第45話 石山北高校
「キャー! キャー!」
……右手はガッチリとロックされたまま、全然開放してくれない。
「ちょ、部長! 嬉しいのは分かるけど、
「どーしよう! 私どーしよう!」
「どーしようじゃないよ。まずは手を離しなってば」
同じく石山北高校の女子部員の手によって、漸く志賀峰さんが引き離された。
「ホント、スイマセン。ウチの部長が迷惑掛けて」
「いえ……大丈夫ですよ」
礼儀正しく挨拶してくれたのは、小柄で真面目そうな人だ。
まさにスポーツ系女子といった感じの人で、肌は日に焼けていて髪も短かく整えられている。
ミストアーマーで体のラインが出ていなければ、男子にも間違えられそうな容姿だ。
「
「いや、キチャナイから! ……ご、ごめんなさい!
何だかドタバタ劇が始まったぞ。
このスポーツ女子は悦ちゃんというらしい。
「そ、そうだ
志賀峰さんは恐る恐るといった様子で、俺の
俺の
「
「部長! いい加減にしなって!」
「だってー、私達売り切れで買えなかったでしょ? だから――」
だって―と言いつつ、俺の事を上目遣いでチラチラと見る志賀峰さん。
……駄目だ俺、この目に弱い。
「いやー、売り切れだったら仕方がないよなー。ゴメンね、生産が間に合ってなくて迷惑を掛けてしまったみたいで」
ジャラジャラとぶら下がっている缶バッジを一つ外し、志賀峰さんに手渡した。
「キャー! ありがとうございます! 凄く……すっごく嬉しいです! しかも
志賀峰さんはお祈りでもするように、両手で缶バッジを握り締めているのだが……俺モデルって何だ?
どいつもこいつも気持ち悪いゾンビだが、そんな物があるなんて本人は何も聞いていないぞ?
「……ところで、
「あ、ああ。コレね。コレは――」
と話し始めたところで背後から殺気を感じた。
「雄ちゃーん、何をやっているのですかぁー?」
営業スマイル全開の霧姉と、その背後には着替え終えた三名。
……営業時の話し方だが、声のトーンが普段通りだぞ。怖過ぎる!
霧姉と瑠城さんと泉さんは富士工業社製のミストアーマーを着用している。
霧姉はブルー、瑠城さんはパープル、泉さんのは志賀峰さんと同じオレンジ色のストライプが入っているのだが、みんなそれぞれデザインが少しずつ違うみたいだ。
そして篠は俺とお揃いの
不細工さに磨きが掛かっている気がするのだが、これは篠から出ている殺気が俺にそう見えさせているのだろう。
気合入っているなー。試合が始まるのはまだ随分先だぞ?
「コ、コレだよコレ! キーホルダーの事を聞かれていたんだよ! 霧姉から説明してあげなよ!」
「なーんだ、そういう事でしたかー! でしたらコチラの商品は、水亀商店に古くから伝わる商品でして――」
なぁーにが古くから伝わる、だ。
また出鱈目なセールスポイントを付け加えやがって。
まぁ新商品なんて言えば、効果があると謳っても信憑性がないからな。
「「キャー! カワイィー!」」
志賀峰さんと悦ちゃんが声を揃えている。
……やっぱりアレが可愛く見えるのか。どうなってんだ? 俺の感覚がおかしいのか?
霧姉達がそんなやり取りをしていると、一人の男子選手が俺のもとに歩み寄って来た。
「
「ど、どうも。水亀です」
威圧感タップリだがその声は小さい。
俺が見上げないといけない程、ガタイの良い馳君。
俺と同じ形のタンクを背負っているのだが、タンクが凄く小さく見える。
二の腕の筋肉が着ているTシャツの袖口を破いてしまいそうだぞ!
本当に一年生かよ?
その超体育会系の馳君は、何故か俺に向かって敵意を露わにしている。
怖い。凄く怖い。そして距離が近い! ちょっと離れてくれるかな……。 いや、顔を近付けて来るなって!
「自分、
「は、はい。頑張ってください……」
声にドスが効いているので更に怖い。
目とか赤く光りそうだ。
何故俺がこんなに敵意を剥き出しにされなきゃなんねぇんだよ!
「アレ? 馳君も
「ぶ、ぶぶぶぶちょー! そ、そそうなんッスよ! 一緒に頑張りましょうって伝えていたッス!」
志賀峰さんから声が掛かると、馳君の様子が急変した。
ピンと伸びていた背中は急に丸まり、デレデレと鼻の下を伸ばし始めた。
ゴリラみたいに厳つい顔をショッキングピンクに近い色に染め上げている。
……何だコイツは?
「……と、とにかく、この試合には絶対に負けないッスから」
最後にもう一度俺に睨みを利かせてから石山北高校の部員達のもとへと戻って行ったのだが、そのだらしない顔で凄まれても全然迫力ねぇぞ?
控え室の隅では篠が他の選手達に囲まれていた。
何たってSランカーの『二刀乱舞』だもんな。
瑠城さんと泉さんが盾となって篠から選手達を遠ざけているのだが、俺も助けに行った方が良さそうだな。
「はーい、ちょっくら御免なさいよー。チーム内で打ち合わせするから。すいませーん」
間に割って入って野次馬達を解散させた。
篠はこういうのキッパリと断れないだろうし、助けてやらなきゃ駄目だな。
「試合中は篠の事、二刀乱舞って呼んだ方が良いのか?」
「……うん」
言葉が刺々しくて何やら機嫌が悪い。
プイっと顔を逸らされてしまった。
新品のお面を装着している篠を褒めなかったから怒っているのか?
女子はこういうちょっとした事に気が効かない男は嫌いだって聞いた事があるぞ。
「新しいどブサにゃん極のお面、凄くカワイイよな。篠もデザインに協力したのだろ?」
「……うん」
「そういうのも得意なんだな。凄いなー。俺はデザインとか全く駄目でよ――」
返事は同じだったが、少しだけ言葉や仕草から棘がなくなった気がする。
もう一息だな。
「篠も
「……う、うん。 !! カ、カカカップル……」
「ゾンビハントになると、そうやってツインテールに結ぶんだな。篠はそっちの方が似合ってるぞ」
「……そ、そうかな」
「今日は力を合わせて頑張ろうな!」
「うん!」
どうやら篠の機嫌も直ったみたいだ。
「アラアラ、雄磨君ってそういう人だったのですねー」
「だね。上手なのはお宝探しだけじゃないみたいだねー」
背後では瑠城さんと泉さんが何やらブツブツ言っているが気にしないでおこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます