第89話 ドリームチーム登場


 「二人共、大丈夫か?」

 「……ちょっと気持ち悪い……です」

 「雄磨君……私にもドリンクを……お願いします」


 今回は篠も風寅のお面を装着して、初めて商品の販売に協力させられていた。

 お客さん達にもみくちゃにされてしまったので、みんながスタジアムの柱にもたれ掛かって座り込み、ぐったりとしている。


 「ぐははー! どブサにゃん極は順調に世間に受け入れられているな!」


 霧姉だけは元気だ。

 ホクホク顔で売り上げを計算している。


 泉さんも疲れた表情を見せているものの、時々感慨に浸っている様子で呆けている。

 持ち込んだウォーターウェポンが、とんでもない金額で即完売したらしい。

 俺と篠と瑠城さんが休憩している間、霧姉と泉さんは今後の販売戦略を話し合っていた。





 「「おおーー!」」 


 瑠城さんと泉さんが声を揃えて喜び合っている。

 というのも、霧姉が案内してくれた俺達の席がスタジアムの最前列で、しかも水上ステージのすぐ傍だったのだ。


 「プレミアムシートですよ! お金ではこの席は取れないんですよ!」


 瑠城さんが興奮気味に説明してくれたのだが、この席が凄い金額なのは勿論の事、ゾンビハンター社の関係者や上位ランカー達に口利きして貰わないと予約出来ないらしい。

 ジュディーさんはそんな凄い席を、全国大会予選全ての試合で押さえていたのか。


 霧姉、篠、俺、瑠城さん、泉さんの順番で席に着く。

 余程疲れたのか、席に着いても篠は未だに体力が回復していない様子。

 お面を装着しているので表情は分からないけど、ぐったりと背もたれに寄り掛かっている。


 「大丈夫かよ……」

 「……もう少しこのまま、休憩させて下さい」


 ……明後日の試合に影響がなければいいのだが。



 篠の介護をしていると進行役のオッサンがステージ上に現れ、その後緊張した面持ちで次々と選手達が入場して来た。

 最後にドリームチームの五名がステージ上に姿を現すと、観衆達が一段と盛り上がりを見せた。

 全員が赤い文字で『どり~むち~む』と胸の部分に書かれた白いTシャツを着ている。

 俺達の水亀商店Tシャツに勝るとも劣らない程、ダサいユニホームだな。


 確か海外の十八歳未満のプロ選手達で、全員がSランク以上……だったよな?

 二名程年齢的におかしい奴が居るんだけど?


 「……あの、瑠城さん。ドリームチームって、全員俺達と同い年くらいなんだよな?」

 「そうですよ?」  

 「誰が誰だか俺には全然分かんねぇから、ちょっと説明してくれるか?」

 「勿論いいですよ! ではまず先頭の彼は――」


 先頭をのっしのっしと歩いているのは、身長が優に二メートルを超えている大男だ。

 スキンヘッドの黒人さんで、ボディビルダーのような体格の持ち主だ。

 コンビニ袋を持つ感覚でタンクを軽々と手に持っている。

 多分肩幅が広過ぎて、タンクが背負えねぇんだろう。


 「ブラジルのSランカー金剛こんごうさんで、名前はディソウザさん。近接武器を得意としていますし、今回はそのパワーを活かしてタンク職を引き受けたみたいですね」

 「年齢詐称してねぇか?」

 「していませんよ。私達と同じで今年十八歳ですよ。そして金剛こんごうさんの後ろが――」


 ディソウザさんの足を、背後から何度も蹴っているのは、金色のロン毛を後ろで一つに束ねている白人男性。

 ディソウザさんが巨体過ぎるのか……ディソウザさんの腰の辺りまでしか身長がない。


 「ドイツのSランカー、小さな蜂クライナビーナさんです。名前はシュネルスキーさんで、体は小さくて体力もあまりないのですが、射撃の腕前は本物ですよ。今日もスナイパーライフルをゲットすれば、凄い物が見られると思います」

 「小学生じゃねぇんだよな?」

 「違います。小さな蜂クライナビーナさんに聞かれたら怒られますよ?」


 怒られてもあまり怖そうではない。


 「コラ金剛! お前が先頭を歩いたら、俺達は前が何にも見えないだろーが!」

 「ホントウニスマナイ」

 「思ってもいない事を言うな!」


 背は低いけど態度はデカいみたいだ。

 声変わりも済んでいないような高い声で、ディソウザさんを蹴りながら怒っている。

 ディソウザさんには蹴りがちっとも効いていない様子で、前を向いたまま無視して歩いている。

 シュネルスキーさんの事が、大型犬の尻尾にちょっかいを出している子猫みたいに見えるのは気のせいだろうか。



 残りの一見普通そうな二人の事も聞きたかったのだが、進行役のオッサンがマイク片手に各校の紹介を始めたので、後で瑠城さんに聞こう。

 そしていよいよドリームチームの紹介が始まった。


 『わたしは、このひがくるのを――せんしゅけんにしゅつじょうするのを、とてもたのしみにしていまシタ!』

 『通常であれば、みなさんは出場出来ませんからね』

 『そうデス! いちどはでてみたいと、みんなでいっていたのデス! やっとユメがかないまシタ!』


 ジュディーさんが嬉しそうに、俺に向かって手を振ってくれている。


 『はじめて……はじめての、おきののしまデース! とてもこうふんしていマース! わたしは、おきののしまでゾンビハントをするために、せんしゅけんにしゅつじょうしまシター!』


 今度は観衆達に向けて、大きく手を振り始めた。


 「……へ? ジュディーさんは、沖ノノ島で試合をした事がないのか?」

 「そうですよ? 親子戦でランキング入りを果たしてしまったジュディーさんには、沖ノノ島に行く機会がありませんよ」


 瑠城さんが当たり前のように説明してくれたのだが……そういう事か。


 確か今現在、沖ノノ島ではオープン戦と選手権しか試合が行われていないって、以前に瑠城さんが説明してくれた気がする。

 ランキング入りしてしまったジュディーさんは、オープン戦に参加出来ないのだろう。

 まさかジュディーさんは、沖ノノ島でゾンビハントをやってみたいという理由だけで選手権に参加したのか?


 ……それなら俺の代わりに出場してくれねぇかな?

 最初に話してくれたら、喜んで出番を譲ったのによ。




 船で沖ノノ島に向かっている最中も、ドリームチームのメンバー達は凄くリラックスしている。


 『Oh-! べんざいてんサマー! いまからあいにいきマース!』


 各校が作戦会議を行っている傍で、ジュディーさんは持ち込んだ携帯電話で記念写真を撮りまくっていた。

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