第102話 浄化センター
島の北側を攻略するのは難易度が高い。
これには幾つかの理由がある。
まず危険な住宅密集地を抜けなければ来られない。
そして北側には山と琵琶湖に挟まれた一本道しかない。
この一本道というのが非常に厄介で、しかも民家はゾンビ達を殲滅させた桟橋付近にしか建てられていない。
つまりここから北へ向かえば、戻って来るまで一切給水が出来ないのだ。
そんな一本道でゾンビ達に囲まれてしまえば消耗戦になってしまう。
給水も出来なければ逃げ道もない。山を駆け登るなんて自殺行為に等しいからな。
その為装備が整っていない場合には、島の北側には近付かないのが定石となっている。
穏やかな波の音を聞きながら、ひたすら北へと向かって歩く。
湖岸側に落ちないように手すりが設置されている道で、散歩道と言ったところだろうか。
俺達が目指すのは、ここから数百メートル先に建てられた『沖ノノ島浄化センター』という施設。
ここに設置されているお宝だけを回収出来れば楽なんだけど、そういうわけにもいかねぇ。
そのお宝を守っているんじゃねぇのか? って言うくらい不自然に強そうなゾンビが居る。
「そいつらはどのくらい強そうなのだ?」
「ブボーン級に強い反応が一体。それよりも少し弱い反応が三体だ。出来れば戦いたくねぇんだけど、今俺達とトップとの差はどのくらいあるんだ?」
桟橋付近でゾンビ達を殲滅させたので、トップの青龍高校とのポイント差はかなり詰まっているはずだ。
今回俺達は誰もミストアーマーを着用していないので、誰がゾンビを始末しても二倍のボーナスポイントが加算される。
「……今私達は二位に上がっている。トップとは四百五十ポイント差だぞ」
「それでもまだそんなにも差が付いているのか」
青龍高校も相当数のゾンビ達を倒していたらしい。
「青龍高校も激戦を……ん?」
霧姉は端末を確認しながら、何か異変に気付いたみたいだ。
「三位以下が大きくポイントを下げているぞ。無茶をしているみたいだな」
島の様子を窺ってみると、山を越えた反対側の学校方面、そして民宿がある島の南側で、手強そうなゾンビが暴れ回っているのが確認出来る。
俺達に逆転されたから無茶して手強そうなゾンビに手を出したのか、それともただ単純に見つかってしまって襲われているだけなのかは分からない。
「そろそろ浄化センターが視界に入ります。みなさん、ここからは慎重に行動しましょう」
瑠城さんが先頭を歩き、前方の様子を窺う。
泉さんは霧姉に肩を借りて歩き、俺はその背後に付いて歩く。
「篠、またちょっと動き回るかもしれねぇし、気分悪いだろうけど頑張ってくれ」
「……うん」
先頭を歩く瑠城さんが掌を広げて、俺達の動きに待ったを掛けた。
覆い茂った草木の隙間から前方を覗き込み、施設付近に居るゾンビ達を確認している。
姿勢を屈めて振り返った瑠城さんの表情は、非常に険しい。
「……参りましたね。今の私達とは相性が良くないゾンビ達でした」
ゾンビ達に見つかりたくないのか、瑠城さんは声を潜めている。
「SSランクのケルベロスが一体、……それにインフェルノウルフが三体でした」
「インフェルノウルフ……か。厄介だな」
インフェルノウルフってのは確か、ジュディーさんが一人で四体始末した狼だったよな?
「……なぁ、ケルベロスとかいう奴はSSランクなのに、インフェルノウルフの方が厄介なのか? Sランクだったよな?」
「はい。ケルベロスは的が大きいですから、ここから霧奈さんがミニガンを撃つだけで簡単に倒せるでしょう。しかし残りのインフェルノウルフ達は動きが非常に素早く、更には連携攻撃を行ってきますので、ミニガン、UZI、セイバーしかない今の状況では、誰かが犠牲になってしまう恐れがあります」
ミニガンがずっとぶっ放せるのなら、簡単に始末出来るんだろうけど、残念ながらタンクの水はすぐに空っぽになってしまう。
素早いインフェルノウルフ達に、なかなか命中させられなかった場合を考えると、サブマシンガン一丁とセイバーだけで撃ち漏らしを対処しなきゃならなくなる。
動けねぇ篠や不調の泉さんが居る今の状況では、戦える相手ではなさそうだ。
しかも狼らしいから、山を駆け登って上から攻撃して来るかもしれねぇし。
連携攻撃で前から、上からと二手に別れられたら……誰かが噛まれてしまうだろう。
どうする、どうすればいい?
「……瑠城さん、ちなみにケルベロスってどんな奴なんだ?」
「体長七、八メートル程の巨体のワンちゃんですよ。黒く短い毛並みで、今は闘技場の上で昼寝をしているみたいでしたよ?」
「ん? なんだその闘技場ってのは」
「浄化センターの前には闘技場の舞台のようになっている場所がありまして、琵琶湖に迫り出した形で浮かんでいるのですよ。これは運営側によって設置されたわけではなくて、ゾンビが島に放たれた当初から存在していました」
「そんな場所で昼寝かよ。……それで、そのケルベロスってのは強いのか?」
「勿論です。嗅覚や聴覚が優れていて非常に獰猛です。凄く頭の良いワンちゃんで真っ直ぐに突っ込んで来るだけではありませんからね。今周囲に居るインフェルノウルフ達にも攻撃を指示して来る事でしょう」
俺達の位置が、匂いが流されてしまう風上じゃなくて助かったな。
「……なぁ彩芽、奴らは何故あそこから動かないのだ? お宝を守っているのではないのだろ?」
「そうですね……恐らくインフェルノウルフ達は、ケルベロスにこの場から動くなと指示されているのでしょう。そのケルベロスが昼寝をしている状況ですので、じっとしているのだと思います」
「じゃあさ、ケルベロスを更に北側に追っ払えば、インフェルノウルフ達も一緒に移動するかな?」
「さてどうでしょうか。……霧奈さんには何か名案が浮かんだのですか?」
「ああ、これを使えばどうだ?」
霧姉が手にしているのは、すぐ脇で拾った掌よりも大きな石。
「私がこれを北側遠くに投げたら、音に反応して動かないかな?」
こんなデカい石を遠投出来るのは、霧姉しかいねぇだろう。
「音が鳴った場所までケルベロス達が移動すれば、その隙にお宝を回収出来るかなーって思ったのだが」
「……うーん、音に反応させて注意を引いた後、更にもう一度石を投げてケルベロス達を向かわせられれば可能かもしれませんね。でもインフェルノウルフを偵察に出すだけでケルベロスは動かないかもしれません。そうなると違和感を覚えさせるだけで、私達の危険度が上がる恐れもありますよ」
一種の賭けになるけど、戦わずにお宝を入手出来るかもしれねぇんだな。
「雄ちゃん、お宝は何処にあるのだ? 簡単に手に入りそうか?」
「うーん、建物の中にある二つのお宝は無理そうだ。建物に鍵が掛かっているし、壊して侵入するのは音を立ててしまうから出来ねぇだろ? でも外の焼却炉の中に設置されているお宝なら、回収出来るかもしれねぇぞ?」
焼却炉の位置や、鍵が掛かっている事。
その鍵が焼却炉のすぐ傍にある、薄い緑色をした郵便ポストみたいな設備の蓋を開ければ、すぐに発見出来る事を伝えた。
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