第50話 奥津島神社


 石山北高校のメンバー達が漁業センターを発った後、霧姉と泉さんが姿を見せたのだが、何故か俺達のもとには戻って来ずに、漁港内の船を眺めながら何やら話し合っている。

 携帯電話でパシャパシャと写真を撮ったり、しまいには直接船に乗り込んでゴソゴソと漁っている。

 今度は何をするつもりなんだ?

 今のところ俺達の近辺にはゾンビの脅威は迫っていねぇし、好き勝手していても特に問題はないのだが、ちょっとは団体行動ってモンを意識しようぜ?


 「いやー悪い悪い。待たせたな! それじゃあお宝の回収に向かうとするか」

 「……やっと戻って来たか。船で何をしていたんだよ」

 「今後の為にちょっと情報収集をな。……それでお宝は何処にあるのだったっけか? 神社だったか?」


 ……神社には違いないのだが、志賀峰さんに行くなって言われてしまったしなー。

 まぁ絵馬に描かれた内容が気になるとこだが、そこだけ無視すれば行っても別に問題ねぇよな?




 神社に向かっている途中、格納庫が建ち並んでいる幅が広い道を抜けたところで立ち止まる。

 この先の十字路に全然動かないゾンビが一匹居る事は分かっていたのだが、道を塞いでいたのが厄介な奴だったのだ。

 コイツは俺達がスタジアムで観戦していた時に、大津京高校が苦戦を強いられた奴、上半身が岩で構成されたロックだ。


 「余裕だよ?」

 「いや、今回は距離も保てるし泉さんに任せよう」


 篠は何度かロックを倒した事があるらしく特攻しようとしたのだが、奴に近付くのは篠と言えども万が一の危険があるかもしれないので、今回は泉さんにお願いする事にした。

 ロックはコチラには気付いていない様子だったので、みんなで傍の石垣に身を潜めると、泉さんがその石垣の角に狙撃銃を据えた。


 「やっぱりドロドロの下半身に数発打ち込むのか?」

 「フフ、奴の頭を撃ち抜いてみせるよ」

 「頭って……岩の部分に?」

 「まぁ見てなよ。……主よ、私の罪をお許しください。……ブツブツ」


 泉さんは右手でレバーをガチャガチャとスライドさせながら、お祈りを呟き始めた。

 俺も泉さんの背後、少し離れた場所からロックの様子を窺う。


 タンッ!


 少し甲高い射撃音が鳴り、弾き出された水が凄まじい速さで空気を切り裂くと、遥か遠くのロックの後頭部に直撃した。

 瑠城さんが言っていた通り衝撃で岩が欠けた部分からは、ゼリー状の下半身と同じマグマ色の地肌が少しだけ顔を覗かせている。


 「的は凄く小さそうだけど、あそこを狙うのか?」


 俺の問い掛けに泉さんは無反応で、一心不乱にレバーをスライドさせている。

 ……ロックが振り返ってしまえば地肌の部分が見えなくなるからだな。


 タンッ!


 すぐさま放たれた二発目も寸分のズレなく後頭部の地肌を撃ち抜くと、熟れたトマトが弾けるようにロックの頭部が吹き飛んだ。


 「へへーんだ! どんなもんよ!」

 「「「「おおー!」」」」


 泉さんが高らかにガッツポーズを取ったので、みんなで拍手を送る。

 いや、ホントに凄い腕前だな。

 岩を砕いてしまうウォーターウェポンっていうのもどうかと思うが、とにかく射撃の腕前はお見事。

 そしてやっぱり二発目はお祈りを忘れていたので、お祈りの有無で当たる当たらないは関係なさそうだ。

 この事は黙っておこうと思う。



 その後はゾンビに遭遇する事なく神社に到着出来た。

 そもそもこの近辺のゾンビ達は、先に神社を訪れた石山北高校や他校のチーム達が倒している。

 さっきのロックは無視してやり過ごしていたのだろう。


 全然読めない凄く難しい漢字――恐らく旧字体で奥津島神社と書かれている看板のような物が、石で出来た立派な鳥居の上部中央部分に掲げられている。

 数段の石畳の階段を昇って鳥居を潜り、更に数段石畳の階段を昇ると――


 「おおー! 雄ちゃんコッチに来てみろ!」


 境内は狭かったが、山の斜面を切り開いて造られている奥津島神社からの眺めは抜群だった。

 沖ノノ島の古く趣きのある住宅密集地が眼下に広がり、周囲に浮かぶ人工島や穏やかな琵琶湖も一望出来る。

 遥か彼方には堀切スタジアムの姿だって確認出来るぞ。


 「ホラ二刀乱舞さん。その屋根の向こう側辺りに俺達が最初に出会った郵便局があるぞ」

 「そうなんだ。私には全然分からないよー」

 「んでもって、そこの大きい瓦屋根の向こう側が、さっきロックを始末した場所」

 「へー。近いんだね」

 「俺達の実家は反対側だからここからじゃ見えねぇけど、琵琶湖の向こう側に見えるあの小さいのが堀切スタジアムだ。分かる?」

 「う、うん何となく。凄く小っちゃいよ」

 「俺達の視界も向こうで見られるんだから、今手を振ればスタジアムの方で応えてくれるんじゃないか?」

 「……やらないよ?」

 「そんな事言わずに頼むよ。どブサにゃん極、風寅のアピールだと思ってさ」

 「うぅ……こ、こうかな?」

 「「「ぅおーーー!」」」


 篠が小さく手を振ると、スタジアムから地鳴りのような歓声が響いて来た。

 Sランカーの二刀乱舞は人気者だからなー。


 「いいじゃねぇか。そうやって愛想良くしていた方が風寅も可愛いと思うぞ?」

 「! か、かかわい――……もー無理だよー」


 恥ずかしくなってしまったのか、篠は風寅のお面を手で覆いその場で蹲ってしまった。


 「おい、どういう事だ。そっちの二人からラブコメ漫画みたいな空気が流れ出ているぞ?」

 「邪魔しちゃ駄目だよ霧ちゃん」

 「雄磨君はそういう人なのですよ」


 霧姉達はブツブツ言いながら俺に冷ややかな視線を向けている。

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