第118話 狙撃合戦の結末
「なかなか動かねぇな」
「警戒しているのだと思います。私達やドリームチームの存在をニオイで察知しているのかもしれませんね。でもこのまま待機していれば、危険はないと判断して――っと、説明していたら、いよいよ捕食するみたいですよ、ほら!」
ジャイアントノーズの肌色だった体に、一本の赤紫色の筋が鼻筋中央部分から天辺目掛けて縦にスッと入り、徐々にその筋が濃く太く変色していく。
ビヒーモスの赤黒い巨体が横たわっているので、ジャイアントノーズの巨体の下半身……と言っていいのか、鼻の下側半分くらいはここからでは見えないのだが、同じ現象が起こっているのは間違いないだろう。
そしていよいよ赤紫色の筋にメリメリと亀裂が入り、まるで食虫植物が閉じていた二枚の葉を開くように、体を大きく引き裂き始めた。
体の裂け目部分にはギザギザの棘が付いていて、涎なのか体液なのか不明な液体が滴り落ちている。
「気持ち悪ぅ! 何だよアレ! い、泉さん、さっさと狙撃して始末してくれ!」
「雄磨うるさいよ。まだ駄目だよ、ね? 彩ちゃん」
「その通りです。雄磨君、少し落ち着いて下さい。今ここで狙撃してしまうと、致命傷を与える前に元の姿に戻ってしまう恐れがありますので、この後ビヒーモスを捕食する瞬間まで待った方が良いのです。その辺りの事は
「……た、確かに」
鉄塔を登り切ったシュネルスキーさんは、狭い天辺で微動だにしていない。
もしも狙撃していたら、シャカシャカとポンプ圧を上げていると思う。
「見て下さい雄磨君、ビヒーモスを取り込み始めましたよ!」
裂け目部分に出来ていた赤紫色でギザギザの棘が、自分で意思を持っているかのようにウネウネと伸び始めた。
「……この後が勝負です。伸びた触腕が獲物を抱えようとビヒーモスに向かい始めたら狙撃して下さい。一度抱えようと動き始めれば、ちょっとやそっとでは諦めませんから」
「任せて。……今回は貫通力重視で改造してあるんだけど、ビヒーモスの後頭部の辺りを撃ち抜けば、ジャイアントノーズにも致命傷を与えられるかな?」
「そうですね。ここからなら、丁度その辺りがいいと思います」
「彩ちゃん、タイミングだけお願いね……ブツブツ」
泉さんはスコープを覗き込みながらお祈りを唱え始めた。
トリガーに指を添えて瑠城さんからの合図を待っている。
そして遂にその時が来た。
ウネウネと自由意志で動く数本の触腕が、ここからでは死角になっていた横たわるビヒーモスの背後から、包み込むようにして一気に飛び出した。
「今です泉さん!」
ガシュ!
瑠城さんの合図と同時に、金属の軋む音が混ざった射撃音が鳴り響いた。
ここからだと遠過ぎて命中したのかどうか分からないのだが、ジャイアントノーズの触腕の動きが止まっているように見える。
……ジャイアントノーズは雄叫びとか呻き声とか叫ばねぇんだな。
ギャーとかウガァーとか言ってくれれば分かりやすいのに。
泉さんは二発目を放つ為に、全力でポンプ圧を上げている。
「泉さん、効いていますよ! 水が無くなるまでガンガン撃ち続けて下さい!」
「オーケー! どんどん行くよー!」
その間シュネルスキーさんの様子も窺ってみたのだが、泉さんと同じようにポンプ圧を上げているみたいだ。
三発、四発と泉さんの射撃が続くにつれて、ジャイアントノーズの触腕が力を失うようにだらりと垂れ下がり始めた。
「雄磨、タンクが空になったから給水してー!」
「いや……もうその必要はなさそうだぞ?」
ジャイアントノーズに掛かっていた黒い靄はすっきりと消え失せていて、今では脅威を全く感じない。
一切動かずに触腕もぐったりとしているので、どうやら無事に仕留める事が出来たのだろう。
「おーいコラー! 私を忘れるなー! どうなったのだ? こっちからは何も見えないのだぞ!」
渡した屋根を支える為に、一人境内に残っていた霧姉が騒ぎ始めたので撤収作業を開始した。
「ぐははー! アッサリと片付いたなー! 余裕余裕!」
「どこがだよ! 今回も結構ギリギリの戦いだったじゃねぇか!」
帰還船から降りて速攻で追い掛けられた事を忘れたのか?
「そんな事より、勝負の結果はどうだったの? アタシの勝ち?」
「ちょっと待ってくれよ泉、今ポイントを確認するから」
霧姉は左腕に装着した端末を操作している。
確かジャッジが見てるとか何とかで、止めを刺した人物にしかポイントは入らねぇんだよな。
「一体どういう事だこれは……」
霧姉が端末を操作しながらブツブツと呟いている。
「何かの間違いじゃ――」
「どうしたんだよ。一人で見てないで俺達にも教えてくれよ」
「そ、それがだな。私達のポイントは一万二百ポイントで、ドリームチームのポイントが一万二千三十ポイント。ジャイアントノーズを倒したのは、ドリームチームの方だとジャッジされているのだが――」
「えー! アタシが止めを刺したんじゃないのー?」
泉さんはとても不満そうだが、ジャッジがそう判断したのなら仕方ない。
それに二千ポイントくらいの差なら、今から全力でお宝を回収すれば十分に逆転出来るポイント差だ。
強そうなゾンビも居なくなった事だし、慌てる必要はなさそうだ。
……それにしては、霧姉の顔色が優れないのが気になる。
「……ドリームチームとのポイント差は二千ポイントくらいなのだが、参田高校とは一万ポイント近く離されているぞ!」
「はぇ? 参田高校?」
霧姉はゆっくりと端末をこちらに向けた。
『参田高校 二万六十ポイント』
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