第75話 真相
「お二方共随分と熱心にお願い事をされているみたいですけど、あまり時間がありませんよ?」
俺が手を合わせている間に、瑠城さんは先にお参りを終えていたみたいで、ちょっとした展望台のような場所から絶景を眺めていた。
ここは社がポツンと建つだけの何もない寂しげな場所だが、ここから一望出来る景色だけは最高だ。
「み、水亀君もお願いしていたの?」
「ああ。神頼みするしかねぇだろ?」
「そ、そそそんな事ないと思うよ?」
「ウフフ、お二人で弁天様にお願いしているのでしたら、その願いはもう叶えて頂いているのではないですか?」
「ホントですか! ホントに瑠城先輩もそう思いますか!」
「ちょ、ちょっと鏡花さん! 落ちる、落ちますよー!」
グイグイと迫る篠が瑠城さんを崖から突き落としそうだ。
篠のお願いが何なのかは知らねぇけど、俺の願いは今のところ叶っていない。
「時間がねぇから急いで戻ろう」
回収した荷物も増えたし、来た道を戻るだけでもうヘロヘロ。
膝が笑ってやがる。
そんな状態でグラウンドに戻って来ると、状況が大きく変わっていた。
「彩ちゃん聞いてよ! ヒドイんだよこの娘!」
「うぅ……違いますってば師匠! 誤解やって! 話を聞いてくださーい!」
足もとに縋るアキちゃんと、そんなアキちゃんを引きずりながら歩み寄って来た泉さん。
何があったのか知らねぇけど、さっきまであんなに仲良さそうにしてたじゃねぇか。
「し、ししょー! ウチを見捨てんといてーなー」
「この、離れなさいよ! アンタなんかの師匠にはならないよ! アタシを騙してたくせにー!」
泉さんが無理矢理引っぺがそうとしても全然離れない。
一体何がどうなっているんだ?
「この二人から事情を聞いたのだ。何故アキちゃんをチームに引き込んだのか、そして彼女が何者なのかという事もな」
まいさんと麻美さんは座り込み、両手で顔を覆ってグズグズと泣いている。
霧姉から暴力を受けた……という理由ではなさそうだ。
「メカニックが必要だったからじゃねぇのか?」
「ああ。メカニックも必要だったのかもしれないのだが……どうやら彼女は保険で連れて来られたみたいだぞ」
「保険? 何だそりゃ?」
「船に乗り遅れるかもしれないから、詳しい話は漁港に戻りながら話そう。みんな出発するぞ! 泉も今は構うな。後で話せばいい」
「分かったよ。……フン、帰ったら覚えてなさいよ」
「し、ししょー……」
泉さんの態度は冷たい。
アキちゃんはメガネの下に大粒の涙を浮かべている。
ナーガ改バベルタイプの死骸はグラウンドに放置したまま、急ぎ足で漁業センターへと移動を開始した。
「そうか。やっぱりウォーターウェポンを探していたのか」
「ああ。田井中はあの場所に設置してあると聞いていたらしい。いつもヤツしか設置場所は聞かされていなかったそうだがな」
話している最中も、霧姉の視線は俺が手にしているジュラルミンケースへと釘付けになっている。
「それで? 今回は何故設置されてなかったんだ?」
「それがだな、理由までははっきりと分からないのだ。ただ、田井中は父親から『社内で不穏な動きがある』と聞かされていたらしい」
……不穏な動きって。今更?
この会社、怪しい事しかしてねぇじゃねぇか。
「そして父親から『
メカニックではなくて、アキちゃん……岩澤秋穂さんを指名したのか。
……でも何故アキちゃんだったんだ?
「思い出しましたー!」
突然叫んだのは瑠城さんだ。
「岩澤秋穂さん、ウォーターウェポン最大手メーカー『
そんなところまで知ってるのか、この人は。
でもこれで泉さんが怒っている理由が何となく分かったぞ。
自分の改造技術を伝授していた人物が、将来ウォーターウェポンブランドを立ち上げた時に、最大のライバル企業となるM社会長の孫娘だった、と。
アキちゃんはM社のスパイだったのか?
「何かしら良からぬ事が、この決勝戦で起こりそうだと事前に察知していた田井中の父親は、強攻策に打って出られないようにする為にM社会長の孫娘を強引に加入させたのだろう」
それで保険って言っていたのか。
ゾンビハンター社とM社がどれ程の繋がりがあるのかは分からねぇけど、全くの赤の他人同士だという事はないだろう。
何かの理由で強引に息子を亡き者にしようとすると、M社の会長の孫娘も死ぬ事になりますよ? それでもいいですか? ってな感じか。
霧姉はトボトボ歩くまいさんと麻美さんの肩に手を置いた。
「田井中が自分勝手な奴だと言うのは見ていれば分かるが、この二人が今の話を聞かされたのは、ウォーターウェポンが見つからなくて散々探し回った後だったそうだ」
「グス……はい。岩澤さんを突然チームに加入させたのも、腕の良いメカニックが必要だったからだと……」
「龍一君に聞いても『オヤジが連れて行けって言うから連れて来ただけだ。あんな奴は要らん!』って。それに社内で不穏な動きがあるっていうのも、全然信じていなかったみたいだったし……」
ったく、あの馬鹿が。
せっかくオヤジが裏で手を回してたみたいなのに、息子が馬鹿な所為で全て台無しじゃねぇか。
そういや漁業センターから田井中達の動きを観察していた時も、この二人は田井中と言い争いをしていたような気がする。
突然選手権でレイドボス戦を行ったり、SSSランクのナーガ改バベルタイプが投入されたり、そして設置される予定だった田井中達のウォーターウェポンが設置されていなかったり。
アキちゃんを保険で加入させても、不穏な動きってヤツは止まらなかったみたいだな。
そして泉さんにフラれて少々凹んではいるものの、アキちゃんはこの通りピンピンしているし、田井中だけが死んだ。
結果としてその何者かの思惑通りに事が運んでしまったというわけか。
「フムフム、なるほどねー」
また大きな声で、しかもちょっとわざとらしく頷いた瑠城さん。
「でもちょっとはなしがむずかしくてよくわかりませんねー。このはなしはここまでにしましょう」
セリフは棒読みだが、何かの合図を送るようにパチパチと目配せしている。
話がきな臭くなって来たから、スタジアムの観衆に見られている今、これ以上話を続けるのはマズイという事だろうか。
田井中達が不正していたという事は、観衆達にもはっきりと伝わったはずだし、今はこれ以上の話をする必要はねぇ。
瑠城さんなら何か裏情報でも知ってそうだが……ここでは話さない方が良さそうだ。
「そうだな。この話は俺達には関係ねぇ事だし」
しっかりと関係ないアピールをしておかねぇと。
厄介な事件に巻き込まれるのは御免だ。
「それじゃあ俺から一つ、みんなに報告がある」
急ぎ足で歩くみんなの先頭に立ち振り返った。
実はみんなには黙っておいた重要な話がある。
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