第31話 選手権のルール そのニ
「具体的な方法としましては、この後に説明するミストアーマーを着用していない場合、ゾンビを倒した時の獲得ポイントが二倍になります」
瑠城さんはホワイトボードに書かれている『ミストアーマー』の部分を赤ペンで囲った。
「更に至近距離、正確にはゾンビとの距離が二メートル以内で倒した場合にも、ボーナスポイントとして獲得ポイントが二倍になります。そしてウォーターセイバーで倒した場合には、自動的にこの二メートルルールが適用されるのです。つまり元々十ポイントのゾンビを、ミストアーマー未着用且つ至近距離、もしくはセイバーで倒した場合には、四十ポイント獲得出来るというわけです」
「リスクを背負え、という事か。でもミストアーマーは分かるが、二メートル以内だったかそうじゃなかったとか、微妙な距離だった場合だと、どうやったら判別出来るんだ?」
「そこはジャッジが判断しますので、私達は気にしなくて大丈夫ですよ。島内には至る所にカメラが設置されているのは雄磨君も既にご存知の通りですが、その映像を監視しているジャッジがポイントを計算して、チームのリーダーのみが所有出来る端末に詳細を送ってくれるのです」
「へー。ゾンビを倒した時に、今のゾンビは何ポイントでしたよ! みたいな事を端末に送ってくれるんだな?」
「その通りです。この端末では他にも合計獲得ポイントや、他のチームのポイント獲得状況等を調べる事も出来ますよ。選手権ではこの獲得ポイントの状況を見ながら、二時間という限られた時間を如何に過ごすかで勝敗が変わって来るのです」
他校にポイントで負けている場合は、少々無理をしてでもゾンビを倒しに行ったり、お宝を回収しに行ったりしなきゃならねぇって事か。
「そして重要なのが、ゾンビを倒して獲得したポイント――まぁあり得ないは思いますが、仮に雄磨君がゾンビを倒して十ポイントを獲得していたとします」
「わざわざ強調しないでくれよ」
「その後競技が終了する前に雄磨君がゾンビに噛まれてしまいますと、その十ポイントは無効となってしまいます」
「……って事は、合計獲得ポイントで優位に立っていても、競技終了前にポイントゲッターが噛まれちまったら、そのポイントは全部没収されて負けちまう可能性もあるって事か?」
「その通りです。因みにお宝に付属していたポイントは没収されませんので、雄磨君は噛まれちゃっても平気ですよ」
「をいっ! どういう意味だよ」
「ウフフ、冗談ですよ冗談。今お伝えしたルールはとても大切な事なので、キチンと覚えておいて下さいね?」
「ああ。分かった」
そもそも噛まれちまったら、ポイントがどうとか言ってる場合じゃねぇと思うのだが……。
噛まれた人物が集めたポイントは無効になるのだな。一応覚えておくか。
「では引き続きこのミストアーマーについて説明しますね」
今度はホワイトボードに書かれた『富士工業社』と『YAMATO社』の部分を赤ペンで囲った。
「唯一選手権でのみ着用が許可されているこのミストアーマーというのは、ウォーターセイバーと同じ原理で霧状の水を体に纏えるスーツなのです」
「おー、凄いじゃん!」
「滋賀県からミストアーマーの製造を許可されているのは、富士工業社とYAMATO社の二社のみです。富士工業社の製造するミストアーマーは、革新的なデザインと消費する水の少なさで軽量を売りにしていますが、その分耐久性にやや難ありといったスーツです。一方YAMATO社のミストアーマーは耐久性に秀でていますが、その分水の消費量も多くて重くなりますし、何よりゴツゴツしていて不格好です」
「ふーん。どっちのミストアーマーも一長一短って事か。因みにどっちのミストアーマーが人気なんだ?」
「そうですね、やはり女性には富士工業社のミストアーマーの方が人気ですが、そもそもミストアーマーはゾンビハントのスタイルで選ぶ物なのですよ。アタッカーと呼ばれるチームの前衛を担当する人はYAMATO社のミストアーマーを、スナイパーやサポート役といった後衛を担当する人は、富士工業社のミストアーマーを着用する傾向があります」
なるほど、より危険を伴う前衛は耐久性を重視するという事か。
「ミストアーマーも勿論水を消費しますので、水が無くなればただの重くて邪魔なスーツです。背負ったタンクに給水しないと機能しません。ここまでのお話は理解出来ましたか?」
「ああ、何となくな。まぁ俺のやる事はオープン戦と一緒で、お宝を発見する事とゾンビの索敵だし、そこまで深く考えなくても――」
「ブッブ―。残念! 選手権では雄磨君にも大切な役割がありまーす」
両腕をクロスさせて、全力で残念と言われてしまった。
俺に役割? 今度は何をやらせようってんだ?
「雄磨君には前回同様ゾンビの索敵と、お宝を探し出したりといったサポート役に加えて、選手権ではタンク職を担ってもらいます」
「タンク職だ? 何だよそれ」
「オープン戦では泉さんが加工したリザーブタンクを持ち歩いていましたよね?」
リザーブタンク? ああ、そうか。そういやキャップの部分を加工したペットボトルを持ち歩いていたな。
役割を与えられていたのに、俺がすっかりと存在を忘れていたあの水か。
「選手権ではリザーブタンクの持ち歩きは禁止されているのですが、代わりに二十五リットルの巨大なタンクが一つ支給されるのです。雄磨君にはこれを背負ってもらいます」
に、二十五リットル? 滅茶苦茶重いんじゃねぇのか?
「各校力自慢の男子がこのタンク職に就く場合が多いのですが、樫高ゾンビハンター部には男子部員が雄磨君しか居りませんので、今日から雄磨君には部活動として筋トレを頑張ってもらいまーす」
「……力自慢の女子なら、俺より適任者が居ると思うが?」
霧姉なら軽々と持ち運びそうだぞ?
「ウフフ、霧奈さんの予想通りですね。雄磨君がそう仰った時の為にと霧奈さんから伝言を二つ預かってます。まず一つ目は『では私がタンク職に就くから、代わりに雄ちゃんがアタッカーをするか?』だそうです」
「……き、筋トレ頑張ります」
クソ、霧姉の奴、俺の性格を読んでやがるな。
前線でゾンビと戦うなんて、俺には無理に決まってるじゃねぇか。
「そして二つ目は『彩芽の言葉は私の言葉と思え。反論した場合は……分かっているな?』だそうです。ウフフ、楽しくなって来ましたね」
全然楽しくねぇよ、チクショー。
しかし瑠城さん、霧姉のモノマネ上手いな。
言葉の溜め方とか、力の入れ具合とかそっくりだ。
長年一緒に居るだけの事はあるな。
「では早速ウェイトリフティング部に向かいましょう!」
「あ、ああ。行きたくねぇが仕方がねぇ。でもその前に一つだけいいか?」
俺と瑠城さんが話し合っている間、一人黙々と作業に没頭していた泉さん。
その泉さんの邪魔にならないようにと、俺と瑠城さんは少しずつ少しずつ部室の隅へと追いやられていた。
「なぁ泉さん、そんな巨大な兵器、一体誰が扱えるんだ?」
「だよねぇ。威力を上げていたら、チョットだけサイズが大きくなっちゃってさー」
「……チョットではないと思うぞ?」
すっかりと狭くなってしまった部室を占拠している、泉さんの作成した巨大兵器。
銃口なのかどうかよく分からない部分は窓の外上空に向けられていて、銀河をも簡単に貫いてしまいそうな威力がありそうだ。
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