第49話 噛まれた部員とビビった部員
泉さんが作り上げた殺人兵器には、すぐに問題点が浮上した。
ズドドド……プスプス、プスン。
「……雄ちゃん弾切れだ。おかわり」
「おかわりじゃねぇよ、ったく。無駄打ちしてタンクの水を浪費してんじゃねぇ!」
威力は申し分ないのだが、燃費が悪過ぎたのだ。
霧姉が無駄打ちし過ぎるというのもあるのだが、問題はそれだけではなかった。
カチ……カチ……
「……アレ? 雄ちゃん弾が出ないぞ? ジャムったんじゃないのか?」
ジャムるってのは確か、マシンガンやアサルトライフルなどに起こる弾詰まりの事、だったよな?
……水はジャムらねぇだろ。
「うーん、やっぱり駄目みたいだね。放置されてたトラクターじゃバッテリーが弱っていて、連続使用に耐えられないみたいなのよ」
泉さんがアサルトライフルを弄りながら首を横に振っている。
運営もそんなところまできっちりと再現してなくてもいいのと思うのだが……。
「何とかなんねぇのか?」
「幸い沖ノノ島には沢山のトラクターがあるから、動きそうなトラクターからバッテリーを取り外して交換すればいいんだけどさ。……霧ちゃん、もう無駄遣いは駄目だよ?」
「ぐぬぬ、最強の力を手に入れたと思ったのに。……はっ、そういえばここ漁業センターの裏手側にも、動きそうなトラクターが一台停まっていたな! よし泉、早速バッテリーを取り外しに行こう!」
霧姉が泉さんの腕を引っ張りながら漁業センターから飛び出して行ったのだが――
「あー!
霧姉達とは入れ違いで、石山北高校の志賀峰さん達がやって来た。
ハンドガンタイプのウォーターウェポンで掌に水を当てているのだが、コレ、俺達もやった方が良いのか?
志賀峰さんはまだまだ元気いっぱいといった様子だが、タンク職の馳君と残り二名の男子部員達の顔には、疲労の色がはっきりと見て取れる。
……へ? 男子ばっかり?
「あの、志賀峰さん、……悦ちゃんは?」
「……えーっとですね、残念ですが悦ちゃんは――」
志賀峰さんは気落ちした様子で自分の首筋をパクっと摘まんだ。
そう……か。悦ちゃんは噛まれてしまったのか。
元気な子だったのになぁ……。
つい数十分前に俺と元気良く会話していた悦ちゃん。
志賀峰さんとドタバタ劇を演じていた悦ちゃんとは、もう……会えないんだよな。
ゾンビハンター部に所属している以上、今後もこういう場面に出くわすだろう。
そう思うとやるせない気持ちが溢れて来るのだが、志賀峰さん達はどうやって気持ちを切り替えているのだろうか。
噛まれてしまった悦ちゃんにも、当然止めを刺して来たのだろうし……。
「でも私達もまだまだ負けたわけじゃありません。これから樫野高校を追い上げてみせますよ! ……そうそう、早速ミッケルの御利益が得られましたよ! じゃじゃーん!」
志賀峰さんは頭上に目録を掲げている。
あの目録、中身は図書カードなんだよな……。
「
「そ、そうなんだ。良かったなー」
「こんな偶然ってあるんですねー!」
勿論その場所にお宝が設置されているのは分かっていた。
分かっていてさり気なく絵馬の話を振ったつもりだったのだが……ちょっと贔屓し過ぎたかな。
でも知り合いが霧姉からボッタクられて、何もお宝が発見出来ないっていうのも流石に気が引けるし……あれ?
「缶バッジは無くしたのか?」
確かミッケルのキーホルダーの隣には、ゾンビ缶バッジもぶら下がっていたはずだが見当たらないぞ?
「まさかまさか。無くしたりしませんよ! 悦ちゃんが噛まれてしまってから男子達……特に馳君が怖気付いちゃいまして。このゾンビ缶バッジを持っていれば絶対に大丈夫だからと言い聞かせて、今は彼のTシャツに付けています」
そんな馳君と目が合うと、おどおどした様子で視線を逸らされてしまった。
あの野郎。威勢が良かったのも最初だけで、丸っきり見掛け倒しじゃねぇか!
「私は部長ですからね。部員達を安心させるのも私の役目なんです! ただしこの試合が終わればあの缶バッジは必ず返してもらいますよ」
「そうか。この後も気を抜かずにな。絶対に噛まれるんじゃねぇぞ?」
「はい、モチロンです。……そうだ! もしゾンビ化して島内を徘徊している私を発見した時は、
「馬鹿、縁起でもねぇ事言ってんじゃねぇよ」
「ウフフ。ではポイントも負けている事ですし私達はすぐ出発します。……そうそう、私達がお宝を発見しましたので奥津島神社には向かっても無駄ですよ? ましてや私が描いた絵馬を見るような真似は絶対にしちゃ駄目ですよ?」
行くなよ、見るなよと念を押されると余計に気になる。
戦術的な事を考えれば、自分達が神社でお宝を発見した事は言わない方が良かったはずだ。
ポイントで負けているのだから、俺達が神社に向かって無駄足を踏む方が得だからな。
俺達が向かうと何かまずい事でもあるのか、それとも『押すなよ? 絶対に押すなよ!』的な事かな?
「分かったよ。気を付けてな。でもちょっとだけ馳君と話があるから――」
「へ? 馳君に?」
志賀峰さんに断りを入れてから、タンクに腰を下ろして項垂れていた馳君のもとへと向かう。
「……おい」
「ひぃぃ!」
ちょっと声を掛けただけで震え上がるこの有り様。
……駄目だなこりゃ。ったく、デカい図体してるクセに俺よりもビビりじゃねぇか。
「そんな調子で俺との約束は守れるのかよ」
「……そんな事言われたってよ。俺は実戦経験も少ないし、仲間が噛まれたのも初めてでよ。悦ちゃん先輩みたいに、部長達も俺に襲い掛かって来るのかと思うと――」
「そうならねぇ為に頑張るんじゃねぇのかよ」
「……」
馳君はTシャツに付けた缶バッジを握りしめている。
「とにかく。志賀峰さんをしっかりと守り抜いて、男を見せろよ?」
「……ああ。わ、分かったよ」
弱々しい言葉を残し、馳君はメンバー達のもとへ合流していった。
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