第13話 樫高ゾンビハンター部、始動!
俺達が漁業センターに居る間、ウォーターセイバーを手にした参加者数名が、例のお宝が設置されていた電話ボックスみたいな物に向かって行った。
参加者達は周囲を散々荒らし、一人の男性が雄叫びを上げてガッツポーズを取っていたので、如何やらお宝を発見したみたいだ。
「……雄ちゃんの所為だぞ」
「スマン、次から気を付けるよ。……なぁ、アレは放置したままで良かったのか?」
アレというのは、道端に転がっている、首から上が弾け飛んでしまったゾンビの死体だ。
うぅ、死体を意識するだけでゲロ吐きそうだ……。
傍を通り過ぎる際も、見ないように視線を外して来たのだが、あのまま放置するのは流石に不味くないか?
「放っておけ。あんな物いちいち処理していたら、二時間なんてあっという間に過ぎちゃうじゃないか。競技終了後に運営が片付けてくれるから平気だ。それよりもコレを見てくれ」
やって来たのは、漁業センターのすぐ隣にある公衆トイレの前。
霧姉が指差すのは、沖ノノ島の全体図と写真が数枚載っている観光案内板だ。
沖ノノ島というのは面白い形をしている。
北東から南西に向かって伸びる細長い島で、少し琵琶湖に形が似ていて中央よりやや南西部分がキュッとくびれている。
船上から見えた島の様子と案内板を見る限り、人が住んでいるのはそのくびれた部分と、島の南側の一部だけのようだ。
漁港がある現在地は、くびれた部分の南側。
それ以外の場所は、殆どが山。
自由に動ける場所は思っているよりも狭そうだけど、こんな場所でゾンビハントをするのか。
「この島の地図と、実際目にする島の感覚から、どの辺りがヤバそうか分かるか?」
ヤバそう、か。
少し注意深く探ってみるか。
案内板の島の地図は、至る所で黒い靄が掛って見えている。
何処もかしこもゾンビだらけみたいなのだが、一か所集中的に靄が濃く見える場所がある。
「……ココだ。少学校の前、グラウンド。かなりヤバそうだ」
小学校は島の南側、中央付近にあるのだが、この辺りはかなり濃い靄が掛かっている。
「やはりそうか。因みにどうだ、お宝の場所も学校に偏っていないか?」
お宝の場所? ……うーむ、お宝も色んな場所に配置されているみたいだけど、脳裏に浮かび上がって来る映像は……校舎の隅や、脇に設置された百葉箱の中、グラウンド端の草むらなど、確かに学校方面に偏っている気がする。
「そうみたいだな。何か関係性があるのか?」
「デスアタックの日は、特に高価なお宝を学校方面に偏らせる傾向があるのだ。参加者を一か所に集める為にな」
「エサで
「まぁいいじゃないか。これで最初に学校方面に向かうのは危険だという事が分かったから、当面は住宅街を中心に回ろう。いいな?」
当然だ。学校方面なんて絶対行かん!
「雄磨は本当に凄いなー。何でも分かるんだね!」
「みたいですね。こんなチートプレイヤーがチームに居るなんて……素敵」
俺と霧姉のやり取りを傍で聞いていた泉さんと瑠城さんが、何やら感激している様子。
そうか、二人共俺にこういう
「なぁ雄磨、その能力で近くにあるウォーターウェポンの場所も分かるのか?」
「ああ、分かるぞ? そうだな……ウォーターウェポンそのものは島内にかなり多く設置されているみたいだが、一番近くというなら……そこ、そのT字路の家、……他所の家だから何処かは分からねぇが、多分床の間で、掛け軸の下に飾ってある」
掛け軸の下に飾られているウォーターウェポンと、そこが畳の部屋だという映像は浮かんで来ても、流石に家の中の造りまでは把握出来ねぇ。
「「「「ぅおーーー!!」」」」
ったく、さっきからうっせーな。
何で盛り上がっているのか知らねぇが、スタジアムの方が異常に盛り上がっているみたいだ。
霧姉は俺の方を見てずっとニヤニヤと笑っているし。
また誰かゾンビに噛まれたのか?
「ねー霧ちゃん、行こうよ! アタシは早くウォーターウェポンが欲しいよー」
「そうだな、まずは武器からだな。雄ちゃん、近くにゾンビは居るか?」
「いや、近くには居ねぇ。だが住宅街に入った奥に数匹居るぞ。今のところ動きはねぇが注意しろよ」
この動かないゾンビ達って一体何してんだ?
こういう時ゾンビ映画だと――って俺、ゾンビ映画なんて怖くて見た事なかったわ。ハハハ。
「雄ちゃんはそのままゾンビ達の索敵を続けて、何かおかしな事が起こったらすぐに知らせてくれ。いいな?」
「分かった。そういう事な任せろ」
「よーし、それじゃ行くぞ! 樫高ゾンビハンター部、出撃だー!」
「「「おーう!」」」
こうして俺達の初陣は幕を開けた。
……
「あ、あのー、みんなに聞きたいんだが……ココって道、だよな? 間違ってないよな?」
ウォーターウェポンが設置されている民家の前、T字路で左右を確認すると、道幅が極端に狭かったのだ。
船から降りた場所、漁業センターの前はトラックが通れる程広かったのに、急に道幅が狭くなった。
離島だし、人通りも少ないだろうからこんなものなのか?
「フフフ、雄ちゃん驚け。ここの道はまだ広い方だ」
「は? 嘘だろ?」
広い方ってアンタ、ここでも車が一台ギリギリ通れるくらいの道幅しかないぞ?
「沖ノノ島を知らない奴は道路を見てこう思うのだ。『車が通れないぞ!』ってな」
「実際そうじゃねぇか」
「そもそも車なんぞこの島にはないのだ」
は? く、車がない?
「当時から島内の移動手段は専ら自転車だ。ホラ、アッチもコッチも自転車が停まっているだろ?」
「た、確かに――」
折り畳み式の自転車や、前輪が二つ付いている自転車がやたらと目に付く。
そういや漁業センター脇にも沢山停まっていたな。
「住宅密集地だと、自転車での移動も大変なくらいだぞ」
「そんな狭いのかよ」
「いいか雄ちゃん、ちょっと想像してみろよ? 向かい合う家同士、軒先が重なり合う程狭い路地。隊列を組むどころか、大型の装備品を取り回す事さえ困難な状況で、ゾンビ達が家の二階から飛び降りて来たり、窓や壁を突き破って襲い掛かって来るのだ。生き残れるか?」
無理。絶対無理。
……は? ちょっと待て。壁を突き破って襲って来る? 空から降って来る? 何それ?
「だから沖ノノ島の狭さやゾンビハントの難しさを舐めている参加者は、さっきの黒人男性みたいにすぐに死ぬのだ。気を引き締めて行けよ?」
「オ、オス」
ゾンビハント、想像以上に大変そうだぞ!
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