第30話 選手権のルール その一


 「水亀君おはよう! 新聞見たよ! 凄いじゃない!」

 「よぉー雄磨! スゲーじゃねぇか、見直したぞ!」

 「ミズキ、オハヨウ! カエリまっくイコウ! オゴッテ!」


 学校へと近付くにつれて、俺と霧姉の周囲にはどんどん生徒達が集まって来た。

 みんな昨日の俺達の活躍を知っているみたいだ。


 「クソ、商品の在庫があれば、少々値段を吹っ掛けても飛ぶように売れたはずなのに」

 

 霧姉はもみくちゃにされながら、歯痒そうに嘆いている。

 同じ樫高生徒達からボッタくろうとするな! 


 「ねぇ水亀君、今日の放課後一緒にカラオケ行こうよー!」

 「あ、いや、放課後は練習があるから――」


 すぐ傍で霧姉がドス黒い妖気のようなものを漂わせながら目を光らせている。

 誘いを受けようものなら、人前であろうが飛び掛かって来そうだ。


 「雄磨くぅん、今度の休みウチとデートしようなー!」

 「ゴメン、休みの日は家の手伝いで――」

 「エェー、そんな事言わんとさー!」


 分かってる、分かってるからコッチを睨むな!

 背後から凄まじい殺気を感じる。アレックス以上だ。


 関西弁で話し掛けて来た『イっちゃん』は、男子達の間で非常に人気のある女子だ。

 そんな子から、嘘か冗談か知らねぇがデートのお誘いを受けたって言うのに……クソ。

 恋愛禁止なんていう、何処ぞのアイドルグループみたいなルールがなければ……クソー!

 人生最初で最後のモテ期かもしれないというのに……チクショー!


 教室に入ってからも、断りの対応に非常に苦労させられた。

 特に困るのがアドレスを教えてくれと言われる時だ。

 忙しいからあまり返信は出来ないと伝えたにも拘らず、私も俺もと集まって来たから大変だった。


 「水亀君、ここに五つの封筒がありまーす。一つにだけ当たりが入っていて、見事当たりを引けば帆夏(ほのか)からキスのプレゼントだよ! 何ならそれ以上もあげちゃうぞー!」

 「「「ひゅー! モテる男はツライねー!」」」

 「ハ、ハハハ……」


 勘弁してくれ。

 Sランカーの称号は、こんなにも凄い物なのか。

 恐るべし、ゾンビハンター。






 「「アハハー!」」

 「笑い事じゃねぇよ、ったく」


 放課後まで何とか凌ぎ切り、今日一日の出来事を瑠城さんと泉さんに話した。


 「いやー笑った笑った。でも霧ちゃんの言う通りだったじゃないの」

 「そうですよ。ずっと雄磨君は同じ教室に居たはずなのに、コロリと態度を変えて来るなんてあからさま過ぎるじゃないですか。そんな子に引っ掛かっては駄目ですよ?」

 「分かってるよ。霧姉に何されるか分かったもんじゃねぇからな。……ところで、この大量の荷物は何だ?」


 昨日までは何も無かったはずの部室内には、所狭しと段ボール箱が積まれている。


 「アタシが注文した荷物が届いたのよ。今後の練習の為にウォーターウェポンを買っておいたの」

 「泉さんが自腹で買ったのか? 部費とかじゃなくて?」

 「そうだよ。そもそも今のゾンビハンター部には、部費なんてないじゃないのよ。昨日の報酬分があるし、そのお金でパーッと買っちゃった」


 そうか。俺の取り分はなかったが、当然ながら泉さん達には五等分された報酬が振り込まれているんだよな。


 「昨日のオープン戦で、私が改造したウォーターウェポンの火力不足が露呈したからね。バベルタイプが出て来ても余裕で殲滅出来るように、既製品の改造方法を見直そうと思ってさー。さて、やるか!」


 泉さんは段ボール箱を開けると、早速ウォーターウェポンの分解に取り掛かった。

 何だかんだで真剣に取り組んでいるし、偉いよな泉さんは。


 「はーい、雄磨君はこっちに注目して下さーい。今からお勉強の時間ですよー」 


 瑠城さんがホワイトボードを上下にくるりんとひっくり返すと、裏側には既に文字がびっしりと書き込まれていた。


 「今日はオープン戦とは違った選手権のルールの説明と、雄磨君の役割を発表します」 


 そういや高校ゾンビハンター選手権は、オープン戦とルールが全く違うって言っていたな。

 瑠城さんはゾンビハントの事を話す時、凄く楽しそうだし嬉しそうだ。

 本当にゾンビが好きなんだな。


 「沖ノノ島で競技が行われるという事、一回の競技が二時間だという点は同じです。全国制覇を成し遂げる為には、滋賀県大会の予選、決勝、全国大会の予選、決勝の四試合に出場して勝利を収めなければなりません。滋賀県大会では毎年三十校前後がこの選手権に参加していますよ」


 三十校前後? 少なくないか?


 「滋賀県大会でも三十校くらいしか参加しないのか?」

 「大体毎年そのくらいですね。練習でオープン戦に参加した時に部員が死んじゃって、樫野高校ゾンビハンター部みたいに人数不足でその年は休部になる学校が多いのですよ」


 そういう事か。

 全国で毎年千人単位で死者が出ている部活だからな。

 ったく、何故こんな部活が普通に許可されているんだよ。誰もおかしいとは思わないのか?


 「一チーム五名で参加するというのは既にお伝えした通りで、予選各組共に一度に六チーム前後で試合を行います。予選を終えた段階で獲得した総合ポイントが一番多いチームのみ、決勝戦に駒を進める事が出来ます」

 「そのポイントっていうのはどうやって獲得するんだ?」

 「ポイントの獲得方法は大きく分けて二つ存在します。一つは発見したお宝にはポイントが付いていますので、このポイントを集める方法です。より高額なお宝程沢山のポイントを獲得出来るのですが、樫高には絶対的エースの雄磨君が居りますので、このポイントはザクザク貯まると思います。ウフフ、期待していますよ?」


 まぁ絶対的エースかどうかは置いといて、俺はお宝を探す事しか出来ねぇからな。


 「そしてもう一つの方法はゾンビを倒す事です。まぁゾンビハントですから当然ですね。ゾンビ達にはそれぞれポイントが振り分けられていて、ランクの高いゾンビ程より多くのポイントを獲得出来ます」

 「うーん、やっぱりゾンビを倒さないと駄目か。変異種とか突然変異種を倒すとポイントを沢山獲得出来るんだな?」

 「はい。簡単に言っちゃえばそうなのですが、ゾンビの倒し方によって獲得出来るポイントが変わって来るのですよ。ここがゾンビハンター選手権の難しいところなのです」

 「倒し方? ウォーターウェポンで始末するだけじゃ駄目なのか? 落とし穴に誘い込んだり、琵琶湖に突き落したりしなきゃいけねぇとか?」

 「ウフフ、雄磨君はなかなか発想力が豊かですね。でも残念ですがそうじゃないのですよ。オープン戦の控え室で私が言った事を覚えていますか?」


 オープン戦の控え室? 色々あり過ぎてそんな前の事なんか覚えてねぇよ。


 「覚えてねぇよ! って顔に書いてありますよ? 雄磨君はもう少しポーカーフェイスというものを覚えましょうね。私が言っていたのは、運営側がどういう意図で選手権を開催しているかという事ですよ」

 「あーそれだ、思い出した。確かスタジアムで観戦している大富豪達を喜ばせたいのだったよな」

 「はい正解です。運営側はこの選手権でも我々参加者が沢山死ぬ事を望んでいます。選手権ではなるべく危険を冒してゾンビを倒すと、獲得出来るポイントが多くなるのですよ」


 ホント、どうしようもなく腐った運営だよな。

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