第51話 強敵現る?


 絵馬が気になる。


 「おおおミッケルがこっちにおたからがあるよとおしえてくれているきがするー」

 「……」


 奥津島神社の神様が祀られている本殿の脇に設置されている石灯籠へと移動する。

 霧姉はため息を吐く事すらなく、黙って付いてくるだけになってしまった。

 俺の演技はそんなに酷いのか? 


 「このなかがすごくきになるー」

 「……こんな所に入れてあるのか。運営側も罰当たりな奴等だな」


 霧姉は火を灯す場所を開けるのではなく、石灯籠を薙ぎ倒して破壊した。

 ……力任せに石灯籠を壊す霧姉の方が罰当たりだと思うぞ?


 絵馬が気になる。


 「チッ、また図書カードか。……まぁいい、これで更にポイント差も開いた事だし、私達の勝利は確定的だろう」

 「そうですね。残り時間も少なくなっている事ですし、すぐに次のお宝の回収に向かいましょうか」


 瑠城さんはチラリと俺に視線を向けた。

 どうやら志賀峰さんとの会話を聞いていたみたいで、俺に絵馬を見せない気なんだな?

 まぁ見るなと言われていたのだから、これで良かったのかもな。


 「よし、そうと決まれば出発だ」


 歩き始めて間もなく、先頭を歩く霧姉が無人で絵馬が販売されているガラスケースの前で足を止めた。


 「絵馬、か。折角だから私も書いて行こうかな。……何? 一枚五百円だと? 運営め、ボッタクりやがって!」


 霧姉がそれを言うのか? 絵馬一枚五百円なら普通だろ。

 一個千五百円というどブサにゃん極のキーホルダーの方が、全然ボッタクりだと思うぞ!

 しかもその金額は運営が決めたんじゃなくて、当時のままのはずだからそういう事言うんじゃねぇよ。


 「アタシも描こうっと」

 「では私も御一緒に」

 「……私も」


 それぞれが据えられていた賽銭箱にお金を入れてから絵馬に願い事を書き始めた。


 ……俺、スゲー暇なんだけど? 


 仕方がないので描き終わった絵馬が沢山吊るしてある場所を眺めてみた。

 ゴメンねと心の中で謝りつつ絵馬を探してみると、志賀峰さんの絵馬はあっけなく見つかってしまった。

 しかも二枚。

 欲張りか! と思ったが、内容を読んで我が目を疑った。


 ゾンビハンター選手権で優勝出来ますように! 石山北高校 志賀峰美咲


 一枚は凄く丁寧な字で書かれていた。そしてもう一枚はこっそりと隅の方に掛けられていたのだが――


 試合後には告白する勇気が湧きますように……。 志賀峰美咲


 一枚目とは違う少し丸みを帯びた字体で描かれていた。


 ……


 エエエエェェー! こ、告白? 何の? だ、誰に?

 まままさか、おお俺だなんて事は流石にねぇよな? あは、あはは。

 全然期待してるとかそんな事はねぇけど、ままいったなぁー。

 いやーウチのゾンビハンター部は恋愛禁止なんだよなぁー。


 「何を気持ち悪い顔でニヤニヤとしているのだ?」

 「あー! さては雄磨君、志賀峰さんの絵馬を見付けたのでしょう!」

 「べ、別にそんなんじゃねぇよ! それに志賀峰さんの絵馬はホラ」


 コッチの絵馬は見つかってしまうと何かと厄介だ。

 隅に掛けられた絵馬を霧姉達の視界から遮るように体で隠し、丁寧な字で描かれた一枚目に見付けた方を指差した。


 「ぐぬぬ、我々樫高を差し置いて優勝だと?」

 「霧姉はどんな願い事を描いたんだよ」

 「フン、商売繁盛に決まっているだろうが」


 あーやっぱりね。


 霧姉が絵馬を吊るそうとしたその時だった――



 「ブオォ―――ン!」



 遥か遠くから獣の遠吠えのような馬鹿デカい音が響いて来た。


 「……ま、まさか!」


 瑠城さんは絵馬を投げ出し境内の隅まで駆けて行くと、身を乗り出すようにして島を眺め始めた。


 「瑠城さんどうしたんだよ」

 「……」

 「瑠城さん?」



 「ブオォ―――ン!」



 巨大船舶の警笛にも似た音が、再び沖ノノ島に鳴り響いた。


 「間違いありません! みなさん緊急会議です!」


 瑠城さんのただならぬ様子に、みんなの間にも緊迫した空気が流れ始めた。


 「今しがた聞こえた遠吠えは、超希少種SSランクゾンビ『ブボーン』のものです。雄磨君、島の何処かから強そうなゾンビの気配は感じられませんか?」


 瑠城さんの隣に立ち、島を眺めながらもう一度意識を集中させる。


 ……居る。確実に居る。

 さっきまでは感じられなかったどす黒い靄が、島の遥か奥にハッキリと見て取れる。

 アレックスの時よりも格段に嫌な気配がする。 

 この方角……まさか――


 「船から見えていた赤い鳥居があった場所だと思う。俺達が学校の職員室で会議をしている間に、大田上高の奴等が向かって行ったから、恐らく――」

 「故意か偶然か、彼等がブボーンに突然変異させてしまったのでしょう。ブボーンは非常に希少で、長いゾンビハントの歴史の中でも、川島さん改verⅡからしか生まれて来た事がないのですよ!」

 「って事はなんだ、赤い鳥居の傍に居たちょっと強そうなゾンビは、その川島さんだったって事か?」

 「間違いないと思います。しかも川島さん改verⅡは攻撃を加えても傷口が再生するばかりで滅多に変異しないゾンビで、偶然にも変異させる事に成功したとしても、その殆どがリザードになってしまうのです。運営が施設で実験した公式データによると、川島さん改verⅡからブボーンに突然変異する確率は二万九千分の一だそうです」 


 ……大田上高の奴等は運が良いのか悪いのか、そんな超レアゾンビを今日この日に引き当てたってのか?


 「それ程に希少なブボーンですが、実はブボーンに姿形が瓜二つの『ブオーン』というゾンビがいます。ブボーンが視界に映る動く物に反応して攻撃して来るのに対して、ブオーンは発達した聴覚を頼りに遠くからでも小さな物音を聞き分けて接近して来ます」


 今日出たのがブボーンで助かった。

 視覚に頼るという事は、見つからなければ襲われないって事だからな。


 「でもよ、姿形が瓜二つだって瑠城さん言ったよな? 何処でその二匹を見分けるんだよ?」

 「ウフフ、声ですよ、声。さっき遠吠えが聞こえてきましたよね? ブボーンの遠吠えがブオォ―――ン! なのに対して、ブオーンの遠吠えはブオォ―――ン! です」

 「……何処が違うんだよ」

 「全然違うじゃないですか! ちゃんと聞いて下さいよ! ブボーンがブオォ―――ン! で、ブオーンがブオォ―――ン! ですよ!」

 「同じじゃねぇか!」


 一生懸命鳴き真似を披露してくれるのだが、俺にはサッパリ違いが分からねぇ。

 瑠城さんはさっきの遠吠えでブボーンの方だと確信してるってのか。


 「ブボーンがブオォ―――ン! で、ブオーンがブオォ―――ン! です!」 

 「もう分かったって!」


 ブオンブオンうっせーよ!

 瑠城さんが本当に凄い人なのか、ただのゾンビ馬鹿なのかよく分かんねぇんだよなー。

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