第119話 嫌な予感


 「言っちゃなんだが、彼等が高ランクのゾンビを倒したとは思えないのだが……」

 「って事は、お宝を発見したって……はっ!! そ、そうか――」


 確かこの神社にはお宝も設置されていたはずだ。

 改めてお宝の位置を探ってみても――やっぱり見つからねぇ。


 参田高校の部長さん、十枝内君はここに設置されていたお宝を発見していたのか。

 しかし今まで俺達が発見したお宝でも、そんなに高ポイントのお宝はなかったはず。

 一体どれほど高額なお宝を発見したのだろうか?


 「どうしたのだ雄ちゃん。彼等が獲得したポイントに何か心当たりがあるのか?」

 「……ああ。霧姉達には言ってなかったけど、この倒壊した舞台に掛かっていた絵の裏側に、お宝が設置されていたんだよ。今探してみても見つからねぇし、参田高校はそのお宝を回収したのだと思う」

 「なるほど。回収したお宝さえ持っていれば、チームに入ったポイントは消えないからな」


 ……確か瑠城さんが、お宝を回収して得たポイントは噛まれても消えないから、俺は噛まれても平気だ――なんて事を冗談で言っていた気がする。

 ゾンビに噛まれて部員は二人に減っていたけど、十枝内君か泣き崩れていた女子部員がお宝を所持しているので、ポイントは失われていないのか。


 「……むぅ。もしかして十枝内君が言っていた『お礼』って言うのは、自分達が回収したお宝の事だったのかもしれないな。……時間もなかったし、必要ないって断ったけどさ」

 「命を助けて貰ったお礼と称して、私達に勝利を譲ろうとしたのかもしれませんね」


 あの時、十枝内君は何処か思い詰めた表情をしていた。

 別行動を取る時にウォーターウェポンの設置場所を教えた時も驚いた様子をみせていたので、今回助太刀に入った事も、十枝内君からしてみれば意外な行動だったのかもしれねぇな。

 胸の中で色々と思うところがあったのか、それとも部員達を失ってしまい自暴自棄になっていただけなのか……。

 どういうつもりだったのかは分からねぇけど、現状ポイントで負けているのは確かだ。


 「……それはさておき、私達がここから逆転する為にはお宝を探す必要がありそうですね。雄磨君、他のお宝の設置場所はもう探せていますか?」

 「ああ。ジャイアントノーズ達の亡骸の傍に設置されているのが一番近い。まずはそれから回収しよう」


 お宝が設置されている周辺の民家は、ペシャンコに潰されていて給水が出来ないので、まずは近くの民家に立ち寄ってから装備を整える事にした。

 





 「がおぉー! ぞんびデスよー!」

 「冗談はよしてくれよ、ジュディーさん」


 瓦礫の山と化した地域で、俺達と同じでお宝を回収に来たドリームチームのみんなと遭遇した。

 ディソウザさんの足には包帯が巻かれていて、今は楊さんが肩を貸して歩いている。

 足があの状態では、ディソウザさんのパワーでもタンクを背負うのは厳しいみたいで、ジュディーさんが代わりにタンクを背負っている。


 ドリームチームのみんなを見てみると、シュネルスキーさんは俺が設置場所を教えた狙撃銃を所持しているのだが、それ以外のみんなもしっかりとウォーターウェポンを装備している。

 俺達なんてあっちにウロウロ、こっちにウロウロとして、結局アサルトライフル一丁と狙撃銃一丁しか回収出来てねぇし……。

 こういったところは流石プロとして活躍しているだけの事はあるよな。


 「……もうユウマには、おたからのせっちばしょが、わかっているのデスよね?」

 「えーっと、まぁ……そうだな」

 「わたしたちは、いまからジャイアントノーズとビヒーモスのなきがらをしらべて、おたからのヒントをさがしマス」


 そうか。こういうゾンビ達って、お宝の設置場所のヒントとか、鍵の在り処なんかが書かれたメモを所持している事があるのだったな。

 俺達はそういう手順を全部すっ飛ばしているから、今の今まで完全に忘れていたぞ。


 「えーん、このままではユウマたちにも、まけてしまいマス!」

 「……そんな泣き真似しても無駄だぞ? 俺達はこの試合、絶対に勝たなきゃならねぇからな。設置されているお宝は根こそぎ回収させて貰うぞ」

 「ちもなみだもありまセンね」


 ちなみに俺がジュディーさんと話している傍では、泉さんとシュネルスキーさんが子供みたいな言い合いをしている。


 「絶対にミスジャッジだよ! 止めを刺したのはアタシだよ!」

 「そんなわけあるか! アレは俺の勝ちだよ! それにゴッドハンドの狙撃は、全部ビヒーモスに当たっていたじゃないか!」

 「ビヒーモスの体を貫通させて攻撃していたのよ!」

 「そんな無茶苦茶な事が出来てたまるか!」

 「アタシには出来るもん!」

 「出来ないね!」

 「出来るもん!」


 ……うるさい。誰か止めてくれよ。

 ジャイアントノーズを倒せたのだから、どっちでもいいじゃねぇか。


 出来る出来ないを延々と繰り返されてウンザリしていると、表情の乏しいエマさんが俺に向かって小さく手招きしていた。

 この人は何を考えているのかよく分かんねぇんだよな。

 まぁ俺もちょっと聞きたい事があったし、ついでに聞いてみるか。


 「どうしたんだ? ……商品の事なら霧姉に聞いてくれよ?」

 「そうじゃない。アナタに聞きたい事があります。危険だと騒いでいた風達が、少し前に急に静かになりました。心当たりはありませんか?」

 「か、風が騒いで……?」


 なんのこっちゃ?

 ……そう言えばエマさんは、風や土地とお話しするちょっとアブナイ人だったな。

 まさか本当に風と会話してゾンビが居る方角を言い当てているのか?


 風の事は俺には分からねぇけど、エマさんも俺と同じ疑問を抱いていたみたいだ。


 「……もしかして、あと二体居たはずの強そうなゾンビの事か? 俺も疑問に思っていたんだよ」


 ジャイアントノーズとビヒーモスの争いに巻き込まれてしまったのかとも思ったけど、何処にもそれらしき亡骸は発見出来ないので、そういう事でもないらしい。

 俺も全く気付かない間に存在を消していたのだ。

 エマさんも同じように感じているのなら、俺の気のせいではなさそうだ。

 そして瓦礫の山で押し潰されていた田井中ゾンビの亡骸は数体見つかったけど、コイツ等の亡骸は残されているのに、二体の強そうなゾンビだけは浄化してしまったというのは考えにくい。


 運営がまだ何か企んでいる気がしてならねぇ。

 瑠城さんに相談した方が良さそうだな。

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