滋賀県大会 予選

第28話 評価


 オープン戦が終わった直後、良い出来事と悪い出来事が起こった。


 悪い出来事というのは、二刀乱舞さんに会えなかった事だ。

 もう一度キチンとお礼を言っておきたかったのだが、更衣室から出て待合所に向かう所で――


 「水亀君! 一言、一言お願いします!」

 「素晴らしい活躍でしたが、今のお気持ちを――」

 「馬鹿、押すなよ!」

 「コッチ! コッチに目線お願いします!」


 何と数十名の取材陣に囲まれてしまったのだ。

 眩いフラッシュが俺に向かって降り注ぎ、大人達が競い合うようにマイクを持った腕を伸ばして来た。

 有名なスポーツ選手がスポンサーのロゴが入った看板の前で、こういう取材を受けているのはテレビで見た事があった。

 しかしまさか自分の身にこんな事が起こるなんて思いもしなかったし、何の心構えもしていなかった。

 突然の出来事に頭が真っ白になってしまって……何を受け答えしたのかすら全く覚えていない。

 唯一覚えているのはフラッシュで目が痛かった事と、ずっと俺の心臓が壊れてしまいそうな程バクバクと稼働していた事くらいだ。


 気付けば取材は終わっていて、ボケーっと天井を眺めていたら霧姉達が合流して来たのだが、そこに二刀乱舞さんの姿はなかったのだ。

 霧姉が言うには家が遠いからとすぐに発ったらしい。


 「新幹線に乗って帰るそうだ」


 こう聞かされて、もう会えそうもないのだと落ち込んでしまった。

 これが悪い出来事。


 良い出来事というのは、お宝の査定価格が驚きの金額だった事だ。

 俺が長々と取材を受けている間に、スタジアム内の換金所にお宝を持ち込んだそうで、査定価格の一覧用紙を見せられたのだ。


 見た事もない金額がズラリと並んでいた。

 一目見ただけでは何円なのか理解出来ず、数字を一十百千万と一つずつ数えたほどだ。


 因みに風呂敷に包まれていた、少し角ばったお宝の正体は……現金一千万円。

 一度ナマで拝んでみたかったなぁ……一千万。


 霧姉が投げ捨てようとした石は、やはり俺の予想通り隕石だった。

 石ころ一つ三百万円。恐ろしい世界だ。 


 これらのお金は当初の予定だと、俺の取り分だけを二刀乱舞さんと分けるという事だったが、合計金額を五等分する事にしたそうだ。

 指輪を換金せずに受け取っていた二刀乱舞さんは、当然この話を断ったらしいのだが、霧姉が自分で言い出した事を曲げる筈がない。


 「キチンと話したら納得してくれたぞ」


 霧姉はこう言っていたが、後ろで泉さんと瑠城さんが首を振っていたので、強引に黙らせたのだろう。


 そしてこの現金は、換金所に併設された銀行から直接それぞれの口座に振り込まれるそうだ。

 これなら帰りの道中、強盗に襲われる心配もないし、そもそも直接振り込まれるという事を知らないのは俺くらいしか居ないそうで、世間一般では常識なのだそうだ。


 ……分かっていた事ではあるが、俺の取り分はゼロだった。





 「大変申し訳ございません! そちらの商品はすでに在庫切れでして……はい、……はい、ええ、現在対応を――」


 家に帰るとオヤジが電話の対応に追われていた。

 そして――


 「お前達……一体何をしたんだよ!」


 受話器を降ろしたオヤジは、笑いながら怒っていた。

 まさか霧姉の宣伝が、ここまでの効果を発揮するとは思わなかった。


 「ぐははー! どうだ雄ちゃん、コレが私の実力だ!」


 図に乗った霧姉が暴走しなきゃいいが。 


 こうしてゾンビハンター部部員としての、長い長い一日が終わりを告げたのだが、本当に大変だったのは翌日からだったのだ。





 「キャンキャン!」


 相も変わらずお隣さんのチワワは朝からうるさい。

 何とかならないものか。 

 腕を伸ばしてさっさと目覚ましを解除すると、いつもと様子が違う事に気付いた。


 「おはよう、雄ちゃん」

 「……おはよう」


 霧姉が枕元で金属バットを振りかぶっているのは普段通りだが、今日はもう片方の手に何かを握り締めている。

 何だソレ……新聞か?

 新聞紙をクルクルと丸めて、バットと二刀流で身構えている。


 「何してんだ?」

 「いや、別に深い理由はない。ちょっと私も二刀流を味わってみたかっただけだ。だが、この新聞を見てくれ」


 下剤入りのマグカップを出される前に、机に置かれていた新聞紙を手に取ると、パサリと布団の上に開いた。

 俺が今まで一切見向きもしなかった新聞、ゾンビハンター新聞だ。

 そこには昨日のオープン戦の記事が写真入りで出ていた。


 「雄ちゃんココを見てみろ!」


 霧姉が指差した場所には、オープン戦の生存者五名の顔写真が大きく掲載されていて、その下に何か書いてある。


 「私達がランク入りしたのだ! 初出場でランク入りは快挙だぞ! ウェーイ!」


 霧姉は朝からハイテンションだ。

 だから調子に乗って二刀流とかふざけていたのか。


 不細工なお面を装着した顔写真の下の表には『二刀乱舞』と書かれていて、更にその下に『Sランク』と書かれている。

 おおーーー! 二刀乱舞さんランク入りしたのか! しかもSランク。スゲーな!

 ゾンビの殲滅力は抜群だし評価される為には、後はお宝を持って帰るだけって言っていたもんな。


 瑠城さんの顔写真には『ゾンビマスター』『Bランク』と書かれている。

 何てピッタリな二つ名だ。ゾンビじゃないところがまたイイ。瑠城さんもランク入りしたのか。


 泉さんの顔写真には『神の手ゴッドハンド』『Aランク』と書かれている。


 「これさぁ、何故瑠城さんがBランクで泉さんがAランクなんだ?」 

 「そりゃー泉はSランクのアレックスに、あと一歩のところまでダメージを与えていたし、射撃の腕前や武器の改造が大きく評価されたのだろう」


 そう言う事か。

 そういや一匹のアレックスは、全身から蒸気を上げて蹲っていた記憶がある。

 あれは泉さんがダメージを与えていたのだな。

 神の手ゴッドハンドか。泉さんが将来立ち上げるブランドイメージに大きく影響を与えそうだ。


 霧姉の写真には『Bランク』と、……ププッ、『商売上手』!


 「何じゃこりゃ! ぎゃはは! 霧姉にピッタリじゃねぇか!」

 「だろ? 私もそう思うぞ」


 アレ? ちょっと揶揄ってやったのに、霧姉は何だか嬉しそうだぞ?


 「フフフ、雄ちゃんは分かっていないなー。私にこの二つ名が付いたという事は、運営側は私のスタジアムでのアピールを大きく評価したという事。つまり私が今後ステージ上でアピールをしても御咎めなしという事だ。ぐははー! 次回はもっと派手に売り込んでやるぞー!」


 な、成程。結構深くまで考えているんだな。

 ちょっと感心してしまったぞ。


 そして如何やら俺もオマケでランク入りさせられているみたいで……って、おい! う、嘘だろ?


 『島の支配者アイランドルーラー



 『Sランク』

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