第15話 お宝ゲット!


 泉さんに渡したスポーツバッグは、改造に使用する材料や工具類を持ち運ぶ為に使う物が一つ。

 そしてもう一つは俺に手渡された。


 「お宝が沢山手に入るでしょ? 両手が塞がっていたら、いざという時困るじゃない」


 泉さんもアサルトライフルは首から下げている。

 バッグのショルダーストラップを加工して取り付けたみたいだ。

 そして泉さんは歩いている最中も、持ち出した道具を使って何かの部品をコネコネと作成している。

 ホント器用な人だな。


 「前見て歩かないと危ないぞ?」

 「んー、危なくなったら教えてよ」

 「いや、蹴躓いたりするかもしれないし、足もとを見て歩かないと――」

 「んー、危なくなったら教えてよ」


 駄目だ、夢中になってて空返事しか返って来ねぇ。



 俺達は民家を出て住宅街へ向かっている。

 というのも、ゾンビ達の動きに変化が起きたからだ。

 比較的俺達の近くに居たゾンビ達が、住宅街の奥、神社がある方向に移動し始めたのだ。

 この事で先程までゾンビが居た周辺のお宝やウォーターウェポンが、安全に入手出来るようになったというわけだ。


 ゾンビ達が移動し始めた理由は不明だが――


 「ぎぃやぁぁぁぁ!」


 遠くから何度も断末魔が響いて来るので、オープン戦の参加者達がかなり犠牲になっているのだろう。

 移動しているゾンビ達は、吸い寄せられるように一か所に集まりつつある。

 何が起こっているのだろうか?



 「ここだな。この家の仏壇にお宝が飾ってある。近くにゾンビは居ねぇ」

 「よし、私が取って来る!」


 霧姉が一軒の民家に入って行く。

 今度の家は壊すなよ?


 「因みにあそこ、自転車が停まってる家の二階の押し入れには、ちょっと大きめのウォーターウェポンが置いてあるみたいだが、どうする? 取りに行くか?」 

 「んー、危なくなったら教えてよ」


 泉さんは作業に夢中で、俺の話なんぞ聞いちゃいねぇ。


 「近くにゾンビは居ないのですよね? 私が取って来ます」


 瑠城さんが行ってくれるみたいだ。


 「玄関には鍵が掛かっているから……ええっと、鍵は郵便ポストの中、天井部分に貼り付けてあるよ」

 「ウフフ、雄磨君はホントに凄いね。ちょっと待っててね」


 瑠城さんが走って取りに行ってくれたので、俺はゾンビ達の索敵を続ける。


 「た、たたた大変だー雄ちゃん!」


 玄関から霧姉が慌てて飛び出して来た。

 右手にはアタッシュケースを、左手には小箱をそれぞれ握り締めていてる。

 アレ? なんで二つも持って来た?


 「仏壇が置いてある部屋の中央に、コレが置いてあったのだ! 凄いぞー!」


 霧姉が嬉しそうにアタッシュケースを開けると――ぅお、げ、現金だ。

 確かに現金だけど……何かがおかしい。


 「この量だと多分一億はあるぞ! スゲー! やったぞ雄ちゃん!」

 「霧姉あのさ、喜んでいるところ申し訳ねぇが……そのカネ、多分偽札だぞ」


 見た事もない量の札束には、黒い靄が掛かっている。

 そもそも俺がお宝を探して、仏壇に飾ってある物しか探せなかったのに、部屋の中央に置いてあったっていうのもおかしい。


 「仏壇に飾ってあったお宝を、見落とさせる為の罠なんじゃねぇか?」

 「へ? ……じゃ、じゃあ私は、その罠にまんまと引っ掛かったって事か?」

 「まぁそういう事だな。でもちゃんと仏壇に飾られていたお宝も持って来たのだろ? だったら別に――」

 「うわーダッサ―! この私が……この私が運営が仕掛けた罠に、まんまと引っ掛かってしまうとは! ぎゃー! しかも間抜け面を公衆に晒して……恥ずかし! 恥ずかしー!」


 うるさいな。いいじゃねぇか別に。

 霧姉は騒ぎながらジタバタと暴れている。

 この札束が運営の仕掛けた罠だとしたら、俺にはそんな物は通用しない。

 霧姉が仕掛けた姑息な罠を、今までどれだけ回避して来たと思ってんだ。


 しかし今気付いたが、直接俺に危害を加えない罠というのは発見しにくいのだな。

 霧姉が仕掛けていた罠や悪戯は、何処に仕掛けられているのかすぐに把握出来たのに、偽札は置いてある事に気付かなかったぞ?

 今度練習しておかないと駄目だな。

 

 「クソ! こんなモン、こんなモン要らーん!」


 霧姉はアタッシュケースを閉じると、遠心力を加えてぶん投げた。

 屋根を越えて飛んで行き、遥か遠くでガラスが割れる音が聞こえて来たのだが、一体何処まで飛んで行ったのだろうか……。


 「んで? その小箱は何が入っているんだ?」

 「うぅ、まだ開けてない。その、現金に浮かれてしまって……」


 き、霧姉が狼狽えている。

 こんな姿は今まで見た事がないぞ! スゲー、ゾンビハントスゲー!


 霧姉がもたつく手付きで掌サイズの小箱をあけると、中には腕時計が入っていた。

 見た感じお高そうな時計なのだが、俺、時計とか詳しくないんだよな……。


 「その時計、いいヤツなのか?」

 「あ、ああ。高級腕時計だぞ」

 「ふーん。リュックに仕舞っておいていいか?」

 「……雄ちゃんは時計に全然興味がないんだな」


 小箱ごと渡された時計は文字盤が八角形で、時計なのに全体的になんだかネジみたいな印象を受ける。 

 コレが高級時計ねぇ。ホントかよ。

 まぁ金になるなら何でもいいや。


 時計をリュックに仕舞っていると、瑠城さんが体に不釣り合いな程大きなライフル銃を、両手で抱えて走って戻って来た。


 「雄磨君あったよ! 本当に二階の押し入れの中に飾ってあったよ! 凄い凄い!」


 瑠城さんは少し興奮気味だ。

 大事そうに抱えているのは、スナイパーライフルという種類の銃で、銃身が凄く長くて大きなスコープが付いているのが特徴だ。

 最初に発見したオモチャみたいなウォーターウェポンと違って、今度の銃は凄く本格的だ。

 こんなウォーターウェポンもあるんだな。


 「彩ちゃん、アタシの銃と交換しよう! アタシ、狙撃銃の方が得意なのよ。だからお願い!」

 「え? いいの? それ泉さんが作成したウォーターウェポンなのに?」

 「いいのいいの。これからはみんなのウェポンもアタシが面倒見るからさ! チューンアップしなきゃ、いざっていう時にトラブル起こしても困るしね。例えばこのメーカーが作っているAWPはポンプの接続部が弱いから、補強してやらないとすぐに水漏れを起こしちゃう」

 「へー。流石に詳しいね」

 「へへー、ありがとう雄磨。こう見えてもウォーターウェポン業界のトップを目指してるからね」


 自分で作るだけじゃなくて、既製品の情報にも詳しいのか。

 何とも頼もしい限りだ。


 俺も手ぶらじゃなくて、何か銃みたいなの欲しくなって来たな。


 「とにかく、これで私達は初めてのお宝をゲットしたわけだ! 雄ちゃん、次のお宝の場所とウォーターウェポンの場所を教えてくれ!」

 「はいよ」




 ※AWP――狙撃銃の名称です

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