカメレオンを倒した場所でもある。

 ここのお寺は門を潜った先の境内が広く、その一角に大破した二メートル程の石像が横たわっていた。

 お宝はその石像の足首だけが残された台座部分に、お供え物でも置いてあるかのように設置されていた。

 倒壊している外門のすぐ傍だったので、下敷きになっていればお宝の回収に時間が掛かってしまうところだったな。


 「ホラ、霧姉。お宝だ」


 回収して霧姉に手渡したのは車の鍵だ。

 オープン戦の時にもあったけど、これはスタジアムに戻ってから自動車本体が貰えるのだが……鍵には超高級スポーツカーのロゴが入っていた。


 「「「おおー!」」」


 高校生の試合にお宝として車を用意するのもどうかと思うが、どうせ試合後に換金するので、俺としては持ち運びしやすいお宝なら何でもいいぞ。

 予選では図書カードとかだったのに、この決勝戦は参田高校が回収したお宝といい、かなり高額なお宝が用意されているみたいだ。

 それだけこの決勝戦が盛り上がっていて、運営側にも莫大な利益がもたらされているというわけだな。


 「ドリームチームのポイントは上回ったけど、参田高校にはまだまだ及ばないぞ。雄ちゃん次だ次!」

 「はいよ、ちょっと待ってくれよ」


 確かここから一番近いのは、島の北側に出てすぐの民宿だったはず――とお宝の設置場所を確認していると、それは突如として起こった。

 真っ先に死を予感させる程の凶悪な黒い靄が学校方面に出現したかと思うと、すぐさまこちらに向かって移動を開始したのだ。

 しかも動きが早く、このままではすぐに戦闘になってしまいそうだ。


 「どうしたのだ雄ちゃん? おい――」

 「ま、まずい。まずいぞ! もう一度ドリームチームのみんなと合流しよう!」


 ナーガ改バベルタイプやジャイアントノーズが可愛く見える程の禍々しい靄だ。

 このままでは犠牲者が増えてしまうどころか、俺達も無事に帰還出来ねぇかも……。


 「はぁ? どうしてだ? 早くお宝を回収しないと――」

 「いいから早く!」


 不満そうな霧姉の腕を引っ張って、ジャイアントノーズの亡骸を調べていたドリームチームのもとへと向かった。




 「シャサールさん! どうしたのデスか、しっかりしてくだサイ!」


 エマさんは何かに怯えるようにして、地べたに座り込んでいた。

 学校方面から向かって来る得体の知れない何かの存在を感じ取ったのだろう。

 

 「ジュディーさん、それにみんなも聞いてくれ。とんでもねぇバケモノがこっちに向かって来ている。このままだと俺達は全滅するかもしれねぇぞ」

 「……ちょっと雄磨君。この錚々そうそうたるメンバーが揃っていて、それは流石に大げさではないですか?」

 「確かに俺はビビリだけど、今回は大真面目だ!」


 今日帰還船に乗っていた時から、ずっと嫌な予感はしていた。

 もしかしたら突然現れたこのバケモノの存在を示唆しさしていたのかもしれねぇな。


 「……つよそうなゾンビがむかってくるのデスね。うふふ、チャンスです。わたしたちがたおしマスよ!」

 「駄目だって! そんな簡単そうな奴じゃねぇんだって! 戦うにしてもみんなで協力しねぇと――」

 「おたからにかんしては、ユウマとまっこうしょうぶでは、わたしたちにかちめはありまセン。ですから、ここでゾンビをたおさないと、わたしたちはまけてしまいマス!」


 ジュディーさんが背負っていたタンクを地面に降ろし、腰に差していた二丁のハンドガンを取り出すと、楊さんと肩を借りているディソウザさんもそれぞれアサルトライフルを構え始めた。


 「シャサール立て。ゾンビを迎え撃つぞ」

 「……はい」


 エマさんの脇を抱えて立ち上がらせると、シュネルスキーさんは狙撃銃のポンプ圧を上げ始めた。


 ……くそ! どうなっても知らねぇぞ!


 「ジュディー達に後れを取るわけにはいかないぞ! 私達も戦闘準備だ!」

 「よーし、今度こそアイツには負けないよ!」


 ジャイアントノーズの狙撃対決で負けてしまったのが余程悔しかったのか、泉さんはシュネルスキーさんを睨みつけている。


 「彩芽は私達の傍で待機、そして二刀乱舞さんはいつでも飛び出せるように準備しておいてくれ」

 「「はい」」


 篠と瑠城さんも気合を入れ直している。

 みんなが少し熱くなっているのが気掛かりだけど、……こうなったら俺は俺の出来る事をしよう。

 ドリームチームはタンク役が居ないので給水出来ないだろうし、勝負よりもみんなが生き残れる方を優先して、給水してまわれるように準備をしておこう。

 

 各々が瓦礫を背にして身を隠し始めたその時――


 「ぎゃぁーー!」


 遠くの方から微かに悲鳴が聞こえて来た。

 ……し、しまった。参田高校の二人が漁業センターに残っていたのを忘れていた。


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