第52話 ブボーン


 「おっと、こうして悠長に話している場合ではありませんでした。SSランクのブボーンは非常に強力なゾンビですが、その分倒せば一匹で二千ポイントという高ポイントが手に入ります。その為どのチームも無理をして討伐に向かう可能性があります」


 倒し方次第で俺達のポイントを逆転しそうなのか。

 俺としてはそんな恐ろしそうなゾンビは無視してやり過ごしたいのだが……。


 「なぁ瑠城さん、ブボーンは他のチームでも討伐出来そうなのか?」

 「そうですね……。ハッキリと言ってしまえば非常に厳しいと思います」


 やっぱり厳しいのか。SSランクだもんな……。

 泉さんの狙撃の腕前、近距離戦の篠、高火力アサルトライフルを装備した霧姉を要する俺達でも、どうなるか分かったもんじゃねぇ。


 「遠吠えが聞こえて来たという事は、既に大田上高は全滅してしまったと考えた方が良いでしょうし、一番のライバルである石山北高校も四名体制。しかも先程出会った時の様子では、ブボーンを討伐するには戦力不足と言わざるを得ないでしょう」


 馳の野郎は問題外。他の部員も疲労困憊といった状況。

 真面に戦えそうなのが志賀峰さんだけだったもんな……。


 「ちょっと待った。って事は俺達がブボーンを何とかしねぇと他のチームは全滅するかもしれねぇのか?」

 「手を出さずに身を潜めて時間をやり過ごせるのであれば生還出来ると思いますが、遭遇してしまえば最後、全滅の道を辿る事になるでしょうね。ただし、勝負を捨てて生存する事だけを優先すれば話は別です。各チームが一堂に会して総力戦で挑めば、勝機が生まれるかもしれません」

 「そういう場合、ポイントはどうなるんだ?」

 「ルール通り最後に止めを刺した選手にポイントが入ります。他の場合同様、誰が止めを刺したのか分からない時は、ジャッジが判断してポイントが付与されます」


 各校協力して討伐しても一チームにしかポイントが入らねぇのか。

 ずっと距離を取って待機しておいて、美味しいとこ取りで最後だけ掻っ攫うようなヤツなんかも出そうだし……。


 「モメるな」

 「はいモメますね。ですからチームが勝負を捨てた場合にしか総力戦には発展しないのですよ」


 成程な。……スタジアムで観戦している大富豪達は、そういうチーム同士の争いを見るのも楽しみにしていそうだな。


 「……なぁ雄ちゃん、この端末を見る限り大田上高の部員はあと一人だけ生き残っているみたいだぞ?」

 「そうなのか? スゲーじゃねぇか。SSランクのゾンビ相手によく持ち堪えているんじゃねぇか?」


 ブボーンとやらがどんな奴だか知らねぇが、遠吠えが聞こえてから結構時間が経っているぞ?

 改めて赤い鳥居の方角に意識を向けると……距離が遠過ぎていまいちピンと来ねぇが、コレ、移動してるんじゃねぇか?


 「……なんかよ、そのブボーンとかいうゾンビ、移動してるっぽいぞ? 大田上高の生き残っている部員は隠れてやり過ごしているのか?」

 「いえ……そうではないと思います。ブボーンは視界に捉えている動く物に反応します。移動していると言うなら、その生き残っている部員さんは逃げている最中で、その部員さんをブボーンが追い掛けているという状況ではないでしょうか?」

 「へ? 追い掛けてるって、こんな長時間をか? ブボーンってのがどんなゾンビか知らねぇが、そんな簡単に逃げられるモンなのか?」

 「出会った場所が弁財天様の厳島神社だったという事が幸いしたのかもしれませんね。厳島神社へと向かう道中は非常に狭く険しい道のりで、道中を塞ぐように覆い茂った木々が、追い掛けるブボーンの行く手を上手く遮っているのかもしれません」

 「……って事はこのまま住宅街付近まで逃げ切れるかもしれねぇのか?」

 「その可能性も考えられますね」


 くそ、遠い場所なら放置してやり過ごせるのに。

 そんな化け物連れて来られたら、他の学校のメンバー達にも被害が及ぶじゃねぇか!


 「私達はどうしますか? 討伐に向かうのであれば、何処か場所を決めて体勢を整えて迎え撃つのが良いと思います」

 「よし行こう! 私のこの銃でハチの巣にしてやる!」


 霧姉はる気マンマンだ。 

 赤い鳥居の方角に向けてアサルトライフルを構えている。

 討伐するにしても戦わずにやり過ごすにしても、体勢は整えておいた方が良さそうだな。


 「何処で迎え撃つのが良さそうなんだ?」

 「うーん、そうですねー。……私達の戦力でブボーンと戦うのであれば、泉さんの狙撃能力は必要不可欠です。障害物のない直線でブボーンと距離が計れる場所、学校のグラウンド――では今から移動するのでは間に合わないかもしれませんし……。となると、学校へと向かう道か沖ノノ島漁港内ですが……ひとまず漁業センターまで戻り、雄磨君がブボーンの状況を把握しながら対応するのが良さそうですね」


 学校付近でブボーンが止まるかもしれねぇし、こっちまで来るとしてもどの道から向かって来るのか分からねぇ。

 ここは様子を見ながら移動した方が良さそうだな。


 「そうだな。よし、移動を開始しよう。……因みにブボーンってのはどんなゾンビなんだ?」

 「ブボーンは金色に輝く体毛の鎧が全身を覆う巨大なヒヒですよ。強靭な足腰から繰り出される凄まじいスピードと、目に映る全ての物を破壊し尽す圧倒的パワーを兼ね備えています。猪突猛進型のとても凶暴な性格の持ち主なのですよ!」


 出会いたくねぇー! 無茶苦茶ヤバそうな奴じゃねぇか!


 「やっぱり俺はここに残った方が良さそう――」

 「何言っているんですか! ブボーンですよ、ブボーン! 一生に一度出会えるかどうかというチャンスなのに! ホラ、行きますよー!」

 「ちょ、瑠城さん! 自分で歩くから――」


 強引に瑠城さんに腕を引かれて、奥津島神社を後にした。

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