第48話 トップ独走


 一風変わったカフェっぽい商店にて難なく狙撃銃を回収した俺達は、その足で小学校校舎内に設置されていたお宝を回収しに向かったのだが――


 「ううむミッケルがこのきょうしつにおたからがあるよとおしえてくれているきがするー」


 ウォーターウェポンやお宝を回収する前に、いちいち演技を挟まないといけないのが非常に面倒くさい。

 勿論霧姉から強要されていて、家で何度も練習させられたのだ。


 やはり商品の胡散臭さは俺の演技力でカバーするしかねぇな!


 「やっぱりミッケルはすごいなーこれでおたからみっつめだぞー!」

 「……はぁ」


 何故か俺が演技を披露する度に霧姉はガックリと肩を落として溜め息をついている。

 ……何だよ、まるで俺の演技が酷いみたいじゃねぇか。


 発見したお宝の質はオープン戦の時と比べると格段にショボく、前回のオープン戦みたいにお宝とご対面した時の感動なんて全然味わえない。

 瑠城さん曰く、そもそも高校生のみが出場する選手権では、優勝賞金が出る代わりに高額なお宝というのはあまり設置されないそうなのだが、それにしても格差が酷いそうだ。


 「これも恐らく雄磨君対策でしょうね」


 発見したお宝を眺めながら不満げな表情を浮かべていた。

 命懸けで参加していて、図書カード一万円分って酷過ぎるだろ!



 例えゾンビ達に包囲されてしまったとしても無双してしまう篠と、ゾンビの位置を把握しつつ一匹ずつ確実に始末出来るように立ち回れる俺が居る。

 アレックス級の手強いゾンビが居ない今日の状況で、苦戦などする理由がなかった。

 古民家の中では狭くて戦い難いと言っていた篠だが、間合いが計れる教室や廊下では特に苦にならない様子。

 ゾンビが居る静まり返った教室のドアをそっと開け、|くノ一(くのいち)や某仕事人みたいに音も立てずに侵入すると、あっという間にゾンビを始末していた。

 ゾンビ達が篠の手によって瞬時に浄化されて行く様子を、声を出さないように手で口を覆いドアの傍から見守る俺。

 

 ああ、篠。なんて頼りになるんだ。

 篠が樫高ゾンビハンター部に来てくれて本当に助かったよ。

 こんなにもあっさりと処理されてしまっては、頭では駄目だと理解していてもどうしても緊張感は緩みがちになってしまうぞ。

 


 現在職員室でお茶を飲みながら、この後何処に向かうか作戦会議を行っている最中だ。

 校内では他にもアサルトライフルタイプのウォーターウェポンを二丁発見したので、泉さんは改造とメンテナンス作業に取り掛かっている。


 「お宝三つで二千四百ポイント、リザード三匹、ナチュラルゾンビ五匹、変異種三匹討伐の合計で二千百ポイント。合計四千五百ポイントで二位の石山北高校に三千ポイント以上の大差をつけている状況だ」


 霧姉だけが装着している端末を見ながら、現在の状況を報告してくれたのだが……そんなにも差が付いちまってるのか。

 一昨日観戦に来た時も思ったのだが、何処のチームもお宝を発見するのは難しいみたいで、お宝にはかなりのポイントが付加されている。

 瑠城さんは高額なお宝程ポイントも多く設定されていると教えてくれたが、図書カード一つで六百ポイントもあったのには驚いた。


 「――とまぁこんな感じで、今日の試合は余裕の展開になってしまったのだが、これからどうする?」

 「そうですねー。今日は高額なお宝も期待出来そうにありませんし……。ここは闇雲に動き回らずに、泉さんのウォーターウェポンの改造を優先して、他校の状況を見ながら育成に備えておくのがいいのではないでしょうか?」

 「育成? 育成って何だよ?」

 「育成というのは、ナチュラルゾンビや変異種をウォーターウェポン以外で攻撃して、故意に突然変異を促すという攻略方法です。ポイントの低いナチュラルゾンビでも、強制的に突然変異させてから始末すれば高ポイントが獲得出来ますからね。リスクは非常に高いですが上手く高ランクのゾンビに突然変異させられれば、一発逆転のチャンスがあるのですよ」


 そうか。高ランクのゾンビが初期配置されていなくても、試合の途中からでも突然変異によって生まれて来るかもしれねぇのか。

 負けているチームが無茶するかもしれねぇし、ゾンビを育成させたはいいが、討伐に失敗してその高ランクのゾンビが島に放たれる可能性もあるって事だからな。

 こりゃー油断している場合じゃねぇ。今後も引き続きゾンビの索敵には注意しねぇと駄目だな。


 「じゃあさ、この後ウォーターウェポンの改造に使う部品や道具を回収しながら、一旦漁業センターに向かおうよ! アタシ、ちょっと試したい事があるのよねー。霧ちゃんも手伝ってくれる?」


 試したい事? 泉さんは一体何をするつもりなんだ?


 ふと職員室の窓の外に目をやると、大田上おおたなかみ高校の部員達三名が隊列を組んでグラウンドの隅を移動していた。

 ……もうニ人もやられちまったのか。

 グラウンドの脇道から湖岸沿いに更に北側に向かうみたいだが……まさか船上で話していた通り、本当にあの馬鹿みたいに遠い神社を目指すつもりなのか?

 学校からでも徒歩で片道ニ十分以上掛かるだろうし、ゾンビを警戒しながらだととんでもない時間をロスする事になる。


 長旅になるが気を付けて行くんだぞ、とお祈りだけはさせて貰おう。



 漁業センターに戻る最中、一軒の民家に立ち寄った。

 タンクに給水作業中、霧姉と泉さんは庭に停めてあった古い型のトラクターを分解していた。

 沖ノノ島には車がないのだが、こういったトラクターはポツポツと見かける。

 漁港内にも数台停まっていたので、畑を耕すというよりも漁船を格納庫に仕舞う時にでも使用するのだろうか?


 漁業センターに到着してからは、泉さんはウォーターウェポンの改造、俺達は土産物屋の食べ物や民家の冷蔵庫から調達した食料などを食べながら雑談会という、ゾンビハントとはかけ離れた時間を過ごす事となった。


 「おおー。石山北高校はやっぱり凄いぞ。私達とのポイント差が縮まって来ている」

 「そうなのか? マズいんじゃねぇのか?」

 「うーん、まだ二千五百ポイント差あるから今すぐどうこうっていうのは大丈夫だが、泉の作業が済み次第お宝の回収に向かった方がいいかもな」

 「だな。俺達が見つけていないだけで、実は高額なお宝が眠っているかもしれねぇし。そのお宝を石山北高校が発見して数千ポイント獲得――なんて展開になったら面倒だしな」

 「雄ちゃんが言っていたお宝が設置されている場所って、確か奥津島神社と島の北側だったか? お宝はまだ残っているのか?」

 「ああ。神社にあった二つのお宝のうち一つは発見されたみたいだが、もう一つはそのまま残されている。島の北側にあるお宝は手付かずだな」


 島の北側へと向かう為には、道が細い住宅密集地エリアを通過しなけりゃ行けない。

 装備が整っていない序盤に向かうのはどのチームもリスクが高いのだ。


 「よし、では先にどのチームも向かいそうな神社のお宝を回収して、各チームの状況を見ながら島の北側に向かおう」

 「泉さん、後どのくらいで改造終わりそう?」

 「霧ちゃんと彩ちゃんの分は完了してるよ。彩ちゃんのアサルトライフルは射程距離、タンク容量、威力の強化。霧ちゃんのアサルトライフルは確実に命中させるためにレーザー式のサイトスコープを取り付けておいたよ。これだと十五メートルくらいの距離なら確実に当てられるよ。スイッチを入れれば、ホラ――」


 泉さんがスイッチを入れると、漁業センターの壁にレーザーで射出された赤い点が浮かび上がった。


 霧姉は射撃下手だからな。

 ってかそんな物どうやって作ったんだよ!


 「しかも霧ちゃんのアサルトライフルはトラクターのバッテリーを使用して電源を大幅に強化してあるのよ! 威力も格段に向上しているんだけど……その分、重量が……ね」


 アサルトライフルから伸びた数本のケーブルと、その先にはショルダーストラップが装着された巨大なバッテリー。

 ……成程、こんなもの瑠城さんでは持ち運べねぇな。霧姉専用だ。


 「……ちょっと撃ってみてもいいか?」

 「モチロンだよ! はいどうぞ」


 霧姉がサイトスコープのスイッチを入れると、俺の鳩尾辺りに赤い点が浮かび上がった。


 「やると思ったよ。そんな物騒なモン、人に向けるんじゃねぇよ。ったく」

 「フフフ、冗談冗談。ただのお約束だ。どれどれ――」


 今度は漁業センター内に設置されている、プレハブの事務所の壁に赤い点が浮かび上がった。


 ズドドドドドドッ!


 水鉄砲の射出音とは思えない鈍い音と共に連射されると、プレハブの壁を貫通した穴が六つ、縦に綺麗に並んでいた。


 「おおー、これは凄い威力だな! ただちょっと反動が強くて二発目以降は上にズレちゃうなー! ぐははー!」


 ズドドドド……!


 事務所のガラスは割れ、壁の破片や書類は宙を舞い、蛍光灯は弾け飛ぶ。


 霧姉はアサルトライフルがお気に召した様子で、事務所を蜂の巣にして遊んでいる。

 もうちょっとで俺の体が事務所の代わりに蜂の巣にされるところだったじゃねぇか!


 霧姉にこんなの持たせちゃ駄目な気がする。

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