第47話 沖ノノ島再び


 「絶対に死ぬなよ!」

 「「「「おう!」」」」

 「絶対に勝つぞ!」

 「「「「おう!」」」」


 いよいよ船が沖ノノ島漁港内に進入しようというところで、各校ゾンビハンター部が円陣を組み始めた。

 俺はその間もコッソリとゾンビ達の索敵と、お宝やウォーターウェポンの探索を続けていた。

 先程の失敗も踏まえてボーっと島を眺めつつ、なるべく何も考えていないように装って、だ。

 何故俺が周りに気を遣わなきゃならんのだ。ったく。


 「島の支配者エリアルーラーさーん」


 石山北高校の部長、志賀峰しがみねさんが俺の傍まで駆け寄って来た。

 やっぱり動きは女子っぽいが、駆け寄って来る時に色々と上下に揺れていたのが気になる。

 ……別に変な意味じゃないぞ!


 「ああ、コレですか? 商売上手さんから購入させて頂きました!」


 腰の辺りで揺れていたのは、俺が渡した缶バッジと、俺も身に付けているミッケルのキーホルダーだ。

 実はこのキーホルダー、一つ千五百円という超ぼったくり価格なのだが……志賀峰さん買っちゃったのか。

 知り合いがボッタクられたのかと思うと、物凄く申し訳ない気分になるぞ。


 「えへへ、これでお揃いですね。どうか私にもお宝が見つかりますように」


 志賀峰さんは掌を合わせて俺を拝んでいる。

 俺を拝んでも意味はないと思うのだが……。


 「俺を拝むよりも、神社の絵馬にでも願い事を書いた方がいいんじゃないか?」

 「ウフフ、そうですね。後でお願いしに行きます……っとと、そうじゃなかった。私、島の支配者エリアルーラーさんのファンですけど、試合には負けませんよ? 全力でぶつからせて頂きます!」


 小さくファイティングポーズを取っている志賀峰さんは、もう俺の負けでもいいやと思える程可愛らしいのだが、こっちにも事情がある。絶対に負けられねぇ。


 「ああ、気を付けてな。絶対に噛まれるんじゃねぇぞ?」

 「はい! あ、でも大丈夫ですよ? 私には頂いたゾンビ缶バッジがありますから」


 そう言って腰の缶バッジを自慢げにアピールしている。

 余程嬉しかったんだな。

 でもその缶バッジ、特に何の効果もないんだよ……ゴメンな。


 「……そうだな。でも十分に注意しろよ?」

 「任せて下さい! こう見えても部長ですから! ……えっと、じゃあ二時間後、またこの船の上で会いましょうね」


 一瞬俺に何か言いたそうな寂し気な表情を浮かべた後、志賀峰さんは石山北高校の部員達のもとに戻って行った。

 すると今度は入れ替わりではせ君が、鬼の形相で俺の傍に駆け寄って来た。

 怒り過ぎ! こめかみに血管が浮き出ているぞ!


 「……ぶ、部長は俺が守る。テメェには絶対ぜってぇ渡さねぇからな」


 ……何だよ、そういう事か。もっと早く言えよ馬鹿。


 「ああ。馳君が志賀峰さんを守ってやってくれ。頼んだぞ?」

 「ば、何で対戦相手のテメェにそんな事言われなきゃ――」

 「いいから。絶対守れよ? 約束だぞ!」

 「……ああ、お、俺に任せろ」


 今までとは違い、臆することなく面と向かって話した。

 すると今度は逆に馳君が少し怖気づいてしまった様子。


 「……じゃ、じゃあな」


 そのまますごすごと部員達のもとへと戻って行った。

 おいおい大丈夫か? あんな調子で志賀峰さんの事を守れるのかよ……。

 ちょっと不安になって来たぞ。




 俺達が船を降りると警笛が二度鳴らされ試合開始となった。

 その瞬間、全員が我先へと漁業センターに向かって走り出した。

 人数分のウォーターセイバーを回収すると、どのチームも隊列を組みながら一軒の民家に侵入して行く。


 ミストアーマーとタンクの水の確保だ。

 水が空っぽではただの邪魔な装備品でしかないからな。


 俺達もゾンビがいない近場の民家を選び、船上で続けていた索敵と探索の結果をみんなに伝える。


 「泉さんが欲しいと言っていた狙撃銃だが、ここから少し学校方面に歩いた商店に設置されている。まずはこれを確保しに行こう」

 「やったね! 因みにどんな銃だか分かる?」

 「多分前回のオープン戦の時と同じ銃だと思う。……霧姉、タンクの水はちょっと少な目で頼むぞ?」

 「ふぇーい。お? 冷蔵庫にてお宝発見! チッ、フライドチキンにポイントは付いていないのか」


 霧姉はキッチンで給水作業中……と冷蔵庫を物色中。

 早速霧姉だけが装着している端末を弄っているみたいだ。

 その他のメンバーは茶の間で作戦会議中だ。 


 「ゾンビの方だが、前回のオープン戦で戦ったアレックス級のゾンビは居ねぇが、その代わり変異種クラスのちょっと強めなゾンビの数は多そうだ」

 「その狙撃銃を回収に行く途中にもゾンビは居るのですか?」

 「ああ。三匹程接触しそうな奴がいる。瑠城さんはまだセイバーしか装備品がないから後方待機で、この三匹は篠に任せようと思う。大丈夫か?」

 「……」


 篠は返事をしてくれない。

 何故だ? また機嫌を損ねてしまったのか?


 「二刀乱舞さんなら三匹くらい大丈夫ですよね?」

 「余裕です」


 ああそうだった。

 篠って呼んじゃ駄目だったの忘れてた。

 瑠城さんはよく気付いたな。


 「ぅおー! アイス発見! ダッツ頂きっ!」


 ……霧姉の事は暫く放っておこう。


 「そしてお宝だがちょっとした問題がある。島の北西側、住宅街の奥の神社、そして学校方面とそれぞれが離れた場所で、今回は近場には全然設置されてねぇ。しかも数個のお宝を一か所に固めて設置してあるみたいだ」


 お宝の絶対数が少なかった前回のオープン戦でも、漁業センター付近や今居る民家の近所にお宝が設置されていたのに。


 「……もしかしたら雄磨君対策かもしれませんね。オープン戦でお宝を全部回収しちゃいましたから」

 「偶然じゃなさそうって事だな」


 腐敗しまくった運営の事だ。

 そのくらいの事はやって来るだろうな。


 「ホラ雄ちゃん、給水終わったぞ。私達のミストアーマーのタンクに水を入れてくれ」

 「ああ、サンキューゥゥォオモーーー」


 バシャ―ン!


 タンクの水を床にぶちまけてしまった。


 「何をやってるのだ! しっかり持てよ!」

 「こんなモン持てるか馬鹿!」


 タンクのベルト部分を片手で持って渡してきたから、そのまま俺も片手で受け取ったら――満タンに給水されてた。


 てっきり水を少な目に入れて来てくれたのかと思ったじゃねぇか!

 腕が外れるかと思ったぞ、この馬鹿力め!

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