第41話 南彦根高校帰還


 「……おい、この後はどうなるんだよ?」

 「まず帰りの船に乗り込めなかった大津京高校は失格。決勝に駒を進めた南彦根高校をスタジアムで讃えるのが先だ。その後は以前雄ちゃんに教えた通り。島内にゾンビ達が放たれて大津京高校は全滅するだろう」

 「ここまで戦い切った彼等でも無理なのか? 南彦根高校の部長もウォーターウェポンを沢山渡してくれたし、作戦次第では――」

 「無理だな。これから行われるのは試合ではない。ただの殺戮ショーだ。放たれるゾンビのランクが桁違いに上がるのだ。SSダブルSSSトリプルランクのゾンビ達をバンバン送り込んで来るのだぞ?」

 「じゃ、じゃあ漁港に残っている漁船に乗り込んで脱出すれば――」

 「おいおい正気か? 船に乗り込まずに島に残った彼女達が、そんな不名誉な事をすると思うのか?」


 ぐっ、確かに。

 命懸けで残る決意をした紗織さん達が、そんな事するとは到底考えられない。


 「彼女達は敗れはしたものの精一杯頑張った。自らの意思で島に残ったのだ。勇気を褒めてやるべきだ」

 「……そうだな」


 ロックに遭遇した時もポイントを稼ぎに行かずにそのまま全力で逃走すれば、もしかしたら全員無事に島を脱出出来たかもしれないのに、それをしなかったのだから自業自得と言われても仕方がない。

 仕方がないのだが……なんとかしてやりてぇよ、ホント。


 「とにかく、勝ち上がった南彦根高校を全力で讃えてやろうじゃないか!」


 霧姉は馬鹿デカいライフル銃のレバーをガチャガチャとスライドさせて、ポンプ圧を上げている。

 アレ? なんで霧姉がウォーターウェポンを持っているんだ?

 俺と篠と一緒で何も持って来なかったはずでは?


 「その銃どうしたんだよ」

 「ああコレな。いやー南彦根高校も頑張っていたからな。やっぱり私も栄誉を讃えてやりたくなってな! さっき雄ちゃんがゾンビハントに夢中になっている間に、売店にアクセスして注文したのだ」

 「自分の分だけか?」

 「そうだけど? 雄ちゃんも自分で注文すればいいじゃないか。金の心配なら要らないぞ? 観戦前に売り捌いたグッズの代金がタンマリあるからな」


 クソ! そういう事はもっと早くに言えよ! 俺もウォーターウェポンぶっ放してやりてぇよ!

 ……ええっと、売店売店っと。


 『売り切れ』

 『売り切れ』

 『売り切れ』


 ……。


 「をい! 全部売り切れじゃねぇか!」

 「そんな事を私に怒鳴られてもなぁ。残念でしたー」


 ぐぬぬ、みんな考える事は同じという事か。



 篠はというと、先程から椅子の上で三角座りの体勢で蹲っている。

 なにやらグズグズと言っているのだが――


 「……篠、大丈夫か? ホラ、ハンカチだ」 

 「ふぁいありがと。……グズッ。紗織さんとユッコさんがカッコ良くて、可哀相で……。男の人って、男の人ってなんでこんなに鈍感なんですか」


 そこで何故俺を睨むんだよ。

 俺はあの部長程鈍感じゃねぇよ。


 『全国高校ゾンビハンター選手権滋賀県大会、予選第一組を勝ち上がった南彦根高校が戻って来たぞー! みんな、準備はいいかー?』

 「「「「ぅおーーー!」」」」


 南彦根高校の部員達を乗せた船がスタジアム内へと進入して来ると、進行役のマイクパフォーマンスと共に会場が熱気の渦に包まれる。


 「彩ちゃんは誰を狙うの? アタシは狙撃手にぶっ放してやるわ。あの子、良い腕してたからね! アタシが調整したへカートⅡの威力、見せてやる!」

 「私はやっぱり部長ですね。最後の男気溢れる行動にグッと来ましたから! ウフフ、私のバレットM82も泉さんに調整してもらっていますから、どんな威力が出るのか楽しみです! 霧奈さんは誰を狙うのですか?」

 「私はタンク職の奴だ。雄ちゃんと同じ一年なのに、軽々とタンクを運びつつセイバーでも応戦していたからな!」


 三人は立ち上がると前の座席のヘッドレスト部分に片足を乗せて身を乗り出し、馬鹿デカい銃で狙いを定めている。

 おいおい、揃いも揃ってスカートだって事忘れてんじゃねぇよ! 丸見えじゃねぇか!

 ……まぁ誰もコッチなんか見ちゃいねぇか。


 『さぁみんな! 予選を生き抜いた英雄達のご帰還だぁー! 盛大に祝ってぇーーやれー!』


 船上で手を振る部員達に向けて、一斉射撃が始まった。


 「「「せーのっ!」」」


 ズガーン!


 霧姉達も掛け声と共に一斉に射撃を行ったのだが、泉さんと瑠城さんの銃は射撃音が全然違った。

 銃口から火を噴きそうな音だったぞ……。

 胸を狙撃されたスナイパーの女子と、古風な顔立ちの部長がたたらを踏んで後退し、そのまま船から落水してしまった。


 「「イェーイ!!」」 

 「イェーイじゃねぇよ! アンタらやり過ぎだ! 勝者をぶっ飛ばしてどーすんだよ!」


 一体どんな改造したんだよ! ったく。


 因みに霧姉の射撃はタンク職の男子には当たらず、観客席の最前列で騒いでいた八幡西高校の田井中龍一の後頭部を直撃していた。

 奴は後頭部を押さえて後ろを振り返り、辺りをキョロキョロと見渡していたのだが――霧姉、ナイスヘッドショットだ。


 「南彦根高校のみんなー! カッコ良かったよー!」

 「決勝戦で会いましょうねー!」


 泉さんと瑠城さんの声が届いたのか、南彦根高校の部員達がコチラに向かって笑顔で手を振り返してくれた。


 ……俺もウォーターウェポンぶっ放したかったなぁ。

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