第113話 ルール変更?


 「教えて差し上げれば宜しいじゃないですか」

 「でもよ瑠城さん、霧姉に相談しなくて大丈夫かなぁ?」

 「大丈夫ですよ、きっと。それにドリームチームの皆さんには、ジャイアントノーズの囮になってもらった借りもありますから。ウフフ、借りは返せるときに時に返しておかないと、大変な事になりますよ?」

 

 そうだった。

 ジュディーさん達は何も言わねぇけど、俺達を逃がす為に囮になってくれたんだった。


 ……囮になってみんなを助けたんだから、今度ランキング戦に一緒に出ろとか頼まれたら厄介だしな。

 まぁでも、この人達はそんな事言わねぇとは思うけど、ウォーターウェポンの在り処くらいなら、さっきも参田高校のみんなにも教えたし問題ないだろう。


 「いいですよ、教えますよ。でもその前に、俺からもひと言言わせて欲しいんだけど、いいかな?」

 「どうしたのデスか?」

 「ドリームチームの皆さん、俺達を逃がす為に危険な目に遭ってまで、ジャイアントノーズを引き付けてくれてありがとう」


 シュネルスキーさん達と同じように、俺も深々と頭を下げた。


 「……そうですね、私からもお礼を言わせて下さい。皆さん、ありがとうございました」

 「……ありがとう」


 俺に釣られて瑠城さんと篠も頭を下げている。


 「ふぇ? ……わ、わたしにはなんのことだかサッパリです。……その、わたしはいぜんのしあいでやられてしまったジャイアントノーズに、リベンジしたかっただけで……デスね、みんなをたすけるだとか、おとりになるだとか、……いやホント、そういったコトはぜんぜん――」

 「何言っているんだよデュアルパイソン。みんなを助けようって真っ先に言い出したのは、デュアルパイソンじゃないか」

 「ちょ、ちょっとクライナビーナさん、よけいなことはいわないで――」

 「……あわよくば試合後に、どブサにゃん極ポーチの限定BOXをおねだりしたい、とも言っていました」

 「シャサールさん! しー! それはないしょデス! そしてこんなときだけ、ふつうにかいわしないでくだサイ!」


 ……俺達がお礼を言ったから照れているのかと思ったけど、少しの下心もあったみたいだ。

 ジュディーさんは耳まで真っ赤にしている。


 そしてディソウザさんは何も言わずに顔を引き攣らせている。

 ジュディーさんがジタバタと動き回る所為で、痛みが足に響いていると思うのだが、男として痩せ我慢を貫き通すみたいなので、さっさと話を終わらせてあげた方が良さそうだ。







 「消防艇の甲板の上、ですね?」

 「ええ、そこに大きいサイズのウォーターウェポンが置いてありますよ」

 「ありがとうございます。では僕とシャサールで急いで取りに行って来ます」


 楊さんとエマさんがセイバーを手にして、消防艇庫に駆けて行った。

 この場所からだと、往復でも五分も掛からないだろう。

 そしてこの場に残っているジュディーさんとクライナビーナさんは、瑠城さんと何やら真剣に打ち合わせをしている。

 一体何の話しをしているのかは不明だが……どうやらその話も纏まりつつある様子。

 

 「――よろしくおねがいしマス」

 「では後ほど。……雄磨君、私達もそろそろ霧奈さん達の所まで戻りましょう」

 「そうだな。……じゃあみんな、くれぐれも気を付けて!」

 「ユウマたちもきをつけてくだサイ!」


 ジュディーさん達に手を振り、急いで漁業センターへと向かった。


 前方からは霧姉と泉さんもこちらに向かって駆けて来ていたので、丁度漁業センター前で落ち合うかたちになったのだが……何故この二人は手ぶらなんだ?

 しかも霧姉の機嫌が無茶苦茶悪そうだ。何かあったのか?

 

 「……やられた」

 「どうしたんだよ。漁船を解体するんじゃなかったのか?」

 「……無いのだ」

 「は? 何がだよ」

 「その解体する筈だった漁船が無いのだ!」


 へ? 漁船が……無い?

 何でだ? 試合後のメンテナンス作業で、壊れた島の設備なんかは、何から何まで元通りに修復されるんだろ? 


 「なぁ彩芽、こんな事ってあるのか? ウォーターウェポンの作成に必要なパーツが備わっている漁船だけ無いのだぞ?」

 「恐らくですが、私達にミニガンを作らせないようにする為に、この試合のみ撤去されたのだと思います。あのミニガンなら、ジャイアントノーズでも簡単に仕留められると思いますから」


 ミニガンが強力過ぎたのか。

 霧姉が使っただけならまだしも、青龍高校の氷見山君は押し寄せるゾンビの波を、ミニガンだけで乗り切りかけたらしいからな。

 破壊力をまざまざと見せつけられた運営は、相当焦ったに違いない。


 ……だからと言って、勝手にルールを変更するのはどうなんだ?


 「……ですがミニガンが作成出来ないとなると困りましたね。実は先程ドリームチームの皆さんとジャイアントノーズの討伐作戦を話し合って来たのですよ」


 瑠城さんは話を続けながら、今尚ドカンドカンと激しく暴れ回っているジャイアントノーズ達の方向を指差した。


 「今ジャイアントノーズと戦っているのはSSSランクのビヒーモスだそうですが、ジャイアントノーズが勝利を収めるのは時間の問題です。ビヒーモスを捕食するタイミングにドリームチームの皆さんが間に合わなければ、私達で止めを刺して欲しいと頼まれていたのですよ」

 「マズイじゃねぇか。どうすんだよ」

 「ミニガンが作れないのであれば、別の方法を考えるしかありませんね」

 「……彩ちゃん、捕食のタイミングを狙撃するのって、実は凄く難しいよね?」 


 ……確かに。泉さんの言う通りだ。

 鼻先を口のように大きく開いて捕食するらしいけど、獲物であるビヒーモスの体がすぐ目の前にある状態で口を開かれたら、その奥に埋まっているという脳に攻撃を当てるのは非常に困難だろう。

 しっかりと獲物の位置を見極めて、鼻先の開いた部分の奥を狙える狙撃ポイントに移動しないと、狙撃してもビヒーモスに当たってしまう。

 しかもジャイアントノーズに気付かれないよう、十分に距離を取った位置から……って、こんなの無理じゃねぇか?


 「……アタシも狙撃する。ビヒーモスの体ごと貫いてやる。雄磨、アタシの得物も探してくれる?」


 泉さんが沸々とやる気を漲らせ始めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る