第69話 消される寸前
頭を抱えて喚いていたリ、仲間の女子と言い争っていたリ。
未だ防波堤の辺りをうろついている田井中達を漁業センターから眺めている。
距離が遠いのではっきりとは分からないが、探し物をしているのは間違いなさそうで……何も見つかっていない。
「フン。きちんと頭を下げて事情を全て話すのであれば、今からでも協力して戦えるように準備してやろうと思っていたのだがな」
霧姉も呆れた様子で田井中達を見守っている。
霧姉の言う事はご尤もで、頼みにも来ない奴等の事なんか放っておけばいいと思う。
しかしこのまま見殺しにするのもちょっと可哀相だし……あんな奴でも死なれると寝覚めが悪くなる。
「瑠城さん、普段のレイドボス戦って試合開始から、どのくらい経ってからゾンビが放たれるんだ?」
「開催される人工島によって異なりますが、闘技場ステージの場合ですとウォーターウェポンや工具の設置場所は予め決められていますので、試合開始から十五分後。フィールドステージになるとウォーターウェポンを回収する時間が必要になりますので、一時間後にゾンビが放たれます」
「って事は沖ノノ島でも、そのフィールドステージと同じで開始から一時間後に放たれる可能性が高そうだな」
「そうですね。……残り十五分といったところでしょうか」
十五分か。あまり時間がねぇな。
「ちなみにですがフィールドステージの場合では、何かしらの方法で我々参加者の位置を察知する能力を所持しているゾンビしか放たれませんので、恐らく今回も残りの時間を隠れてやり過ごすのは不可能ですよ」
……それでみんながレイドボス戦だと聞いた時に絶望していたんだな。
「ではみなさん! 作戦会議は一旦中止して学校のグラウンドまで移動しましょう! 行きますよー!」
「「「「はい!」」」」
威勢良く気迫に満ちた返事が漁業センターに木霊した。
今はもう尻込みしている者はいないみたいだ。
それぞれのチームが隊列を組みながら、少しずつ漁業センターから移動を開始した。
「やっぱりここじゃ戦い難いからか?」
「そうです。用意されているゾンビが分かりませんので確かな事は言えませんが、SSランクのゾンビ達はここの壁なんて簡単に壊しますので、この場所では守りを固めるのにも不向きです。それよりも壁や障害物が私達の攻撃を遮ってしまう可能性の方が高いと思うのです。それに広い場所で戦う方がフォーメーションを組んで集中砲火を浴びせ易いですし。……攻撃を避けるしか助かる術がないという状況になれば、障害物が少ない方が良いでしょう」
何とかして避ける。避けられなければ死ぬ。
SSランクのゾンビと真正面からぶつかるというのは、それ程危険だという事だろう。
石山北高校のみんなはグラウンドで戦って全滅してしまったけど、志賀峰さんはたった一人で善戦していたみたいだし、火力のあるウォーターウェポンを所持していれば違った結果になっていたかもしれない。
泉さんが改造してくれたウォーターウェポンが、どれ程の火力が出るのかが生き残れる鍵となりそうだ。
みんなが移動する中、俺一人別行動で漁業センター内に併設された事務所に立ち寄る。
「コラー雄ちゃん! 何やってんだよ、置いて行くぞー!」
「ワリィ、すぐ行く!」
メモ用紙は……と。
~~~~
・ショットガンタイプ 島の南側を進んだ先、沖ノノ島簡易水道浄水所の入り口柱に立て掛けてある
・狙撃銃 島の北側へと抜ける住宅街の中にあるカフェの看板が出ている住宅の玄関
島の北側に出てすぐにある桟橋の上
島の北側の道を北へ進んだ先、桜の木が並んでいる途中の電柱足もと
時間がないから取りに行くなら急げよ
俺達は学校のグラウンドへ向かう アイランドルーラー
~~~~
近場のウォーターウェポンは全部取り尽くしてしまったので、ちょっと遠い場所に設置されたウォーターウェポンしか発見出来なかった。
漁業センター内の長机の上、目に付きやすい場所にメモを置き、霧姉達を追い掛けた。
「何やっているのだ馬鹿! 一人だけ団体行動を乱すな!」
「痛てぇ! ちょっと遅れただけだろ? 叩かなくても――ま、まて、分かったから!
「今まさに雄磨君の力が必要な時なのですよ? しっかりして頂かないと」
「ああ。スマン」
くそ、田井中達の所為で何故俺が怒られなきゃなんねぇんだよ。
「それでどうですか? そろそろゾンビの気配は感じ取れますか?」
「うーんそれがよ、何かで遮られている感じがして、島のどこからっていうのはよく分からねぇんだよ。でもここに来る前から感じている、胸を締め付けられるような緊迫感は今も続いているぞ」
地下通路が色んな場所と繋がっているからなのか、ゾンビが居るのは分かっていてもその居場所が特定出来ねぇ。
こんな事は初めてだな。
「突然目の前に出現する可能性も考えられますので、充分に警戒して下さいね」
「ああ、分かった――!!」
なんて話をしている最中に、凶悪な気配を島の南側から察知した。
今まで遭遇したSランクのアレックスや、SSランクのブボーンなんて比べ物にならねぇ。
蠢くように漂う禍々しい靄が、今にも俺達に向かって襲い掛かって来そうだ。
「来た! 来たぞ!」
「なに! 何処からだ?」
「この場所は恐らく――」
「駄目です雄磨君!」
瑠城さんが強い口調で俺の言葉を遮り、首を横に振っている。
――ウフフ、そんな事をすれば雄磨君が運営側に消されちゃいますから、止めておいた方がいいですよ? ――
スタジアムで観戦していた時に、瑠城さんが言っていた言葉をハッと思い出した。
地下通路へと繋がる秘密の扉を俺が探し出してやろうか、なんて冗談を言っていた時だ。
確か防犯上の理由だか何だかで、扉の場所は秘密にされている。
そんな場所をこの場で堂々と言ってしまえば、ゾンビハンター社に俺自身が消されてしまう。
だから今瑠城さんは急いで止めてくれたのか。あ、ありがてー! 助かった!
「……さ、さささぁどうだろうなー。あああっち、あっちの方角だってのは分かるんだが、細かな場所までは全然、ホント全っ然分かんねぇなー」
島の南側を指差して、しどろもどろに誤魔化しておいた。
……まだ死にたくねぇ! あっぶねぇー! 指が震える……。
ゾンビが放出された場所は沖ノノ島の最南端、民宿が建っている奥の雑木林の中。
本当に突然ゾンビの気配を察知して、位置を特定する事が出来たのだが、秘密の扉とやらが開かれた瞬間だったのだろうか。
って事はもしかして、無数に存在する全ての扉の内側にゾンビは待機していて、どの扉からゾンビが放出されるか、そしてどのゾンビが放出されるか決まっていなかった……のか?
勝手な憶測だが――いや、もういいや。考えるのはやめだやめだ。
誰も知らない真実を知ってしまえば、命を狙われる可能性が高くなるだけだ。
メモ書きに記したショットガンタイプのウォーターウェポンが設置されている場所は、民宿からかなり近い。
田井中達はメモ書きに気付いてウォーターウェポンを回収に行ったのだろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます