第36話 堀切スタジアム再び
俺はウェイトリフティング部で筋トレ三昧。
瑠城さんは鬼コーチと化し、秒刻みでトレーニングを課して来るのだが――
「――ナチュラルゾンビとは違い、変異種や突然変異種には知能が備わりますので、食欲を満たす以外の行動を取るようになります。連携攻撃を加えて来たり、罠を仕掛けて来たりするのです」
その間延々とゾンビの知識を植え付けられていた。
頭に全然入って来なかったのは言うまでもない。
泉さんは作業場と化した部室に籠り、一人黙々とウォーターウェポンの魔改造に取り掛かっていた。
部室で二度程ボヤ騒ぎがあったらしいが、学校側から特に御咎めはなかったそうだ。
篠は病院のお爺さんの所へ行ったり、ウェイトリフティング部に顔を出したり、一人剣術の稽古に励んでいたリ、工場で商品の袋詰めや掃除をしたり、霧姉からどブサにゃん極のデザインについて相談を受けていたリ、学校内や近所で迷子になっていたりと忙しそうな日々を送っていた。
そしていよいよ、全国高校ゾンビハンター選手権の滋賀県大会予選が開幕した。
俺達ゾンビハンター部の面々は、予選見学の名目で学校を昼で早退し、再び堀切スタジアムへとやって来た。
前回同様観戦客は多いみたいだが客層が違う。
俺達みたいに選手権を見学に来た高校生が凄く多い。
ブレザー姿の団体や、揃いのユニホームに袖を通している若者達が続々と集結して来た。
俺達は学校で既にユニホームに着替えていて、現在スタジアムの入場待ちをしているのだが――
「おい、あの水亀商店って樫野高校の――」
「ああ、前回のデスアタックを攻略したっていう――」
「じゃああの巨大なバックパックを背負っているのが、Sランカーの『島の支配者アイランドルーラー』で――」
「うそ! 私大ファンなのよ! 御近付きに――」
「アタシ、まだゾンビ缶バッジが買えていなくて――」
俺達、無茶苦茶目立ってます。
「今ならゾンビ缶バッジの在庫ありますよぉー! 三個セット千五百円でお買い得でーす!」
霧姉は普段よりも三オクターブ高い声色で、すかさず商品を売り歩いている。
俺は店の商品を持ち歩く為に、巨大なバックパックを背負わされているのだ。
こんな缶バッジが三個で千五百円。ボッタクリだな。
「三つ……いや、部員達の為に五つお願いします!」
「こっちも! こっちも十セットで!」
「おい、押すんじゃねぇよ!」
「はぁい! ありがとうございまぁす! 並んで、並んで下さぁい」
これがまた飛ぶように売れているから恐ろしい。
ちゃんと『個人の感想です』って注意書き出しておけよ?
まぁ袋にはきっちりと説明文が記載されているから、問題はないと思うのだが……。
「水亀商店Tシャツユニホームは一着五千円で、今ならもれなく『
「「「「キャー!」」」」
はい。何度も何度も家で練習させられましたよ。
サインの練習、笑顔の練習、握手の練習……。
そして筋トレの日々。
戦術なんかの練習は一切やって来なかったっていうのによ!
どうなってんだよ、ウチのゾンビハンター部は!
「水亀君お疲れ様。ハイ、ジュース」
「ああサンキュー篠」
漸くスタジアム内の席に腰を降ろせたのだが、試合が始まる前にもう疲れてしまった。
篠が二刀乱舞だという事は公表していないので、人が群がって来る事はなかった。
人見知りが激しい篠の場合、ファンに囲まれでもしたら倒れてしまうんじゃねぇか?
しかし篠も次の予選以降は、霧姉の営業に駆り出されるんだろうな……。
俺達の席はスタジアム全体を見渡せる最上段。
学割が効いて格安なのだそうだ。
まぁ選手に興味がない俺の場合、帰還した参加者に水をぶっ掛けるつもりもねぇから前列だろうが最上段だろうが関係ねぇ。
隣に座る霧姉と篠もウェポンは準備していないが、瑠城さんと泉さんは持参した馬鹿デカいライフル銃を足もとに置いている。
こんな銃の攻撃くらったら死んじゃうんじゃねぇのか?
周囲の客達も持参したウェポンや、スタジアム内で購入したウェポンを各々準備していて、試合が始まるのを今か今かと待ちわびている。
そんな中、観客席に気になる奴が居る。
最前列の特等席で踏ん反り返り、両脇に女子を侍らせて騒いでいる馬鹿が居るのだ。
背後からなので金髪でガラが悪そうな男だとしか分からねぇが、一体アイツは何者だ?
「霧姉、アイツの事知ってるか?」
「ああ。恐らく知らないのは雄ちゃんだけだぞ。奴は八幡西高校のゾンビハンター部員だ」
八幡西高校ってのは確か、全国高校ゾンビハンター選手権で連覇を達成している高校だったよな。
「三年の
「へぇー。凄い奴なんだな」
「奴以外のメンバー達は全員女性で、皆スナイパーライフルでの狙撃を得意としている。そのスナイパー達がゾンビの足止めをして、奴が至近距離で止めを刺すという戦術でポイントを重ねて行くのだ」
「止めを刺すのがアイツだった場合は高得点になる、って事か。戦術としては間違っちゃいねぇが、ちょっとセコイな」
「確かにセコイけど、確実に高ポイントを重ねて行くし、戦術として通用しているのだから仕方がない。雄ちゃんから見て、この戦術どう思う?」
「どうって俺に聞かれてもなぁ……」
そもそもそれだけのウォーターウェポンを探し出すのが大変そうだが、それをちゃんと発見しているのだから凄いとは思う。
もしかして俺と同じで、ウォーターウェポンやお宝を探し出す能力の持ち主なのかもしれねぇな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます