第108話 本気のアピールタイム
『――以上、参田高校のご紹介でした! 皆様、もう一度大きな拍手をお願いします!』
パチパチパチ……
水上ステージで最初に紹介されたのは参田高校。
言わずと知れた日本屈指のスポーツ強豪校だ。
勿論ゾンビハンター部にも力を入れていて、毎年全国大会出場を果たしているそうだ。
特に今年は精鋭揃いだそうで、部長の
部長の十枝内君が真面目な為か、参田高校の紹介は終始淡々と進められたのだが、ドリームチームのメンバー達の紹介が始まると、会場の雰囲気がガラリと一変した。
ジュディーさんが進行役のオッサンと一緒になって、シュネルスキーさん、ディソウザさん、楊さんの三人に話を巧みに振っていて、スタジアムは笑いで包まれっぱなしだ。
決勝戦だと言うのにちょっとふざけ過ぎな気もするけど、みんなとても話し上手で、こういうやり取りに慣れているのだろうな。
……エマさんだけは、沖ノノ島の方角をじっと眺めたままで、会話には一切加わっていなかった。
『最後に一つ、これだけは言っておくぞ!』
マイクを奪い取ったシュネルスキーさんが、人差し指を空に突き立てて話し始めた。
『この選手権に出場したかったのは、デュアルパイソンだけではない! 俺達四人もずっと出たかったんだ! このチームで出場出来るなんて、凄い事じゃないか! ……裏で色々と言われているみたいだが全て事実無根だ。プロとして活躍する以上、取れるタイトルは全て取りたいと思うのが当然だろ! だからこの試合も俺達が必ず勝つ! 優勝するのは俺達だ! ……以上』
シュネルスキーさんは進行役のオッサンにマイクを返した。
……色々言われてるって何の事だ?
「実は雄磨君が寝込んでいる間に色々とありまして、ドリームチームのメンバー達が何故選手権に参加したのかと、今頃になってインターネット上で物議を醸していたのですよ」
「へー、そうなのか」
「運営側からお金を貰って出場しているのではないか? ゾンビやお宝の情報を得ているのではないか? そして私達樫高を邪魔する為に依頼されたのではないか? などなど。インターネット上ではちょっとしたお祭り騒ぎになっていたのですよ」
「ふーん。でもよ、そんな話題なんてゾンビハンター社なら簡単に揉み消すんじゃねぇのか?」
「あくまでファン達の憶測の範囲ですからね。どうやら今回は話題作りの為なのか、そのまま放置されているみたいですよ?」
まぁ俺も最初にドリームチームの事を知った時は、何故全く関係のないこの人達が参加するのかと疑問に思ったし、どうせゾンビハンター社に金で雇われたんだろうなぁとは思ったけど。
シュネルスキーさんが『俺達四人もずっと出たかった』と言った時に、他のメンバー達もウンウンと頷いていたし、単純に唯一のチーム戦である選手権に出場したかっただけなのか……実際のところは分からねぇな。
そしていよいよ進行役のオッサンが俺達樫高へと歩み寄って来た。
会場は十分に温まっている。
任せたぞ、霧姉!
霧姉は進行役のオッサンに向かって、二、三回ウインクを飛ばして合図を送っている。
予選で約束した通り、決勝戦のこの場所で大いにアピールさせてくれという事だろう。
進行役のオッサンも理解しているみたいで、小さく頷いている。
「ぅおーー! 商売上手霧奈ちゃん! 待っとったぞー!」
最前列のオッサンがうるさい。
確か霧姉のファンだとか言う変わったオッサンだ。
『いよいよ決勝戦ですね! まずは今日の意気込みを聞かせて貰ってもよろしいですか?』
『はぁい! 今日も勝てるように精一杯頑張りまぁす! そして五人みんなが、ファンの皆さまから栄誉を讃えて頂けるように頑張りまぁす!』
『それにしても樫野高校の皆さんは、本当に誰も噛まれませんよね?』
『うふふ、ゾンビ缶バッジを沢山身に付けているからですよぉ』
霧姉はユニホームの裾の部分に並べられたゾンビ缶バッジや、黒猫のじぃじのキーホルダーをアピールしている。
『そしてですねぇ、今回は決勝戦ですから激闘も予想されますのでぇ、とっておきの
『御守り、ですか? ……もしかして、新商品ですか?』
『はぁい! こちらになりまぁーす!』
霧姉がスカートのポケットから取り出したのは、水亀商店の最新作『どブサにゃん極防水ポーチ』。
ズボンやスカートのポケットにすっぽりと仕舞える、完全防水仕様のポーチだ。
篠が自分で作っていた風寅柄のポーチ。
それに加えて霧姉が持つ黒猫のじぃじ、泉さんが持つ灰猫のグレール公、瑠城さんが持つ白猫のホワン姫、そして俺が持つミッケルの四種類のポーチを、篠が新たにデザインしてくれたのだ。
俺が持つ透明な防水ポーチには、躍動感あふれるミッケル達が所狭しと描かれている。
……ホント気持ち悪いんだけど、販促の為に強制的に持たされているのだ。
『もしもの時の事故から、持ち主の身を守ってくれるのは、滋賀県大会の時に二刀乱舞さんが実証済みですよぉ! うふふ、黒猫のじぃじ柄もかわいいでしょー?』
『……は、はぁ。そ、そうですねー』
進行役のオッサンは微妙な表情を浮かべている。
その横では霧姉がほんの一瞬だけ、ササッと指で四角を作ってテロップを出していた。
『いよいよ夏のレジャーシーズンが始まります! お出掛けの際には、是非一緒にお気に入りのキャラクター達も連れて行ってあげて下さぁい! どブサにゃん極防水ポーチを持っていれば、お友達から羨ましがられる事間違いなしですよぉ!』
「ぅおーー! ワシは買うぞー! 絶対に買うぞー!」
一人盛り上がっているのは霧姉のファンだというオッサンで、会場の反応はというと……いまいちだ。
欲しいという声はポツリポツリと聞こえてくるものの、缶バッジやキーホルダーの時のような爆発的な盛り上がりを見せているわけではない。
……そう、このポーチにはインパクトが足りねぇんだ。
いざという時に身を守ってくれるというのも、キーホルダーの効果――まぁ実際にはそんなものは微塵もねぇんだけど、その
それに缶バッジやキーホルダーは何処にでも付けられるけど、防水ポーチなんて普通の人はレジャーシーズンにしか使わねぇと思う。
どうしても欲しい! と思わせる為には『御守り』以外の、何か特別な仕様が必要なんだ。
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