第68話 新作ウォーターウェポン


 漁業センターに戻ると各校部員達が棒立ちで固まっていた。

 みんなが固唾を飲んで見守っている視線の先では、篠が演武を披露するかのようにウォーターセイバーの性能を確認していた。

 篠の剣さばきには華がある。

 目と心を奪われるというのは、こういう事を言うんだろうな。

 いつ見てもやっぱり凄い。そして普段とのギャップも凄い。


 「……ふぅ」


 篠が動きを止めて一息つくと――


 「「「「ぅおーーー!」」」」

 「流石二刀乱舞さんだ! スゲー!」

 「俺達、生き残れるかもしれないぞ!」


 漁業センター内に歓声が沸き上がった。

 各校部員達の士気も更に上がったみたいだな。

 拍手喝采を浴びる中、篠が背中を丸めて小さくなって駆け寄って来た。


 「……ぅう、凄くやりにくいです」

 「そうなの? 何処のバランスがおかしいのか教えてくれる?」

 「い、いえ、そうじゃないです粟生先輩! セイバーは凄く使いやすいです! お願いした通りグリップもしっかりしていますし、……やりにくいのはみんなに見られているからでして」


 篠はポリポリと頭を掻いている。 

 ったく、凄いんだからもっと堂々としてりゃいいのに。


 「グリップは滑り止め加工と二刀乱舞さんが握り易いように削ってあるし、水の放出量の増加とそれに伴ったタンク容量の増加、全体的な重量が増えた為のフレームの強化と軽量化を施したのよ」


 扱い易く、強く、軽く、丈夫に、って事だな。


 「水が少なくなってもセイバーの軸がブレないんですよ! 凄いですよ!」

 「そうそう! タンクにあんな大胆な加工をしてまうやなんて流石師匠! うはー勉強なるわー!」


 珍しく興奮気味の篠と、その篠よりも更に鼻息が荒いアキちゃん。

 ……師匠? 弟子入りしたのか?


 手に持って振り回すセイバーだと、タンク内で水がチャプチャプと暴れるだろうし、その辺りの細かい部分にまで改造を施したという事だろう。

 俺達素人からすると凄くどうでもいい部分だが、篠からすれば大きく違うみたいだな。


 「さて、みんなのウォーターウェポンの改造は一通り終わったし、後はアタシの分ね」


 泉さんは俺が渡した対物ライフルの改造に取り掛かったのだが、初めて見るウォーターウェポンが長机の上に二つ用意されている。

 一つはシルバーに輝く巨大なハンドガンだ。


 「ウフフ、S&WM500ですね。泉さんが作ったのですか?」

 「そうよ。彩ちゃん専用だよ」

 「ホントですか泉さん! ありがとうございまーす!」


 口を動かしつつ手は止めない泉さん。

 リボルバータイプのハンドガンの傍には、この銃に使用する為の物なのか、成人男性の小指サイズの大きな薬莢が二十発程用意されている。

 そして机の下には赤い消火器に大きなレバーが取り付けられた変な装置が置いてあるのだが、こんな物何に使うんだ?


 「……薬莢やっきょうを使用するのか?」

 「そうだよ。薬莢……に似せて作った弾に水を詰め込んで、ゾンビに直接打ち込むのよ」

 「薬莢を撃ち出すのか? それっておかしくない?」

 「無粋な事を言わないの。S&WM500よ? リボルバーなんだよ? 薬莢を使わないでどうするのよ。雄磨にはこの浪漫が分からないかなー」

 「そやそや! 浪漫の分からん男やなー。白銀に輝くリボルバーに五発の薬莢を装填する。くぅーカッコエエわー痺れるわー」


 アキちゃんは何処か遠い目をしている。

 やっぱりこの人も真面目そうに見えて、変な人だったな。


 「でもよ、薬莢を打ち込んだらゾンビには物理的な攻撃になってしまうんじゃねぇのか? 変異させたり傷口が回復したりするんじゃねぇのか?」

 「それは大丈夫よ。着弾すると薬莢に詰め込んだ水が破裂するように作ったからね。破壊力抜群のウォーターウェポンだよ。……ただしちょっとした問題もあるのよねー」

 「問題?」

 「うん。このサイズのウォーターウェポンで薬莢を打ち出す為のエネルギーを得ようとすると、どうしても外部からのパワーに頼らなきゃならないのよ」


 それでこのポンプ型の消火器が必要になってくるのか。


 「銃本体に五つの小さなボンベを内蔵していて、一つのボンベにつき撃てる弾は一発。だから五発撃つ度にポンプ型消化器とM500を接続して五つのボンベ内の圧を上げて、弾を五発装填して――」


 クソ面倒臭そうなウォーターウェポンじゃねぇか。


 「それだったらよ、銃本体と消化器を繋いだままにすれば良かったんじゃねぇのか? この消火器くらいなら持ち運んで取り廻せるだろ?」


 どっちにしてもこの消火器は持ち運ばないといけねぇんだし。


 「……そんなウォーターウェポン、格好悪いじゃないのよ」

 「そやそや! ホンマ浪漫の分からん男やなー。このフォルムの渋さが分からんって……はぁ、やだやだ」

 「いやいやおかしいって! ゾンビハントだぞ? 見た目のカッコ良さより性能重視だろ! 瑠城さんからも何か言ってやれよ!」


 瑠城さんにも同意を得ようとしたのだが――


 何を言っているのかさっぱり理解出来ません。


 そんな冷ややかな視線を返されてしまった。 

 瑠城さんも側の人間だったのか。


 消化器型ポンプでシャコシャコとボンベ内の圧力を上げている姿に、浪漫があるとは到底思えないのだが……。


 「まぁその銃はいいよ。……コッチの物体は何だ?」


 長机に乗せられたもう一つの……ウォーターウェポン?


 「それは以前から霧ちゃんと相談していた武器、ウォーターハンマーだよ」

 「おおー! コレコレ、こういうのが欲しかったのだ!」


 霧姉が片手でひょいと肩に担ぎあげたのは、ドラゴンでもひと狩り行けそうな巨大なハンマー。

 ヘッドの部分と柄の接合部は、ロープでグルグル巻きにして固定してある。

 金属の持ち手部分にテーピングが巻かれた、少々手抜き――ゴホン、失礼。荒々しく野性味あふれた加工が特徴だ。

 さっきの銃と比べて、作り込みのギャップが酷いな。

 浪漫の話は何処に行ったんだ?

 そして肝心のゾンビをぶっ叩くヘッドの部分は……おいおいコレ、タンクじゃねぇのか?


 「ああそれね。アキちゃんがタンクを使わないって言うから、遠慮なく使わせて貰ったのよ」

 「ウチ、あんな重いモン背負せおてよう歩かんわ。要らん要らん」


 要らんって……そりゃ俺達は困らねぇけどよ。

 タンクを武器として使ってもいいのか? ――と思ったけど、大津京高校のイヴァンがロックにタンクごとぶつけていたしアリなのか。


 「でもこのどデカいハンマーは打撃だし、弱点以外は攻撃出来ねぇよな?」

 「フフ、普通の打撃武器ならヘッド部分にタンクを使用する意味ないでしょ? 勿論打撃を加えた瞬間に大量の水が噴き出す仕組みだよ。爆裂ハンマーといったところね」


 タンク内には水が入っているのか。

 軽々と担いでるからホントに軽いのかと思った。

 確かに霧姉にしか扱えねぇ代物だな。


 「でもそのハンマーはあくまでウォーターウェポン。対ゾンビ戦にしか使用出来ないよ? 壁や地面にぶつけたりすれば、すぐに壊れるから気を付けてね?」

 「ああ、分かった。早くゾンビ出て来ないかなー! 試したいなー!」


 ……俺も早くゾンビに出て来て欲しい。

 霧姉がチラチラとこっちを見ているので、このままでは俺がぶっ飛ばされてしまいそうだ。

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