第74話 神頼み


 「まだだ。……まだ俺達には可能性が残っている。諦めるのは早いぞ」

 「ホントか雄ちゃん?」


 力なく座り込んでしまっている霧姉、瑠城さん、篠の脇を順に引っ張り上げて立たせた。


 「幾つか俺達が勝てるかもしれない方法が残っているんだが、……みんなはこの場で待機していて欲しい」

 「一体何をするつもりなのだ?」

 「……俺は島の支配者アイランドルーラーだぞ。やれる事と言ったら一つしかねぇだろ」

 「……お宝が、お宝が設置されているのか?」

 「ああ。たった一つだけだがな。……ただし、その設置されている場所ってのが問題でな――」


 みんなの注目を浴びながら指差した方向は、グラウンドの更に奥。


 「弁財天様の厳島神社か!」

 「ああ。距離がある上に時間がねぇ。俺がひとっ走りして取って来る」

 「私も行きます!」

 「……瑠城さんが来ても出来る事はねぇぞ?」

 「いえ、恐らく道中で不安に駆られると思いますので私も着いて行きます」


 不安に駆られる? なんだそりゃ。


 「よく分かんねぇけど、急ぐからな」

 「私も……行きます」

 「篠は待機だ」

 「護衛が必要かもしれないじゃないですか」


 俺のTシャツを腰の辺りにきつく結んでいる。

 こりゃ引き下がりそうもねぇな。

 確かに今日の運営は何をしてくるか分からねぇし……。


 「分かった分かった。遅れるんじゃねぇぞ。……それと霧姉には頼みたい事がある」

 「何だ、言ってくれ。私に出来る事なら何でもするぞ」

 「……まいさんと麻美さんから事情を聞いてくれ。洗いざらいだぞ?」


 不正が発覚すれば八幡西は失格になる可能性もある。

 そうなればたった一つでもお宝を持ち帰れば……俺達の勝利だ。


 「フフフ、分かった。そういう事なら任せてくれ」


 霧姉も俺の考えを理解してくれたみたいで、不敵な笑みを浮かべつつ背後からまいさんと麻美さんの肩を抱いた。

 ……暴力は駄目だぞ。


 「我々にも出来る事はありますか?」

 「みんなは霧姉達とここで待機していて欲しい。詳しい事は戻って来てから話すよ! 行って来る!」









 「はぁ……はぁ……、瑠城さんが言っていた意味が分かったよ!」

 「ご理解頂けましたか?」


 弁財天様の神社に向かう道のりが、とんでもない悪路だったのだ。

 道なき道というか、獣道というか、本当にここを突き進んで大丈夫なのか? と不安に駆られてしまう。


 「はぁ……はぁ……大丈夫ですよ! この道で合ってますから!」


 うねうねと曲がりくねった湖岸沿いの道。

 小さな畑の中を突っ切ったり、古い板が敷かれただけの橋を渡ったり、枝が覆い茂っていて前が見えなかったり。

 篠がナーガ改バベルタイプに向かって行った時のように、前屈みにならないと進めない場所があったり。


 神社に人を近寄らせる気があるのかと本気で疑いたくなる。


 ゾンビは居ないので息を切らして全力で突き進む事、凡そ十分。

 帰還船から見えていた、琵琶湖湖岸に聳え立つ真っ赤な鳥居が目の前に現れた。


 「はぁ……はぁ……雄磨君、お宝は何処ですか?」

 「ああ、そっちの上だ」


 この場所には波打ち際の鳥居ともう一つ、山の麓にも赤茶色い鳥居がある。

 お宝が設置されている場所に向かうには、その赤茶色い鳥居をくぐり山の中腹に向かって伸びる石畳の階段を登らなければならない。


 もう足腰がガタガタなんだが、更に山登りしなきゃなんねぇのかよ。


 両脇に藪が茂った急勾配の階段が、容赦なく俺の体力を奪う。


 「はぁ……はぁ……ちょ、ちょっと待ってくれよー!」


 何故か女子二人は俺よりも全然元気で、足取り軽く階段を駆け上がって行く。

 漸く到着した場所は小さな小屋のような社がポツンと建つだけの、ちょっと寂しげな場所。

 その社の扉は厳重に施錠されているのだが、お宝には関係ないのでこの鍵を解錠する必要はない。

 社の脇に設置されていたジュラルミンケースをさっさと回収した。


 「よし、戻るぞ――って、何してんだよ」

 「……え? 弁天様は蓄財や勝負事、それに恋愛成就の神様ですよ? お参りしないのですか?」


 瑠城さんと篠は社の脇に設置されていた、簡易的な賽銭箱に小銭を入れている最中だった。

 ……もしかして、ここでお参りしたいから急いで階段を登っていたのか?


 弁天様もちょっと引くくらい、二人が真剣にお参りしている。

 願いを聞いて貰えなかった場合、どうなるか分かりますよね? 的な殺気が出ている気がする。

 特に篠。

 護衛の為だとか何とか言っていたが、篠はこの為に来たとしか思えないぞ。

 でもお願い事を聞いて欲しいのであれば、せめて風寅のお面は外した方がいいんじゃねぇか?

 ……弁天様、変なの連れて来てごめんな。


 ついでに俺の願いも聞いて貰えるかな?


 竹筒で出来た賽銭箱に小銭を入れて手を合わせる。

 細かな作法は知らねぇけど、この二人の傍でお参りしていたら声を聞いて貰えるだろう。



 弁天様、頼むよ。

 俺の願いが弁天様の管轄外なのは充分に承知している。

 けどよ、このままじゃ俺達試合に負けちまうんだよ。

 それにこんな事を神様に頼むなんて、ホント非常識極まりないと思うんだが――


 伊富貴のヤツ、何とかしてくれねぇかな。

 俺が思い描いている通りの結果にしてくれるだけでいいんだよ。頼むよ!


 今日は手持ちがねぇからこんなモンしかお供え出来ねぇけどよ、次来る事があったら民家から饅頭なり酒なり持って来るから、な? 頼む! この通り!



 ポケットから取り出したのは、ミッケルのキーホルダー。

 Tシャツを脱いだ時に、篠が怪我するといけねぇと思って外しておいたヤツだ。

 こんな気持ち悪いキーホルダー貰っても困ると思うけど、気持ちの問題って事で。

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