第67話 罠


 「気になったんだけどよ、今回田井中達は本当に不正していないと思うか?」

 「どういう事ですか?」

 「今も防波堤の辺りをウロウロしてるだろ? もしかしてウォーターウェポンを探してるんじゃねぇのか? って思ったんだよ」

 「でもあの場所には設置されていないのですよね?」

 「そう、そこだよそこ。もし本当にウォーターウェポンを探してるのだとしたら、あんな何でもない場所に拘ってずっと探してるっていうのが変なんだよ。普通、何も見つからなけりゃ移動するだろ?」


 船を降りて真っ先にあの場所へと向かったってのも怪しい行動だ。


 「……あの場所に設置してあると教えられていた、という事ですか?」

 「今のところは何の証拠もなくて、俺がそう思っただけなんだけどよ」


 設置してあると教えられていたのに、何かしらの理由でウォーターウェポンが見当たらない。

 こう考えると田井中達の行動に辻褄が合ってしまう。


 「今回の決勝戦は他にもおかしい点が多いと思うんだよ。田井中達が出る試合はゾンビのランクが低いって聞いていたのに、今回は難易度が高いレイドボス戦だっていうし」

 「そう言われてみれば確かに変ですね。専務の圧力で中止になってもおかしくない難易度です。このままでは自分の息子が死んでしまうかもしれませんし」

 「だろ? 高性能なウォーターウェポンを持っていなければアイツ等は平凡なんだろ?」

 「……」


 瑠城さんは深く考えを巡らせるように黙り込んでしまった


 「アキちゃんを強引にチームに引き込んだ謎もあるが……それはまた後で話そう。今はコイツの解錠が先だ」


 到着した格納庫のシャッター中央には鍵の解錠システムが設置されていて、その解錠システムの周囲は強化樹脂製の透明な壁で囲われている。

 三、四人が楽に入れる広い電話ボックスみたいだが、天井に設置された怪しい装置から何かのノズルが飛び出している。

 何を噴射するつもりか知らねぇけど、バラエティー番組みたいだな。


 『十本のコードを正しい順番に引き抜けば解錠される。失敗した場合は……』


 電話ボックスっぽい扉にはこんなメモ書きが貼られている。


 ……おかしくない?


 「なぁ、鍵の在り処や解錠方法のメモ書きってのは、普通はゾンビが所持しているんだろ? でもよ、今日が本当にゾンビが一匹しか出て来ねぇレイドボス戦だとすりゃ、こんなの一体誰が解錠出来るってんだよ」


 そのゾンビがメモ書きを所持していても、試合が終わった後にウォーターウェポンを手に入れても意味がねぇ。

 しかもこの透明な電話ボックス、扉の取っ手部分に黒い靄が掛っている。

 どうやら中に入った瞬間に扉が開かなくなる罠が仕掛けてあるみたいだ。


 「雄磨君に対する運営側からの挑戦状かもしれませんね」

 「は? 何故俺に?」

 「雄磨君の能力を余程恐れているのでしょう」

 「雄ちゃん一人が居ればゲームバランスが崩壊しちゃうからなー。お宝もウォーターウェポンも全部見つけちゃうし、先にゾンビも全部見つけちゃうし奇襲される事もないし」


 他人事みたいに言うな。

 そんな馬鹿みたいな事が出来るように訓練したのは一体誰なんだ?


 「もしくは雄磨君がどれ程までの能力を持っているのか、運営側が探りに来ているのかもしれません」

 「よっしゃーやってやれ! 島の支配者アイランドルーラーの実力を見せつけてやれー!」

 「簡単に言うな。それに――」


 この電話ボックスの天井部分に取り付けられた怪しい装置と、格納庫のシャッターに設置された解錠システムにも黒い靄が漂っている。

 ボックスの外から解錠システムを覗き込んでみると、赤、青、黄といった色とりどりのコードが十本並んでいるのだが……おかしい。


 全てのコードに黒い靄が掛かっている。

 コレ、どのコードを引き抜いても絶対に失敗する。

 ……俺を陥れる為の罠か。

 霧姉が用意する下剤入り珈琲とやり口が一緒じゃねぇか。


 そうと分かればこんな茶番に付き合うのは時間の無駄だ。


 「霧姉、今暇だろ?」

 「唐突に何だ。まぁ暇だけどさ」

 「この格納庫自体は普通の建物だ。今ならゾンビが騒音で近寄って来る心配もねぇし、そこの壁をぶっ壊してくれ」


 出入り口に鍵が掛かっているなら、別の場所から入ればいいだけだ。


 「なんだなんだ? 運営の挑戦状に屈するのか? 情けないなぁー」

 「そうじゃねぇよ。ただの罠だから無視するんだよ」

 「ふぇ? そうなのか?」

 「……雄磨君の実力を測るというよりも、雄磨君を亡き者にしようとして来た、という事でしょうか」

 「多分な。こんな事もあろうかと霧姉にも一緒に来てもらって正解だな」

 「ゆ、雄ちゃんを亡き者に……だと? 許せんな運営め! ぅをりゃーー!」


 ドカーン ドカーン


 樫高の躍進を快く思っていないのか、俺個人のみを排除したいのか。

 どちらの意図があるにせよ、選手権にレイドボス戦をねじ込んで来た事も関係していそうだな。

 他校の部員達は巻き込まれてしまった形に……なるのか? 八幡西高校も?


 なんて事を考え込んでいる間に――


 「終わったぞー雄ちゃん。このくらい穴を開ければ通れるだろ?」


 トタン製の外壁がズタボロに拉ひしゃげている。

 コッチの方が俺よりも余程バケモノだと思うのだが……。

 何処で見つけて拾って来たのか分からねぇけど、デカい鉄塊を振り回すのは危ないからその辺に捨ててくれるか?


 ドカーン ドカーン


 「ウフフ、へカートⅡですね。泉さんが得意としているウォーターウェポンですよ。特にこのメーカーが製造しているへカートⅡは耐久性にこそ少々不安があるものの、改造によって大幅に火力を上げられるそうですよ」

 「そうなのか? まぁスタジアムでもスナイパーの女子をぶっ飛ばしていたし――」

 「またまたご冗談を。あんなのは人に向かって狙撃出来るように、威力を調整して改造しているに決まっているじゃないですか」


 言われてみるとそうか。

 前回の試合でロックを狙撃した時には、これよりも小さな狙撃銃でも本物の銃みたいな威力が出ていた。

 それならこの馬鹿デカい銃を火力重視で改造すれば……絶対に人に向かって撃てねぇな。


 ドカーン ドカーン


 「泉さんの改造次第ですが……とと、ここで話し込んでいる場合ではありませんよ。急いで漁業センターまで戻りましょう」

 「そうだな。行くぞ霧姉! もう壁は壊さなくていいって!」

 「クソ―! 雄ちゃんを目の敵にしやがって! 今度雄ちゃんに嫌がらせして来たら、本社に乗り込んで暴れてやるからな糞運営め! をりゃー!」


 霧姉の場合本当に乗り込みそうだから怖い。

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