第107話 全国大会決勝戦始まる
ピピピッ……
「……フン、漸く熱が下がったな。私に心配かけさせるんじゃないよ、ったく。日曜の決勝戦に間に合わないかと思ったじゃないか」
「面目ねぇ……。今日から俺も学校に行くよ」
風邪でぶっ倒れてから三日後、漸く熱が下がった。
知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたのかな……。
リンゴやヨーグルト、お粥などの消化の良い食べ物や、りんごジュース、スポーツドリンクといった飲み物の他に、体を拭く濡れタオルなんかを、霧姉は朝と夕方に毎日欠かさず部屋まで届けてくれていた。
勿論こんな時でも油断は禁物で、凄く優しくされるのが逆に怖かったりもする。
罠が仕掛けられていないかどうか毎回確かめていたのは言うまでもない。
……しかし一つ気になる事がある。
篠の様子がちょっとおかしい。
体調が悪い俺に気を遣ってくれていただけかもしれねぇんだけど、何処か態度がよそよそしい気がする。
「……水亀君、熱、……さ、下がったの?」
「ああ、心配かけて済まなかったな」
「う、うん……」
今みたいに部屋の外からドア越しに話し掛けてくれても、三日間ずっと素っ気ない感じだったし。
風邪がぶり返したら大変だから部屋に近寄るな、と霧姉から言われていたみたいだけど、それにしてもなぁ……ちょっと凹む。
俺、何かやらかしてしまったのか? と考えを巡らせると、動けない程の高熱を出していた篠を、一日中連れ回した事が真っ先に頭に浮かぶ。
……辛かっただろうな。昨日までの俺が同じ状況だったら耐えられそうにねぇよ。
もっと気遣って優しく運んであげたら良かった……。
着替えてリビングに向かうと、篠が先に朝食を摂っていた。
俺よりも早起きしている篠を見るのは初めてじゃねぇか?
「……」
「……」
話し掛けてくれねぇどころか、目も合わせてくれねぇ。……マジ凹む。
そんな俺達の様子を見ながら、何故か霧姉は嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべているし。
「……し、篠は風邪平気なのか? 熱は下がったんだよな?」
「へ? ね、熱? う、うん。全然平気だよ? ……ど、どうして?」
「いや、大丈夫ならいいんだ。良かった」
……首から上、頬や耳なんかもちょっと赤いから、まだ熱が残っているのかと思ったけど、違ったのか。
でも話し掛けた感じは普通っぽいぞ?
うーむ、どうやら嫌われたわけじゃねぇみたいだな。
風邪で弱っている時って、心も一緒に弱ってしまうというか、物事を何でも悪い方向に考えてしまうし……。
単純に俺が素っ気なく感じただけだったのか?
この日は色々と大変だった。
朝から部室に集められたり、授業を取り止めて体育館でゾンビハンター部の壮行会が行われたり。
放課後も明日の決勝戦の打ち合わせで、外が暗くなるまで学校に残っていた。
そしていよいよ決勝戦当日を迎えた。
今回は一人の体調不良者もいない万全の状態だぞ。
今日も学校側が送迎バスを用意してくれて、滋賀県大会決勝戦の時よりも更に地元の応援団は沢山集まってくれた。
到着したスタジアムは観客も多く、大いに盛り上がりを見せているのだが、他校の応援団の数は少ない。
というのもこの決勝戦に参加するのは、俺達樫高とドリームチーム、そして東北の高校が一校だけという、たったの三チームのみ。
なんと他の予選ブロックでは、出場する東北の高校以外は全滅してしまったのだ。
峠岡常務が張り切って難易度を上げ過ぎて、他の高校では対処出来なかったみたいだ。
この分じゃ決勝戦も、とんでもないゾンビ達が用意されていそうだな……。
更衣室で着替えを終えた俺達は控え室に勢揃いした。
「! ユウマー! やっときまシタねー!」
ジュディーさん達は俺達よりも先に到着していたみたいで、全員がどり~むち~むのユニフォーム姿だ。
今の今までミーティングを行っていたみたいで、控え室の中央に五人で集まっていた。
「おや? こんかいも、みなさんユニフォームすがたデスね?」
「フフフ、作戦変更だ。ジュディー達には負けたくないからな!」
霧姉が言う作戦というのは、昨日部室で話し合って決まった事だ。
ドリームチームは全員ミストアーマーを着用していないので、ゾンビの殲滅戦になればポイント差で離されてしまう恐れがある。
それに高ランクのゾンビ達の攻撃はミストアーマーで防げないのだから、着用していてもあまり意味がなさそうだし、それなら一層の事みんな
過去の選手権では、俺達が倒して来たような高ランクのゾンビ達は用意されていないので、十分に効果を発揮していたそうだが……。
ちなみにもう一つの出場校である
女性一人と男性四人で構成されているチームで、五人それぞれが幾多の修羅場を潜り抜けて来た精鋭の面構えをしている。
青龍高校の氷見山君みたいな例もあるし、油断すれば負けてしまうかもしれねぇな。
「……よし、泣いても笑ってもこれが最後の試合だ。気合入れて行くぞー!」
「「「「おー!」」」」
霧姉の掛け声でみんなが気合を入れ直した。
そして霧姉は自分の頬を両手で叩き、より一層気合を入れ直している。
「アー、アー。……アー、アー。ウフフ、完璧です」
普段の霧姉の声から、三オクターブ高い声へと切り替わった。
そう、この後すぐに水亀商店の存続を賭けた、霧姉の本気の戦いが始まるのだ。
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