第101話 殲滅戦
側溝のフタみたいな網目の金属が敷かれた、二十メートル程の短い桟橋。
その先端部分の木の手すりに、サブマシンガンタイプのウォーターウェポンが括り付けてあった。
「貸して、整備する」
泉さんは桟橋の上で工具を広げ始めた。
「どうするんだよ、時間がねぇぞ! ここで迎え撃つのか? それとも民家の傍まで移動して、いつでも給水に向かえるようにするのか?」
桟橋を戻れば目の前の道沿いに数軒の民家が並んでいるので、この民家に立て籠もればいつでも給水が出来る。
ただし移動するにしても急がねぇと、今すぐにでもゾンビ達が目視出来る距離まで近付いて来ている。
「雄ちゃん、ゾンビの数は? その中で変異種や突然変異種は何体確認出来る?」
「数? ええっと……ぞろぞろ動いているから正確には分かんねぇけど、二十から二十二、三くらい。その中で手強そうなのは六体だ。ゾンビ達は一本道を移動しているけど、集団の中程に一体、集団の後方に三体。それから屋根の上に居るのが二体だ」
「種類は分かりませんか?」
「スマン瑠城さん、そこまでは分かんねぇよ。でも強さ的にはそれ程危険じゃなさそうだ。アレックスやブボーンに比べたら全然大した事ねぇよ」
厄介なのは数だけだ。
危険な奴はこの先、お宝の周囲に居るゾンビ達で、そいつらは禍々しい靄を放っている。
「……ここで迎え撃ちましょう。この桟橋ならゾンビ達は前方からしか襲って来ませんし」
「そうだな。出来るだけゾンビ達をこちらに引き付けて、私が一気に蹴散らしてやる」
「整備終わったよ。雄磨、給水して」
俺のタンクから伸びたノズルで、サブマシンガンに給水していると、遂にゾンビ達が住宅密集地の一本道を抜けてぞろぞろと姿を現した。
「「「ゥガァーーー!」」」
ゾンビ達は俺達の姿を見るや否や一斉に走り出した。
「来ます! 霧奈さんはギリギリまで引き付けて下さい!」
「分かった!」
「彩ちゃん、アタシがこの
「大丈夫ですか泉さん?」
「うん、何とか大じょ……っぐしゅん! つらー……」
緊迫した状況の中、瑠城さんがセイバーのスイッチを入れた。
霧姉が先頭に立ちはだかり、その隣では瑠城さんがセイバーを構えている。
先頭を走っているゾンビが桟橋に差し掛かったところでエンジンを始動させた。
ブロロッ……ブロロロロ――
「まだです……まだですよ霧奈さん」
「ああ」
「霧ちゃん、頭は狙わなくていいから二秒程射撃して、一度止めてゾンビ達の様子を見て! アタシが合図した時だけもう一度射撃して!」
「分かった」
俺に出来る事は、後はエンジンを止めるだけ。
運命はみんなに託した。
「ゥガガァーー!」
「今です霧奈さん!」
「うぉりゃー!」
襲い掛かって来たゾンビの伸ばす手が、僅か一メートル程の距離まで迫ったところで、霧姉のミニガンが火を噴いた。
……いや、正確には水を噴いた。
泉さんの指示通り、霧姉はすぐに射撃を止めゾンビ達の様子を窺う。
俺の場所からは先頭のゾンビがぐちゃぐちゃに弾け飛ぶところしか見えなかったのだが、その背後のゾンビどころか桟橋の入り口付近に差し掛かったゾンビ達も倒れていて、更には背後の民家の壁までもがバラバラと音を立てて崩れている。
「……ゥガガ」
「……ガフッ……ガフッ」
止めが刺せていないゾンビが桟橋上に数体転がっているけど、全く射撃が当たらなかった撃ち漏らしは居なかったみたいだ。
コイツ等は最早脅威ではなさそうなので、今は放置しておいて良い。
「霧奈さん、第二波が来ますよ!」
「ああ、任せておけ」
桟橋まで到達していなかったゾンビ達が、再び駆け寄って来る。
最初の一撃で大きく数を減らせているので、この第二波は八体のみ。
前方を駆けている四体はナチュラルゾンビみたいだけど、残りは胴体や腕が大きく肥大した変異種が二体と、のっぺらぼうの気持ち悪いトカゲみたいなリザードが二体だ。
「……ちょっと待って霧ちゃん、ゾンビ達の様子がおかしい」
泉さんが霧姉に待ったを掛ける。
前を走るナチュラルゾンビ四体は桟橋を掛けて来るのだが、変異種二体とリザードは桟橋の手前で動きを止め、待機しているみたいだ。
……闇雲に突っ込んで来ても、やられるだけだと考えているのか?
「……コイツ等だけならアタシが仕留めるよ。ミニガンの水が勿体ない」
タタタン……タタタッ……タタタッ
泉さんが正確なショットでナチュラルゾンビ達を屠った。
三体はその場で頭を吹き飛ばされて、一体は桟橋から転がり落ちて琵琶湖で浄化していった。
「霧ちゃん、アイツ等が固まっている今の内に、纏めて殲滅させて!」
「よしきた!」
ズドドド……!
浜辺に生えていた細い木は薙ぎ倒され、桟橋手前で動きを止めていた変異種とリザード達が弾け飛び、背後のプレハブ住宅もガシャンと大きく傾いてしまった。
使い勝手は悪いけど、ミニガンの威力はスゲーな。
タンクの水が減ってしまったので一度エンジンを止める。
「よし、給水に向かうぞ!」
「待って下さい霧奈さん! まだカメレオンが始末出来ていませんよ」
「おお、そうか。そうだったな。雄ちゃん、奴は何処だ? 私がぶっ飛ばしてやる」
「……いや、それがよ。奴ら屋根の上から降りて来ねぇんだよ」
あの辺りとあの辺り、と指差して教えるけど、みんなには何も見えていない。
俺も黒い靄の存在しか確認出来ない。
「……カメレオンは二体ですか。近寄って来ないのですよね?」
「ああ全然。距離も遠いし、様子でも窺っているのか?」
「それならこのまま給水に向かおう。近寄って来たら教えてくれ」
瑠城さんは泉さんからサブマシンガンを受け取ると、桟橋上でもがいているゾンビ達に次々と止めを刺して行く。
安全が確保された後、すぐ傍の民家へ給水に向かった。
「……お? 動きがあったぞ? 二体とも屋根から降りた」
「ふう、やっとか」
既にタンクの給水を終え、民家を出ようとしている時だった。
そのまま道なりに北へと歩き始めたのだが、カメレオン達は一定の距離を保ったまま俺達の後を着けて来るので、今はあの辺りに居るぞ、と指を差してみんなに説明する。
……俺達に襲い掛かるチャンスを窺っているのか?
「……始末してしまおう。帰りに遭遇するのは面倒だ。雄ちゃん、エンジン始動だ。今奴らはどの辺りだ?」
「さっき民宿があっただろ? 今その前を通り過ぎようとしているところだ」
「よし」
ズドドド……!
エンジンを始動させると、霧姉は民宿の前を一掃した。
植木や停めてあった自転車などが粉々に弾け飛んだ場所から、ゾンビの亡骸がじんわりと浮き出て来た。
体の部位が彼方此方に飛散している。
黒い靄が見えないので、きちんと二体とも始末出来たのだろう……。
「フン、どんなに知能が備わっていても、雄ちゃんの能力まで分かるものか」
「ですよね。私達でもよく分かりませんもの。大方私達が引き返すところを狙っていたのでしょう」
周囲の脅威が完全に排除出来た事を確認して、再び傍の民家へ給水に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます