第33話 ぶさニャンEXシリーズ
今日は篠さんの歓迎会という事で、晩飯はカレーパーティーだ。
オヤジは伝票処理に追われているそうで、暫くは毎晩遅くまで工場の方に残るらしい。
霧姉と篠さんの三人でテーブルを囲んでいるのだが……少し、いや無茶苦茶気まずい。
「篠さんはカレーライスが好きなのか?」
「……うん」
カレーパーティーだというのに、お皿とスプーンがカチャカチャと擦れる音だけがリビングに鳴り響く。
「き、霧姉が作ったカレーは美味いだろ? おかわりもいっぱいあるから遠慮するなよ?」
「……ありがとう」
か、会話が全っ然続かねぇ。
篠さんは会話が苦手だというのは分かっていたつもりだったが、ここまで接しにくい子だったとは。
この前オープン戦が終わった後にはもうちょっとだけ仲良くなっていて、お互いの距離も近くなったと感じていたのだが、俺の気のせいだったのか?
話題、話題、ええっと――
「と、ところでさっきのお面、以前のヤツとちょっとだけデザインが違ったみたいだが、色んな種類があるのか?」
「うん。この前のはサバトラの虎二、さっきのはキジトラの寅吉です。その他にもハチワレの熊八、マダラのブッチ、毛長のセニョールが居て、全部で五種類です。勿論ぶさニャンEXシリーズは全てコンプリートしていますし、お面のストックも何枚か確保してありますよ」
「お、おおぅ、そ、そうか」
怒涛の勢いで捲し立てられてしまった。
クソ不細工なネコのお面の話題だけ、凄く喰いつくんだな。
「何だ、雄ちゃんはぶさニャンEXを知らないのか? 今女子中高生の間で大人気なんだぞ?」
「そうなのか? あんな不細工なネコが人気なのか?」
「不細工じゃないです! 凄くカワイイじゃないですか!」
「い、いや、もう何処向いているのかも不明だし、さっきのヤツなんか顔面にパンチくらったみたいな顔してたじゃん」
「カワイイじゃないですか!」
「この前のヤツも、車酔いでゲロ吐く寸前みたいな顔で――」
「カ・ワ・イ・イ・じゃないですか!」
「ハイ。そ、そうだよな! ハハハ、いやー、実は俺もそう思っていたんだよ! よく見ると愛嬌が――」
篠さんはスプーンを逆手で握っていて、今にも襲い掛かって来そうだった。
逆らったらぶっ刺されそうだ。大人しそうに見えて実は恐ろしい子じゃないか!
そりゃーゾンビ達相手にセイバーのみで無双するくらいだもんな……。
今後篠はあまり怒らせないようにしよう。うん。
「ところで篠は普段から剣術か何かの訓練をしているのか?」
「うん。小さい頃から
「そうか。道場を畳んだ後も篠にだけは稽古をつけてくれていたんだな。俺と同じように篠は剣術の英才教育を受けて来たのか。その剣術を教えてくれていたお爺さんが入院したのか?」
「……うん。滋賀県の病院なら、地元では受けられないような先進医療が受けられるから」
確か先進医療費っていうのは、保険が適用されなかったはずだ。
俺もあまり詳しくはないが、かなり高額な自己負担金が必要だったはず。
篠がオープン戦に出場していた理由はコレか。
苦労しているんだな。
俺と同い年なのに、凄く立派な子じゃないか。
「まだまだお金が掛かりそうだから、霧奈お姉さんに樫野高校ゾンビハンター部に誘って貰った時は、本当に助かりました。……ありがとうございます」
篠は椅子を引いて立ち上がり、深々と頭を下げた。
「いやー鏡ちゃん、そんなのいいよいいよ。さぁ座って座って。カレー食べな」
「はい。ありがとうございます、お姉さん!」
「ウチも部員が四人しか居なくてさ、丁度困っていたところだったのだ」
「なぁ霧姉、
「何時ってオープン戦があったその日だぞ? アレックス改バベルタイプ.verIIIを倒した後、お宝を回収する時に雄ちゃん達とは別れただろ? あの時だ」
そういやあの時は、俺と瑠城さん、泉さんと霧姉と篠で別々にお宝を回収していたな。
随分と早い段階で誘っていたみたいだ。
恐らくだが篠がオープン戦に参加している理由を、その時に聞いていたのだろう。
お爺さんの治療に必要な費用をすぐに用意させる為に、遠慮する篠を強引に黙らせて報酬を五等分したのだな。
実力のある篠を何としてでも樫高に転入させる為なのかどうかはこの際考えないでおくとして、霧姉が報酬を強引に五等分した行為には俺も賛成だな。
だが、当然のように俺には何も言ってくれねぇのは、全然納得いかねぇぞ!
こんな大事なコト、ちゃんと教えてくれよ!
「鏡ちゃんは雄ちゃんの
「はい。明日から是非お願いします。霧奈お姉さん」
「は? 本気で言っているのか? 絶対に止めておいた方がいいぞ?」
「大丈夫です。頑張ります」
何だか瞳に闘志を燃やしているみたいで、カレーライスをガツガツと食べ始めた。
……俺は一応止めたからな。
「最近雄ちゃんが特訓に慣れちゃって、やり甲斐がなくなって来たからなー。丁度良かったよ」
「ちゃんと手加減してやれよ?」
「大丈夫です。最初から全力でお願いします」
初日から全力でやったら、間違いなく病院送りだぞ。
そんなこんなで篠の歓迎会はお開きとなった。
最初は緊張していた篠も、途中からすっかりと打ち解けてくれたみたいで、普通に話してくれるようになった。
俺と同い年の女子が、これからひとつ屋根の下で一緒に過ごして行くっていうのは、何だか心がフワフワするというか変な感じだが、部活も同じだし合宿みたいなもんだと思えば毎日退屈しないで済みそうだ。
篠……俺も途中から篠と気軽に呼んでしまっていたが、その篠が霧姉の事を『お姉さん』と呼んでいたのがむず痒かったのだが、そんな風に呼ばれていた霧姉も何だか嬉しそうにしていた。
明日からも忙しくなりそうだ。
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