第66話 アキちゃん
「大急ぎで回収して漁業センターまで戻ってくるのだぞー!」
タンク職の数名を残して、各校の部員達が島内へと散開した。
今ならゾンビは居ないし自由に動き回れる。
俺がウォーターウェポンの設置場所を伝えている間に、既に泉さんは民家から道具箱を回収している。
漁業センター内の長机を並べて、みんながウォーターウェポンを回収して来るのを待ち侘びている状態だ。
さぁ俺達はタンクに給水を――と民家に移動しようとしたところで漸く異変に気付いた。
俺を含めてタンク職がこの場に六名居るのだ。
「あのー。ウチは何したらエエんですか?」
八幡西のメカニックの子だ。
タンクの上に腰掛けて寛いでいるのだが、何でここに居るんだ?
「キミは田井中達に着いて行かなくて良かったのか?」
「それがよう分からんのよ。さっきも他の子らの名前は呼んだけど、ウチだけ呼ばれてへんし。酷いと思わん?」
「……思うけどよ、八幡西のタンク職なんだろ? アイツ等タンク職が居なければ困るぞ?」
「そやけどさ、無理矢理連れて来てウチの事無視するてあんまりやわ。それにみんなの話聞いてる限りなんや危なそうやし。ココに居てる方が安全そうやし、役に立てそうやし。よっと――」
メカニックの子は立ち上がると、泉さんの隣の椅子に腰掛けた。
「それに
「そりゃ俺達は良いけどよ、アイツ等が怒るんじゃねぇか?」
「エエねんエエねん。勝手に怒らせといたらエエねん」
手招きするみたいに掌をパタパタさせている。
おばちゃんが『アラやだぁー』とか言いながらやる感じだ。
「ウチは約束果たしたし」
「約束?」
「うん。ウチ、ゾンビハンター部は掛け持ちの仮入部部員で、ホンマはウォーターウェポン部の部長やねん」
ウォーターウェポン部? ふーん、八幡西にはそんな部活もあるのか。
だから泉さんの手伝いをして勉強がしたい、と。
……あんな魔改造、勉強になるのか?
「なんやメカニックが必要やったみたいで突然ウチの部にやって来て、『お前次の試合に出ろ』って言われてなー。ウチはゾンビハントには興味ないし断ったら、『試合に出ないのならオヤジの力でこのウォーターウェポン部を潰す』って脅されたんよ。ホンマ酷い話やわー」
強引な奴だな。
物事の頼み方ってモンを知らねぇのか? 我が儘に育ったんだろうなー。
「ウチはちゃーんと試合に出た。だからウォーターウェポン部は存続、ってコトで」
「約束は果たした、と」
「そう。でもラッキーやったわ! まさかこんな場所で
「う、うん。じゃあ早速ウォーターセイバーの改造から取り掛かりましょうか。……ええっと、あなた名前は?」
「ウチの事はアキちゃんって呼んで下さい!」
二人は篠が使うウォーターセイバーの改造に取り掛かった。
田井中達は強引な手段でアキちゃんをチームに引き込んだんだよな?
それなのにチームに同行させずに無視しているのか。
よく分かんねぇ奴等だな。
そんな田井中達は堤防の辺りをウロウロとしている。
何かを探しているみたいだが、一体何をしているんだ?
タンクに給水を終えて戻ってくると、漁業センター内は鉄火場と化していた。
泉さんは隣で作業するアキちゃんに指示を出しながら、自分の手も一切止めていない。
「はい次ー!」
「手の空いている人! 民家に行って何でもいいから使えそうな部材片っ端から持って来てー!」
「了解!」
「アキちゃんそこ、そこのポンプは強度が足りないから交換で!」
「は、はい!」
い、忙しそうだな。
俺も何か手伝った方がいいのか?
「雄磨ー! 手が離せないからちょっと来てー!」
呼ばれたのだが、泉さんはみんなの前でも俺の事
忙しくて忘れていたのか? まぁどっちでもいいけど。
「スタジアムで観戦した時にアタシと彩ちゃんが使っていた対物ライフル、覚えてる?」
「ああ、何となく。あの馬鹿デカい銃だろ?」
「そうそう。アタシ用に欲しいんだけどさ、あれのどっちかって今探せる?」
「そうだな。泉さんの銃も探さねぇとな。ちょっと待って――」
他校の部員達のウォーターウェポンばっかり探している場合じゃねぇよな。
俺達も戦わなきゃならねぇんだし。
瑠城さんにも強力なウォーターウェポンを用意してあげたいし……。
意識を集中し始めるとすぐに見つかった。
これは……泉さんが使用していた方の銃だ。
泉さんが銃の名前も言っていた気がするが、そこまでは記憶にない。
南彦根高校のスナイパーの女子をぶっ飛ばしていた光景は鮮明に覚えているけどな……。
建ち並んだ格納庫の一角に設置されているみたいだけど……シャッターに鍵が掛かっている。
「見つかったけど鍵が掛かっているから、俺が今から行って取って来るよ」
「うんお願い! 頼んだよー」
……鍵だけじゃねぇけど。
篠は留守番。万が一に備えて泉さんの護衛と、改造したウォーターセイバーの感触を確かめておくようにと伝えてある。
霧姉と瑠城さんは連れ出した。
色々と聞きたい事があったので、格納庫に向かいながら聞いてみる。
「因みに今回のレイドボス戦ではどんなゾンビが出されそうなんだ?」
「そうですね……私達が高校生で、選手権で初めて開催されるレイドボス戦だという事も踏まえて……比較的討伐し易いSSランクのゾンビでしょうか」
SSランクか。前回のブボーンの時みたいに上手く行けばいいが。
あの時も真正面からぶつかれば、俺達にも被害が出ていたかもしれねぇ。
「Sランクのランキング戦で開催されているレイドボス戦で、SSランクからSSSランクのゾンビが出されています。生き残れるのは数名、もしくは全滅なんていうのも珍しくありません」
「ランキング戦だと選手達は、レイドボス戦だと理解して参加しているんだよな? それでもそんなに犠牲者が出るのか?」
「はい。非常に厳しい戦いになりますけど、その分賞金額も桁違いに跳ね上がりますよ」
「そこだよなー。ズルいよなー。選手権でレイドボス戦をやっても、私達には賞金は出ないし」
霧姉の不満も分からなくはない。
どうせレイドボス戦をやらされるのであれば、俺達にも賞金を出して欲しい。
「あの、瑠城さん?」
ちょいちょいと手招きして、瑠城さんを近くに呼び寄せる。
「今回の試合、得意のハッキングで何か情報は掴んでねぇのか?」
「まぁ失礼ですねー。私自身が出場する試合で私だけが情報を掴んでいたら、そんなのズルいじゃないですか。私は試合には正々堂々と挑みますよ!」
ちょっと怒られてしまった。
どうも変なところに拘りがあるらしい。
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