第25話 瑠城さんスイッチ
「無茶苦茶カッコ良かったぞ! スゲーじゃねぇか!」
「……あの、あああああの……あの……あばばば」
「凄いんだろうなとは思っていたが、想像していたよりも遥かに凄かったぞ!」
俺の興奮は未だ冷めていない。
こんなにも、こんなにも小さな体であのデカブツを――スゲー!
「おい雄ちゃん、そのくらいにしておかないと、二刀乱舞さんの首がもげてしまうぞ」
「は? 何言ってんだよ! 首がもげたのはアレックスだろ?」
「いやそうじゃなくてさ、興奮しているのは分かるけど、そんなにも激しくカクカクと揺さぶったら、彼女倒れちゃうぞ?」
へ? 彼女が倒れる?
霧姉の言葉で漸く気付いたのだが、俺はいつの間にか二刀乱舞さんの両肩を抱き、激しく揺さぶってしまっていたらしい。
目の前では斜めにズレてしまったお面を装着した少女が、頭をフラフラとさせていた。
「だ、大丈夫か?」
「はゎゎ……あ、あああの、手、手を――」
「ああそうか、ゴメン」
抱いたままだった手を、慌てて両肩から放す。
……掌に伝わって来ていた感触では、彼女の肩は凄く細かった。
こんなにも華奢な体で……ホント凄いと思うよ。
「雄ちゃんあまり時間がない。急いでお宝を回収して漁港に戻ろう。お宝の場所を教えてくれ」
「そうだな。……一つは校舎の傍に設置されている百葉箱の中。そして……一階の、恐らく職員室の勝手口の足もと。コレは段ボール箱に入っているヤツがそうだ。残りはグラウンド隅の草むらにあるぞ」
「よし、みんなで手分けして取りに行こう。急ぐぞ!」
「「「「おー!」」」」
付近のゾンビ達は殲滅していたので、俺は瑠城さんと草むらへ、残りの三人は校舎方面に向かった。
「雄磨君、コレを見て下さい」
瑠城さんから手渡されたのは、折り畳まれた一枚の紙切れ。
開いてみると、そこにはこう書かれていた。
『手順その一 右に一回転以上回して十七』
……何だコレは。
「その紙はアレックス改バベルタイプ.verIIIの亡骸の傍に落ちていました。これが何だか分かりますか?」
「うーん。ちょっと分からねぇな」
「ゾンビ達はそのメモみたいに、お宝やウォーターウェポンが設置されている場所に施錠された、鍵の在り処や開け方などのヒントを所持しているのですが――」
「ちょっと待った、思い出した! この番号、ダイアル式の金庫の番号だ!」
そうだ、確か最初に十七で止めた記憶があるぞ。
そりゃそうだよな。金庫を発見出来ても、鍵が掛かっていたら普通は開けられねぇよな。
あの金庫はダイアルを回す手順が三回だった。
そしてこのグラウンドに居たアレックス達は三匹。
つまりコイツ等は、あの金庫を開ける手順を、それぞれヒントとして持たされていたのだろう。
残りの二匹の亡骸を調べればメモが見つかると思うのだが……気持ち悪いから近付きたくねぇ。
突然動き出したりしそうだし。セイバーが額に刺さった一匹は、何か今でもコッチを見ている気がするし……。
島内には他にも施錠されている場所が沢山あるみたいだし、そういった場所は他のゾンビ達が、鍵の在り処のヒントを所持しているのだろう。
俺が鍵を発見したり、開錠したりするから、霧姉達はいちいちヒントを探す必要がなかったのか。
「ウフフ、雄磨君も少しは自分の凄さが実感出来ましたか?」
「……さぁ、どうだろうな」
ゾンビは一体も倒していないが、少なくとも全く役に立っていないという訳ではなさそうだ。
草むらで発見したお宝は、紫色の風呂敷に包まれていたので開封せずにそのまま回収。
霧姉達と合流する為に、現在グラウンドを横切って校舎側へと移動している。
そこで一つ気になる事があった。
瑠城さんがゾンビ達と交戦していた場所の近くに、衣類が散乱していたのだ。
こんなの先程まではなかった筈だが?
「……コレなんだ?」
「衣類ですよ?」
「それは俺でも見たら分かるよ。何でこんな所に服が転がっているんだ? って聞いているんだよ」
「佐藤さんとジェームスさんが着ていたからですよ」
「誰だよ佐藤――ケフンケフン。いや、何でもない。そうじゃなくて俺が聞きたいのは、何故その佐藤だかジェームスだかの衣服だけが、こんな場所に転がっているのかって事だよ」
あ、危ねぇ。
佐藤とジェームスって誰なんだよ、なんて聞いちまったら、また瑠城さんの変なスイッチが入っちまうじゃねぇか。
「佐藤さんとジェームスさんは私が浄化させましたので、亡骸はありませんよ?」
じょ、浄化?
さも当然かのようにさらりと言われたが、何だそりゃ?
「……あら? その顔……さては雄磨君、ゾンビの浄化の事を知らなかったのですね? ウフフ、ではワタクシめがたーっぷりとお話しして差し上げます」
クソ、結局スイッチ入れちまった。
「ゾンビ達は水が弱点だという事は既にご存知だと思いますが、彼らゾンビ達はウォーターウェポンによる攻撃で一定以上のダメージを受けたり、一定量の水を浴びると、体から白煙を上げて蒸発します。この現象を浄化と呼んでいるのです」
「でもよ、二刀乱舞さんが倒したゾンビ達や、泉さんが狙撃したゾンビ達は体が残っていたぞ?」
「それは水を浴びた量が一定量に満たなかったのと、頭部を破壊して活動を停止させたからです。そういったゾンビ達は体が浄化せずに残るのです。そして――」
瑠城さんが、二刀乱舞さんによって切り刻まれたアレックスの亡骸を指差す。
「アレックス改バベルタイプ.verIIIのバベルタイプというのは、運営が施設で作り上げた、水での浄化に対して極端に耐性を持たせたゾンビなのです。バベルタイプを浄化させようと思うと、一筋縄ではいかないのですよ」
瑠城さんがアサルトライフルで攻撃していた時も、アレックスの体から蒸気は上がっていたみたいだが、ダメージと水の量が足りなかったのか。
セイバーで切り刻まれても浄化しなかったみたいだし、バベルタイプというゾンビは、泉さんがやって見せたように足を狙い撃ちして動きを止めてから戦うか、二刀乱舞さんみたいに頭部を破壊するかした方が良さそうだ。
「それともう一つ、雄磨君は気付いていないかもしれませんが、先程霧奈さんが倒したゾンビの事もお話ししておきます」
「なんだよ、何かおかしな事でもあったか? まぁ霧姉の馬鹿力は異常も異常だけどよ」
「それは……まぁ否定はしませんが、そこではなくて何か気付きませんでしたか? 例えば港に着いてすぐ、霧奈さんが頭を吹き飛ばしたゾンビと、あそこで潰れているゾンビの違いとか」
ん? 何か違うのか?
漁港では頭が弾け飛んで、さっきはぐちゃりと潰されて……オェ、どっちも気持ち悪い。
「ウフフ、如何やら気付けないみたいなのでヒントを差し上げますね。霧奈さんが錨で潰したゾンビからは何が出て来ましたか?」
「んなモン言わせんなよ……。気分悪くなるだろ? 何か色々飛び出していたよ」
紫色の何かとか、白っぽい何かとか。
……瑠城さん、俺を気分悪くさせようとして、ワザと嫌がらせしてんのか?
「そうですねー、いっぱい飛び出していましたね。でも何か足りなくないですか?」
アンタの気遣い以外に足りないモンなんかねぇよ。
「例えば同じように雄磨君を潰しちゃったら、赤いのが出て来ませんか?」
「怖い事言うなよ! ん? 赤いの? そういや……血、血だ。血が出ていなかった」
霧姉は近距離でゾンビを潰した筈なのに、返り血を全く浴びていなかったぞ?
二刀乱舞さんは返り血を浴びていたし、漁港で頭を潰されたゾンビもドクドク血を流していたし。
「あそこで潰れているゾンビのグスマンさんや、佐藤さんジェームスさんは、本日運営側に用意されていたゾンビ達で、彼らを攻撃しても血が出ません。血を流すゾンビというのは、アレックス達のように食事を摂取した場合と、生身だった人間がゾンビになってすぐの場合だけなのですよ」
「へー、そうなのか」
殆ど覚えちゃいねぇが、言われてみれば今日出会ったゾンビ達は、血を流している奴やそうでない奴が居た気がする。
「運営側が用意したゾンビを倒した時に血を流せば、参加者の誰かが犠牲になったのだと分かる、という事ですね」
「へー。成程ねー」
今日のオープン戦の参加者達みたいに、覚えやすい服装とかだったら何となく分かるが、それ以外だと運営側が用意したゾンビなのかそうでないとか、全然区別が付きそうもない。
他のみんなは分かるってのか? スゲーな。
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