第37話 ゾンビハント観戦


 「奴が――八幡西高校が出場する試合には、必ず漁業センターの近くにショットガンタイプやスナイパーライフルタイプのウォーターウェポンがセットされて、尚且つ真っ先に発見出来るというのはおかしいと思わないか?」

 「いや、それは流石に不自然だろ」

 「更に八幡西高校が出場する試合に登場するゾンビ達が、他の試合に登場するゾンビ達よりも低ランクに設定されていたり」

 「……何かありそうだな」

 「あそこで調子に乗って粋がっている奴、田井中龍一はゾンビハンター社専務の一人息子だ。これらを踏まえて私が何を言いたいのか分かるか?」

 「ああ。もう十分だ」


 それで以前八幡西高校の話題になった時に、言葉を濁していたり、瑠城さんと泉さんが表情を曇らせたりしていたんだな。


 ゾンビハンター社という所は、想像以上に下衆な組織のようだ。




 『みなさまお待たせしました! 全国高校ゾンビハンター選手権、滋賀県大会予選第一組に出場する選手達の入場です!』

 「「「「ぅおーーー!」」」」


 ステージ上に立つ進行役がアナウンスを告げると、場内が歓声に包まれた。


 「この予選第一組で強いのは何処の学校だ?」

 「そうだな、今登場している南彦根みなみひこね高校、そして最後に登場する大津京おおつきょう高校は、前回大会で決勝に駒を進めているぞ」

 「へー。強豪同士がいきなりぶつかり合うのか」


 各校の選手達が紹介されると、スタジアムに駆け付けた応援団から声援が湧き起る。

 まさに部活動って感じだな。


 ステージ上に現れた選手達は少し変わったスーツ、ミストアーマーを着用している。

 ウェットスーツみたいに薄手のタイプは七分袖七分丈で、手首や足首の部分はガードされないみたいだ。

 黒の生地にカラフルなラインが入っていて、背負っているタンクは少し小さい。

 逆にコントで使用する筋肉の肉襦袢にくじゅばんみたいに、ボテっとしたタイプのスーツは、手首足首までしっかりと覆われているみたいだが背中のタンクがかなり大きい。

 なるほど、確かにちょっと不格好だ。


 選手達が乗り込んだ船を、拍手で見送っていると――


 「あの、水亀君。コレ、どうやって操作するの?」

 「……さぁ。俺も分かんねぇ」


 映画館の椅子のようにゆったりとした座席。

 その肘置き部分に備わっている見慣れないボタンを、篠が勝手にポチポチと押し始めた。

 ……使い方も分からないのに、そんなにポンポン押して大丈夫なのか?


 「何だ、使い方が分からないのか? その『メニュー』ボタンを押せば、売店に直接アクセスが出来るのだ。ドリンクや食べ物が欲しければ注文すれば持って来てくれるぞ」

 「へー。便利だな。コッチのボタンは?」

 「そっちは観戦用だ。トップボタンから『選手一覧』を押せば、出場選手の一覧が出て来るだろ? 試しに誰か一人選んでみろ」


 言われるがままボタンを押してみると、選手一覧の映像がズラリと目の前に浮かび上がった。

 この辺はまぁよくあるシステムだな。特に驚く事もない。

 三十人の中から一人を選び、目の前に浮かび上がった映像をタップする。

 ……一番俺好みの可愛い子、桐生きりゅう選手を選んだのは内緒だ。


 桐生選手のパネルがグイッと拡大すると、船上でチームメイト達と打ち合わせ中だった桐生選手の映像に切り替わった。


 『いい? まずは作戦通りフォーメーションAで神社を目指すわよ。データ通りなら今日のお宝は奥津島おくつしま神社方面に偏っている筈だから、虱潰しに探すわよ!』

 『『おう!』』

 『周囲の警戒は吉野君とかえでに任せるわ』

 『『はい!』』


 おおー、声もちゃんと拾ってくれるのか。


 「雄ちゃんの事だ。どうせ自分好みな膳所堂ぜぜどう高校の桐生優華きりゅうゆうかちゃんを選んだのだろ? 今はまだ船上だから視点は一つしかないが、沖ノノ島に到着すればもっと色々な視点が楽しめるぞ」


 ……な、何故俺が彼女を選んだ事がバレているのだ。

 霧姉は俺の好みの女子を把握しているのか?


 「あーごめんなさーい」 


 篠は俺の膝にドリンクを溢してしまったようだが、何故か謝罪は棒読みだった。

 溢し方も、溢したというよりもジャーっと流した感じだった気がする……。

 霧姉に加えて篠まで俺に嫌がらせしてくるようになったのか?


 船が沖ノノ島に到着すると視点が一気に増えた。

 色々な角度から桐生さんが捉えられていて、遠方視点や彼女の後方視点まで様々。

 そんな前方の映像の端に、『スキャン』というアイコンがある。


 「このスキャンってのは何だ?」

 「押してみれば分かるよ」


 ――と答えた霧姉の目の前には、何やら掌サイズの黒い箱が宙に浮かんでいる。

 この機械は確か網膜データをスキャンして、眼球の中に直接映像を送り込んでくれる装置だったはず。

 既に霧姉は自分の選んだ映像に夢中みたいで、確認するように首を左右に振っている。

 するとその動きに連動して、装置も常に霧姉の目の前から離れず、ピッタリとくっついて移動している。

 俺からは霧姉がどの映像を観戦しているのかは分からないようになっているし、音声も聞こえて来ない。

 如何やら今腰掛けている椅子に、様々なテクノロジーが内蔵されているみたいだが、まぁその辺は別にどうでもいいか。


 俺も早速試してみようとスキャンのアイコンをタップしてみると、座席のヘッドレスト上部から、装置が飛び出して来て、俺の目の前でピタリと停止した。


 『スキャン完了』


 完了の文字が浮かび上がると同時に、俺の視界がゴロリと変化した。

 前方にはセイバーを身構えている桐生さんが歩いていて、俺の両サイドと背後にはメンバー達。

 おぉ、俺自身が沖ノノ島を歩いているみたいだ。

 振り返れば背後が、上を見上げれば上空が、それに下を向けば足もとだって見えるぞ!

 俺の視点は膳所堂高校のメンバーの視点ではなく、全く別のメンバー六人目の視点として設定されていて、俺自身があたかも膳所堂高校の一員となってゾンビハントに参加しているみたいだ。


 視界の隅には他のチームの映像が幾つか映し出されていて、いつでも視点の変更は可能みたいだ。

 その他にも映像のみ、音声のみといった細かな設定も、アイコンへ視線を動かすだけで調整可能だ。


 『いい? 気を引き締めて行くよ!』

 『『『『おう!』』』』


 メンバー達の声は立体音響で俺の耳に届く。

 勘違いして俺も『おう!』って返事しそうになったじゃねぇか。


 スッゲー! こりゃーハマるわ。

 ゾンビが出て来なけりゃ、俺でも毎日遊びに来たいぞ!

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